182「奥田英朗さん、復活!」

10年5月28(金)

★「邪魔」(大藪春彦賞受賞)、「最悪」(吉川英治文学新人賞候補)でファンになった奥田英朗さんの新作読了。

上記初期作品以降、著者が描くのはユーモア的小説ばかりで(傑作らしいけど未読)、ゆえに彼の著作から遠ざかっていてのほぼ10年ぶりの奥田版ハード小説。

今回オススメは「オリンピックの身代金」(角川書店)。
時は、東京オリンピック開催を目前に控えた1964年(昭和39年)8月。
五輪警備の責任者である警視庁幹部宅が爆破される。続いて中野の警察学校が。
そして、鳴りを潜めていた爆破魔草加次郎(60年代の迷宮入り事件の実在の犯人。この小説、建築会社やデパート、新聞社など実名で出てくるから迫真的)から、10月10日の国立競技場でのオリンピック開催式妨害予告の脅迫状が届く。警視庁はダイナマイトによる両爆破をガス爆発として隠蔽し、秘密裏に捜査を開始するが・・・。

主人公、秋田の貧農出の東大院生、島崎国男のキャラクターが秀逸。
60年代の日本の生活・世相が生きいきと描かれていることにも瞠目。以前紹介した沖縄での赤ちゃん取り違え事件を描いた「ねじれた絆」(奥野修司。文春文庫)で、同時代に大阪で幼少期を迎えていた我輩、沖縄離島の貧困ぶりに目からウロコでしたが、東京一極集中の60年代、いかに地方が疲弊していたかもふくめ59年生まれの作者がここまで描けるものだと感心していたら、巻末の参考文献一覧に60年代関係の書籍名がずらり。これでこの筆力、さすがです。

二段組5百頁余りの大作ながら、半ばからもう読み終えるのが惜しくなる感は久しぶりで、墨丸から貸し出し中の傑作本、帚木逢生「逃亡」を読んだ墨丸会員388号ちかねぇ感想の「うねりのある小説」(名言です)、本作もそうであろうなぁ、とも思い至りました。

いかんせん、ラストの終息場面に主人公・島崎の心境を描いて欲しかった・・・。でも評価は久しぶりの、5/5。吉川英治文学賞受賞作です。

作者のもう1冊は、「無理」(文藝春秋)。
これは初期作品の系譜的作品です。
さびれた地方都市が舞台
社会福祉事務所の男性職員、東京での大学生活にあこがれる女子高生、詐欺商法で稼ぐ元暴走族の営業マン、新興宗教信者でスーパーの女性保安員、裏社会とつながる市会議員、引きこもりの青年など、それぞれの生活をリアルに描きながら、彼ら全員を大団円に(不幸的に)収束させる筆力は読ませます。ま、よくある手法で新味に欠ける感もありますが。
現在不幸中の我輩にとっては身につまされること多し。浮世を忘れさせてもくれず&前作品にくらべ「うねり」少なしの感で、評価は下がり、4/5。

あ〜、これでまた当分、傑作本に巡りあえないンだろうなぁ〜。 以上。

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