131「シャドー・ダイバー」

3.25.wed./2009

★レック・ダイバー

アメリカなどではゴーストタウンや忘れ去られたパリの地下都市などの廃墟探索を愛好する団体があるという。
このことを、廃墟をテーマにしたデビッド・マレル著「廃墟ホテル」で知ったのだけれど、今回は「レック・ダイバー」なる人々の存在を知る。ハヤカワ・ノンフィクション文庫、ロバート・カーソン著「シャドー・ダイバー」で(ダサい題名)。

宝探しではなく、沈没した客船や軍艦内部に潜り、記念品として遺物を持ち帰る人々、大西洋を専門に潜るアメリカ北東部の「レック(沈没船)・ダイバー」達の記録だ。

彼らは「モディリアニの描いた顔を思わせる損壊した船の様相に、国民の期待、あるいは船長の死に際の直感、あるいは子供の夢が凍りついた一瞬の物語をみる」ために、真っ暗闇の中で、破損しねじまがった迷路となった船内を泳ぎ回り、巻き上がる泥と崩れ落ちる船体のせいで、いつ死の危険に瀕するかもわからぬまま水没した部屋を探索していく・・・。
以下、印象に残った記述を。

沈没船のエベレストといわれるイタリアの大型客船「アンドレア・ドリア」は1956年沈没。その巨大さから、限られた潜水時間25分のダイビングを10年つづけてもすべてを見極めることができないという。
かつ、水深75メートルの海底に側面を下に横たわっているため船内のナビゲーションが複雑で、方向感覚を失うか、タンクの空気が尽きるか、窒素酔いで正常な判断力を失うかして船内で命を落とすダイバーが後を絶たないとも。

ちなみに水深18メートル以上の沈没船に潜るのを「ディープレック・ダイビング」と呼び、アメリカでは、資格を持つスキューバ・ダイバー千万人のうち、ディープレック・ダイバーは2〜300人。
水深が20メートルより深くなると判断力と運動能力が低下する窒素酔いが始まり、40メートルではほとんどのダイバーの頭は正常に働かなくなり、さらに50〜55メートルに降りると幻覚を見始める。
60メートルで25分間潜ったダイバーは、減圧のため1時間かけて海面に浮上することになり、空気が足りずに窒息死することが分かっていてもそうしなければならず、パニックに陥って「太陽とカモメ」を目指して一目散に浮上するダイバーには、いっそ海底で窒息して死ぬほうがましだといわれる悲惨な減圧症を発症する危険が待ち構えている。

こうした世界で伝説のレック・ダイバー、ジョン・チャタトンは1991年、偶然発見した水深70メートルの海底に横たわる潜水艦にとりつかれる。本書副題が、「深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち」

★謎のUボート

「ドイツ軍のUボートが、ニュージャージーの目と鼻の先にきていた。60人くらいの乗組員を乗せたまま爆発して沈没したのに、だれも、政府も海軍も大学教授も歴史研究家もだれひとり、それがここに沈んでいることさえ知らない」

そうしてダイバーたちはアメリカの、そしてドイツの文献等を調べ上げあげ、ドイツ本土で生存しているUボート乗組員達までにも聞き取り調査を行っていく。
が、そのUボートの艦名はもちろんのこと、その艦の存在を示す記録がなにひとつ見当たらない。もしかすると、大戦末期のヒットラーの脱出船ではないのか・・・。
幾人ものダイバーの死者が出るなかで6年後の1997年、とうとう彼らは切り刻まれた戦史の悲劇に到達・・・。

歴史に素人の男たちが「本物の歴史の謎」を解き明かしていく過程に感服。
かつ大戦末期のUボートの若き乗組員達は日本の特攻隊員のそれに通ずるものがあっての、評価5/5。
以前紹介したジョン・マノック著「Uボート113 最後の航海」などはきっとこのノンフィクションをもとにしたものではないだろうか。

「シャドー・ダイバー」完

<戻る>