228「Y」と「陽だまりの少女」

11年12月23日(金)

★ そろそろ、クリスマス。

創業時の20年前、墨丸での初めてのクリスマスを迎えようとしていた頃の女性のお客さんとの会話。
「マスター、お願い。クリスマスの飾りつけなんて派手にせんといて・・・」
「反キリスト教徒のわしがするはずがない!」(そういいつつも初詣も行ったことないけど)。

この時期、一人身の男女が墨丸に集います。
そういった方々はこの時期を「クリスマスファシズムの嵐」と呼ぶらしく、いまでも店内クリスマス飾りつけ、比較的質素、です。
それらも、なにもないのを哀れんでお客さん方が持ち寄ってくれたものばかりで・・・。
幸せなカップルの方々、ごめんなさい。

★ 只今、お客さん同士で本の貸し借り、加速度的に進行中。

私など遠方の自宅になかなか帰れない現況ゆえ(オススメ本在庫多々あるんだけれど)、かつて読んだ傑作本、古書店で探し出してはそれを好みそうな方々に回してます。

さて先日「あ、あの面白本もあったわ!」と思い出し、とある文庫本購入。
でも、十数年前に読んだ当時の評価5/5なれど、いまや鮮明に記憶に残っているシーンは2、3箇所。
水上勉の傑作本「飢餓海峡」も(内田吐夢監督、三国連太郎主演の60年代同名映画化作品もオススメ)墨丸会員734号チャン氏に読んでもらい、チャン氏「読後、他の本読む気が起こらなくなりました」との絶賛感想はウッフッフものなんですが、当の私は彼の述べるそのハイライトシーンなどもうまるで覚えていず・・・。

で、これではイカンと今回の購入本、珍しくも再読・・・なのに昨夜から今夜にかけて一気読み。佐藤正午の「Y」(ハルキ文庫)です。

ある晩、一本の電話が男にかかってくる。
相手は「君の親友だ」と名乗るが男には全く覚えがない。
そして送られてきた一枚のフロッピーディスク。
そこには電話の主の奇妙な人生が語られていて、男はいつしかその物語の世界に引き込まれてゆく・・・「この物語は本当の話なのだろうか?」

私など上記の「」の文言でもうゾクゾク。

この本「究極のラブストーリー」との謳い文句もあるけれど、「恋」とはしょせんこんなもの。昨今立て続けに読んでる作品、偶然にもテーマが「異性の闇」「女は異質の生物」「恋愛とはしょせん一過性の精神錯乱」的な恋愛話で、男女の間って真実こんなもんやん・・・と、再読して改めて、悲しく実感。でも、いまからこの本読まれる方、幸せですよ〜。たぶん。

★ 冒頭述べた状況で、私なら絶対買わない本を読む機会が最近富に多し(前回まで連載の「ぐわっ!?」参照)。次の紹介本もそう。

漫画チックな少女イラストの表紙かつ題名が「陽だまりの彼女」(越谷オサム。新潮文庫)。
男ならレジに持ってゆくのも小恥ずかしい体裁本。

貸してくれた墨丸会員388号C嬢は「私としては評価3/5位やねんけど・・・」と。
たぶん、最近店で評判の、単なる恋愛ドラマと読者に思わせといての「ぐわっ!?」的な本ゆえ貸してくれたんでしょうね。

お借りした文庫本は裏表紙のあらすじなどに目を通さず読み始めます。
「たぶん我輩向き」という貸し主さん信頼して。
だからなんの予備知識もなし。
こういう読み方はまったく先が読めないのでよけいゾクゾク。

本書は、学年一のバカでイジメられっ子の中学生少女と、その少女をかばったことから彼女に慕われることになった男子が主人公。
その二人が10年後に偶然再会。
急速に親しくなるのだけれど、彼女には信じられないような秘密が。
そして、「バカ」だった理由も終章で悲しく判明・・・。

最終章、主人公の青年が電車の切符売り場で彼女の両親と偶然出会うシーンなど、もう感涙モノ。
はたしてこの物語は(フランス映画「髪結いの亭主」もそうだけど)ハッピーエンドなのかアンハッピーなのか?
男の立場からいうと「アン・・・」やねぇ。
山本周五郎の名作短編「その木戸を通って」を彷彿ともさせる展開で、私の評価は4/5。

★ 「イニシェーション・ラブ」の鬼才、 乾くるみの本。

「リピート」(文春文庫)
最近立て続けに読んでいる作品中、乾作品ふくめて偶然にもたびたび名があげられているほど有名なタイムスリップ・テーマの「リプレイ」(ケン・グリムウッド。新潮文庫。評価5/5)、その傑作に真正面から挑んだ作品とか。

10人の男女が10ヶ月前にタイムスリップ。
が、一人一人不審な死を迎えるはめに・・・。なぜか?

プロットは好み。が、感情移入できずの人物設定で、評価おまけの4/5。

「Jの神話」(文春文庫)
著者デビュー作かつメフィスト賞受賞作。

全寮制の名門女子高での怪事件の数々。女探偵「黒猫」がその謎を追う。

この内容だけでもう読む気起こらず。
でも、乾さん作品ゆえ読み始めたけれど、後半はもう速読状態(実は速読はできません。この場合、飛ばし読み状態ってこと)。
表面的な人物造形、深みのない文体、荒唐無稽さ(理解しようという気さえ起こらぬゆえか)について行けずで、久方ぶりの1/5。
これで乾作品はボクのなかでもう打ち止めか。&メフィスト賞作品も。 以上。

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