35「風の影」

★07年2月11日(日)

サラリーマン時代、片時も文庫本を手放すことのできないいわゆる活字中毒者だったのに(湯船に何冊落としてしまったことか・・・)、この商売始めてからは生活に追われに追われ、本どころではなくなってしまった。
いつしか新聞の書評欄みても見知らぬ作家名のオンパレード。(ま、通勤電車と無縁になったというのもひとつの要因ですけど・・・)。

千代田店オープン後も続いた店内整理等もようやくひと段落し、一息ついての一昨日読了したのが、スペインの作家カルロス・ルイス・サフォンの「風の影」(集英社文庫)。
一言でいうと、「読み応えのある大作」。

1945年のバルセロナ。少年ダニエルは古書の中から一冊の忘れ去られた本「風の影」を見つける。その作品に感動したダニエルは無名の著者カラックスのことを知りたいと調べ始めるのだが・・・。

ダニエルの成長とカラックスの数奇な運命、その現代と過去が複雑にからみあいながら19世紀末から1965年までの予測のつかぬ物語が展開。
そのストーリーを追いながら思い出していたのが、かつて古書店で見つけた植草圭之助さんの、文藝春秋社1973年刊「冬の花 悠子」。

黒澤明映画のシナリオをいくつか担当した明治生まれの植草さんの青年期、娼妓との悲恋を描いた自叙伝風の作品。これがせつない。泣けるのだ。
当時直木賞候補にまでもなったらしいが、我輩が手にしその存在を知ったのは古書店入手での1991年。
以来この名作、人に貸し出しては紛失、古書店で再発見繰り返し三冊入手した覚えがある。(ここ数年はとうとう古書店ではみかけなくなってしまったが)。
彼の作品他にも読んでみたいと探してはみたけれど、出版されたのは黒澤明に関する書物が確か1〜2冊のみらしい。
作家としては当時すでに“忘れ去られた”植草さんのことをダニエル少年が「風の影」を見出した時の感激に重なって思い出したのだった。

※ なみに1991年当時読んだ作品のベスト10は、一位が「冬の花」。続いて「新宿鮫 毒猿」(大沢在昌)、「百舌の叫ぶ夜」(逢坂剛)、「フィーバードリーム」(ジョージ・R・R・マーティン)、「ミッドナイト」(ディーン・R・クーンツ)、「逃げる女」(ナンシー・プライス)、「ドキュメント狭山事件」(佐木隆三)、「湿原」(加賀乙彦)、「煙草屋の密室」(ピーター・ラヴゼイ)、「そして扉が閉ざされた」(岡嶋二人)の順だったが、今思い返しても「冬の花」は鮮烈な印象のままである。

そうそう「風の影」は久方ぶりに物語らしい物語を読んだ感だったがいかんせん、あとがきによると「百人近い登場人物」(そんなにいたっけ?)ゆえ、常に脳みそにアルコールが残留している我輩、「あれ、この人だれだったっけ?」とページさかのぼることしばし・・・(ノーマン・メイラーの「裸者と死者」よりはマシでしたが)。
しかし“物語”が満喫できるオススメの一冊!評価4/5。 以上。

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