70「狂いかけた、夏」

8.27mon/2007

★現実逃避?

珍しくも一昨日から立て続けに本を読む。
これほどの立て続けは人生初めてか。
読書は数週間前に読んだ、英国のロバート・ウェストール(宮崎駿・訳)「ブラッカムの爆撃機」(岩波書店)以来(本書は呪われた爆撃機の話だが、児童文学ながら大人の我輩が読んでもゾクゾク・・・)

急性ストレス障害とかの朝青龍じゃないけれど、8月に入ってから体も精神も不調。で、予告なく水・木曜日と店を休み出奔。見知らぬ居酒屋で夕刻から酒びたり・・・。
それら影響か、一昨日は玉村豊男「酒場の誕生」(紀伊国屋書店)と三崎亜記「となり町戦争」(集英社文庫)を、昨日は横山秀夫「出口のない海」(講談社文庫)とアンドリュー・クラヴァン「妻という名の見知らぬ女」(角川文庫)を、本日はアイラ・レヴィン「硝子の塔」(扶桑社)と本田靖春「誘拐」(文春文庫)を、店のソファなどに疲弊しきった体横たえ読みふけっていた。
まさに、現実逃避だった。

★酒場

文献上明確な酒場の起源としての、江戸期から現代までの酒場変遷を記した「酒場の誕生」で、67年、斜陽気味のキャバレーから転換した大型バーが大阪で誕生とあった(東京での呼び名はマンモスバー)。ああその時代か、我輩阿倍野のキャバレーでボーイしつつ、大阪ではコンパと呼ばれた各所でカクテル覚えたのは・・・。洋酒喫茶ってのもあった。対する今で言う喫茶店は純喫茶。

その当時の日本酒は、本来のもろみからとれる酒にアルコール、ブドウ糖、水飴、グルタミン酸ソーダなど添加し、三倍の酒をつくる、いわゆる「三増酒」。呑みすぎると必ずひどい二日酔いが待ち受けていた。地酒ブームはようやく85年頃からで、本書を読みながらある意味悲惨な青春時代を思い出していた。

本書の記述に、時代劇などに江戸の居酒屋が出てくるなかの「腰掛式四つ足の長机」は当時皆無とか。長床机に腰掛けるか、畳座敷に座って呑んでいたのが本当らしい。
終章で、「おたく」化し、部屋にこもりがちな男性さしおいて「酒場」の未来を築いていくのは女性同士の旺盛な消費欲と文化的センスである、と論じているのにはまさに!の感。

★傑作は・・・

「となり町戦争」は。すばる新人賞受賞。が、ひそかに行われている隣町との戦争というものが最後まで現実味を帯びてこず(ま、それが作者の狙いかも)消化不良気味。

大戦中の特攻兵器回天乗組員の青春を描いた「出口のない海」は、作者が戦中派でないにもかかわらず、圧倒的なリアル感で涙なしでは読めず。一連の警察小説のみならず、御巣鷹山旅客機墜落事故を巡る地方新聞社の取材活動を題材にした「クライマーズ・ハイ」など、異質の作品も手がける横山サンの力量にまた脱帽の傑作。

二十年位前に読み、題名だけはいまだ覚えている「切り裂き魔の森」(別名義)の作者クラヴァンの「妻という名の見知らぬ女」は、14年もの結婚生活でいまだ仲むつまじい幸福そのものの夫婦が、あるきっかけで夫にふと芽生えた「妻のことを自分は本当に知っていたのか」という疑惑から、嘘と幸福をもつれあわせながら破局を予感させる終章へとつきすすむ展開から目が離せず、目新しい題材ではないけれどこれも一気読みの一冊だった。

「硝子の塔」のレヴィンは、我輩の傑作小説ベスト10に入る「死の接吻」(早川書房)の作者。弱冠24歳でのそのデビュー作以来「ローズマリーの赤ちゃん」「ステップフォードの妻たち」「ブラジルから来た少年」など、話題にはなったけれど処女作上回る作品なく(戯曲「デストラップ」の映画作品は傑作)、久方ぶりの最新作(といっても93年翻訳)
シャロン・ストーン主演で映画化され、それは駄作との評判耳にしたが・・・
20階建ての高級マンションに越してきたヒロインが愛した相手は、そのマンションの若きオーナー。その男、全室に盗撮カメラを仕掛けている異常者とわかり・・・。が、ヒロインに対する同情も、スリラーとしての緊迫感も最後まで芽生えることなく、迎えたラストのオチも目を疑ってしまうほど。で、原作もだった。彼の作品のなかでは最低ではないか。

「誘拐」は、我輩ご贔屓のノンフィクション作家のデビュー作。
63年の「吉展ちゃん誘拐事件」の全容を描き出した力作だ。
その前後だったか、歯科医の本山が誘拐殺害した「雅樹ちゃん事件」があった。新聞一面に「雅樹ちゃん殺し!」と報じられた際、田舎の祖母が我輩が殺されたと思い動転したという逸話がある。奇しくも被害者が我輩と同名、同世代で、当時の何度かの転校時の自己紹介で、「名前は雅樹ちゃん殺しの雅樹です」といえばすぐ子供としては少々こむづかしい綴りの名前を理解してもらえたという話もある。が、「雅樹ちゃん事件」よりいくぶんセンセーショナルな「吉展ちゃん事件」のおかげで、我輩の「事件」のほうはいまや歴史の陰に埋もれてしまった感あり・・・。
本書は、犯人小原保の人生、加害者と被害者の親族のことなどふくめ、事件にかかわる全てをことこまかに再現。なにげなく読み飛ばすような事件の裏側にもこんなドラマが、と再認識。77年文藝春秋読者賞、講談社出版文化賞受賞作。著者の、力道山より強かったという安藤組幹部の生涯を描いた「疵 花形敬とその時代」もオススメ。

★「今夜の名言!」

「妻という名の見知らぬ女」で、主人公が姉に恋人のことを打ち明ける場面から・・・

「彼女はとてもやさしくて、純真で、愛すべき人間なんだ・・・」
「あら、そう、じゃ、もうファックしたのね。そんな人間なんて、実際には一人もいないもの。その人、お金目当てにちがいないわ。(中略)あたしたち、精神遅滞者のレベルの話をしてるの?」

男友達の欠点は許せるというか、それはそれという気持ちで特に問題視などしないものだが、異性となるとどうして理想化し完璧さ(のようなもの)を求めてしまうのだろう。そんな女性なんているはずもないのに・・・。

「狂いかけた、夏」完

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