100「傑作「夜の果てまで」」

08年6月2日(月)

日曜日は「お客さま次第の夜」ってことで早めに閉店可なんだけれど、昨日の日曜は閉店午前4時すぎ。
そのせいと今夜は休みという気の緩みで起床夕方近くに。
もう夕方やし休日もつぶれたしと、今夜は営業することに・・・。
ま、せねばならぬ仕事上の雑用多々ありで、今夜は下記ブログふくめての作業日ですか。

★で、ひさかたぶりの「今夜の本!」

「ベルカ、吠えないのか?」(吉川日出男。文春文庫)
この作者の本は初めて。
キスカ島に残された4頭の日本軍軍用犬を始祖として繁殖した犬たちの第2次大戦から現代に至る人(犬)生記。
犬って敵側に寝返るもんだって初めて知ったけれど、「エンタテイメントと純文学の幸福なハイブリッド」と解説にあり、面白くない箇所が「純文学」なんだろうなぁ。題材はいいのにエンタテイメントに徹してくれてたらと、評価2/5。

「償い」(矢口敦子。幻冬舎文庫)
この作者も初めて。
元脳外科医のホームレスがたどりついた町で殺人事件に遭遇。犯人はかつて自分が命を救った少年ではないかと疑い始め・・・という「心に沁みる、ミステリの隠れた傑作。温かい感動の輪が広がり、40万部突破!」(新聞広告)本。
「こんな面白い」「こんなにも悲しくて、でも温かい」という全国書店員の声というのが「ホンマ、この本のことかぁ?」と思ってしまうのは期待しすぎただけでなく、「救った少年」という題材以外に新味が感じ取れぬせい。ホントの傑作ならばきっと「隠れ」てなぞいなかった?2作目「証し」も売れてるようですけど、3/5。

「ハンニバル・ライジング」(トマス・ハリス。新潮文庫)
墨丸会員320号青銅の魔人サンが貸してくれた、あのレクター博士誕生秘話のこの映画DVD滅法面白く(大戦中の東欧を舞台にした数々の作品自体がドラマチックですが)、映画での不明部分も知りたく読む。
さてその「不明」点、以下・・・

・映画鑑賞中気になって仕方なかった青年期の主人公の左頬の傷。
これは幼少時のあの悲惨な体験で傷つけられた?と映画見直してもその様子もなく、DVD解説篇で俳優自身が子供時代に犬に咬まれた痕と知る。インパクトのあるあの傷、映画の中で使えばよかったのに。・・・ん?老年期のレクター博士に傷あったっけ??

・ドイツ軍協力者たち。
最愛の妹ミーシャを「喰う」かれらのドイツ軍内での立場が映画ではよく分からずで、原作によると彼らは「ヒヴィ」と呼ばれた、リトアニアの対ドイツ協力者。そしてソ連軍が間近に迫った略奪現場で「死体を乗せろ!」、そのあとトラックからその死体を捨て去るそれら「?」の場面は、ソ連軍に攻撃されぬよう赤十字を装っての行為、ということが原作でわかりました。

とにもかくにも映画は原作に遜色のないいらぬ枝葉刈り取ったできばえで、で上巻読んだだけですがもう下巻は買う必要ないでしょう、たぶん。下巻読んでないのと既視感たっぷりの読書ゆえ評価は、?

「恋の姿勢で」(山田太一。新潮文庫)
この題名、そして裏表紙掲載のあらすじだけではゼッタイ買わなかったであろう本です。
もう10年以上も前の作品ゆえ購入済みとは思ったンですが、山田さんファンかつ未読なので手にとってしまいました。
「飛ぶ夢をしばらく見ない」「異人たちとの夏」「遠くの声を捜して」「君を見上げて」など我輩好みの傑作ばかりを書き続けてくれる山田太一さんの、34歳の婚約破棄された美人でもない女と素性不明の中年男との恋愛小説です。

ね?読みたくもないでしょ?
それが読ませるンですわ・・・。
先にあげた日本人作家たちの作品がかすんでしまうほどの、「このふたり、一体どうなんねん?」のストーリー展開に、日曜から月曜にかけての一気読み。寝過ごしたひとつの理由です。4/5。

6月3日(火)

★昨夜は雨&月曜日ってことで、早めに店閉めて来店中の青銅の魔人サンと長居あたりで飲もうかと閉店作業終えたところに、東京に出かけてた市大生Yさんがおみやげ(東京ばな奈)を持って来店。で「こんど一杯おごりますわ」と閉店のお詫び。

が、雨ひどく、「しゃ〜ない、となりで飲もか」と青銅サンと居酒屋そら豆に。
と、そこへ老紳士のサノさん女性連れで来店し「いま行ったら閉まってました」「すみません、今夜は休みの日だったもんで」
・・・雨の月曜もまんざらでもないか、でした。

6月5日(水)

★2日よりつづく「今夜の本!」

「夜の果てまで」(盛田隆二。角川文庫)
この作者も初めてです。
単行本時の題名は「湾岸ラプソディ」。この題名では多分手にしなかったでしょうが、今回のなにかしら哀しみを予感させる文庫版題名と、裏表紙の「著者会心の最高傑作」の文言で手に。

・・・ひっさしぶりに読み進むのがコワイ本でした。
全5百余ページの半ばにさしかかると、「え、もう半分しかない?・・・まだ半分もある!」って気持ち、分かります?
その興味津々の内容で「もう半分しかない」、次の行で、次のページで主人公らに不幸が待ち構えているンではというドキドキ感とそれら期待が最後まで持続するんだろうかとの不安感で「まだ半分も」という「凝縮した物語」を堪能。よくできた連続テレビドラマのような作品で、今年上半期の我がベスト1小説!
そういう意味では我輩好みの恋愛小説の名作、植草圭之助「冬の花 悠子」、佐藤正午「Y」、ハードリー・チェイス「悪女イヴ」、サマセット・モーム「人間の絆」などに匹敵する作品でした。

冒頭、家庭裁判所に、買い物に行くと言って外出したまま帰宅しなかった主婦の「失踪宣告申立書」が提出されます。
「忘れもしない7年前のある日、正午過ぎに入った電話はあの男からかかってきたものにちがいなかった。電話に出た妻は返事もせず、即座に切った。夫は電話の相手に気づいて、一瞬顔色を変えたが、妻の対応に満足し、黙ってうなづいてみせた。妻もうなづいた。確かにうなづいたように見えた。だが、妻は夕刻に買い物に出たまま、二度と戻らなかった」

こうして失踪7年。不在者の死亡が法的に認定されることになります。
そして場面が失踪前にさかのぼり、ある恋愛ドラマが始まるンです。

作者が「リアリズムの名手」と称されるだけあって多彩な登場人物の、そして細やかな生活描写で冒頭から感情移入させてくれる手腕にただただ感服(前述、山田太一さんの小説もかすんでしまった・・・)。
佐藤正午がこの小説のことをこう表現しています。
「このふたりの恋愛を僕たちは知っている。経験したにしろ、一夜の夢に見たにしろ、誰もがここに描かれた恋愛に身に覚えがある。誰もがここを通ってきた。僕たち全員がこのふたりの成れの果てなのだ」

今夕「ブックオフ」で著者の他作品買い占めてきましたが、本書が最高傑作とのことゆえ手にしたとたんもう読む気が・・・。評価5/5。以上。

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