164「ブルキナ・ファソの夜」

12.25.fri./2009

★紫のカード

リドル・ストーリーって、ご存知?
「このオチいったいどうなんの?」と、ワクワクしつつ最後の行に目を通すと、な、なんと、そこには結末が、ない?
・・・「あとは読者の判断におまかせします」という形式の物語。

有名なのが「女か虎か」の、確かこんなお話。
姫君と愛し合った青年が王の怒りに触れての刑罰として、ひとつの扉の向こうには飢えた虎が、もうひとつの扉裏には青年に与える美女がいる。さぁ、どちらかの扉を選んで開けろと迫られるわけ。
姫はそれぞれの扉の向こうに何が控えているかを探り当て青年に告げる。
・・・青年は扉を開ける。そこには・・・。

で、物語が終わってしまい・・・姫は愛する青年を救ったのか、それとも嫉妬の余り青年を虎に喰わせてしまったのか。姫が教えた扉はどっちだった?と、読者を悩ませてしまう、な〜んとも後味の悪いもの。

我輩がリドル・ストーリーとは知らず(わざわざ「本書はリドル・ストーリー」なんて明示されてないわけで)、四十年ほど前に読んで(しまった、だな。これは)、悶々とさせられたのが「紫のカード」(作者は忘れた)

ある青年が異国の地で見知らぬ美女に異国語で書かれた紫のカードを手渡される。
ホテルに戻り支配人に読んでもらおうとすると、支配人は顔面蒼白となり青年はホテルから追い出されてしまう。
それが発端で、カードの内容をどうにかして知ろうとすると、様々な人々に嫌われ、あるいは怯えられ、仕方なく自分で解読しようとするのだが全く意味が分からない。
帰国後、偶然にもそれを読むことのできた愛妻には離婚され、それに同情して解読してくれた親友にも去られての失意のどん底のある日、あの見知らぬ美女に再会。
しかし彼女は死の床にあり、彼の懇願に重い口を開こうとしたその瞬間に死んでしまう。そしてそのとき、カードの文字も消えていた・・・。

一説にはこの物語の結末は作者でさえ決めていなかったのでは?といわれている。が、その結末に至るまでの物語にのめりこんだせいでこれには悩まされた。あの、漂流船のマリー・セレスト号事件(発見時、テーブル上の食事がまだ温かいのに乗組員全員が消え去っていた※)を知った子供の頃以来の「真実を知りたい」気持ちに。
※こうした「集団消失事件」を題材にしたディーン・R・クーンツ「ファントム」(ハヤカワ文庫)は傑作。マリー・セレスト号事件は単なる都市伝説だったらしいけど・・・。

★「今夜の本!」

先日古本屋で入手した「飛蝗(バッタ)の農場」(ジェレミー・ドロンフィールド。創元推理文庫)は、確か数年前の宝島社刊「このミステリーがすごい!」海外篇ベスト1の作品。
解説の書き出しも「なんだ、これは?」という言葉で始まり、それで「わ、こんな面白そうなのなんで今まで読まんかったんや?」と・・・。
・・・イギリス片田舎の農場に現われた記憶喪失の男。女農場主は彼の看護をするうちに彼を愛するようになるのだが・・・。

文庫本扉に記載されている主な登場人物はたった3名なのに、なぜか様々な人物と物語が錯綜。五百頁の三分の二までが「なんやねん、これ?短編集みたいやんか!」とイライラ。読んでいて前後の脈絡が理解できないのだ。
で、残り三分の一あたりで、「むむ、そうだったのか!」とページめくる手が早くなってのラスト、この「リドル・ストーリー」的結末・・・。
ベスト1なんだから傑作なんだろうけど、う〜ん、我輩もう少し賢かったら最初からのめりこんだかも、で評価3/5。

立て続けに角川ホラー文庫を読む。
第10回日本ホラー小説大賞「姉飼(あねかい)」(遠藤徹)は、少年が縁日で見てしまった「姉」という見世物が発端の、これは奇書か。
おどろおどろしい姿のその「姉」と呼ばれるモノが串刺しにされ、のた打ち回っている姿に魅せられた少年は、いつしかその「姉」を飼ってみたいとおもうようになり・・・という、我輩にとっては(たいがいの人にとってもだろ)悪趣味極まりない作品で、評価3/5。

栗本薫「家」は、東京郊外の山林を切り開いた造成地に建てた新築家屋にある家族が引っ越してき、その家の主婦が転居早々奇怪な現象に悩まされはじめ・・・。
読み始めて小池真理子の秀作ホラー「墓地を見おろす家」を思い出した。
墓地に囲まれたマンションに越してきた主婦が同様の目にあう物語で、これには終始ゾクゾク。で、本作も冒頭からなかなかの展開で期待。加えて家族の秘密が暴露されるなど新味はあるけれど、説得力なしの終わり方で肩透かし。2/5。

角川ホラーじゃないけれども、かんべむさし「百の眼が輝く」(光文社文庫)は「傑作ホラー集」と称する短編集。
「どこがホラーやねん!」と思わせるドタバタ劇ふくめての9編のうち、秀作は2編か。
グリコ・森永事件を題材にした「数々の不審」は、ある広告マンが「かい人21面相」ではないか?という妙に説得力ある内容で、朝日新聞社刊「グリコ・森永事件」や一橋文哉「闇に消えた怪人」を読みたくなってくるほど。
タイムパラドックスがテーマの「傷、癒えしとき」は、幼い頃のトラウマを探ろうと過去を振り返ってその原因を見つけ心の傷を癒したら、現実世界が少し変わってしまっていた、というこれは酒席での話のねたにもなりそうなオチで、3/5。

これも角川じゃなくって、新潮社の第1回ホラーサスペンス大賞受賞作「そして粛清の扉を」(黒武洋)は、読み始めて「なんでこれで受賞やねん」
卒業式を前日に控えた荒廃した私立高校が舞台。
最悪の不良少年少女が集められた3年D組で国語を教える45歳の女教師が、それも長年、生徒や同僚にバカにされているほどの冴えない女教師が豹変。ナイフや拳銃、爆発物、格闘技を駆使し29人の生徒を人質に取り殺戮し始めるのだ。
スーパーウーマン的な教師や極悪非道な生徒達を殺戮するというデフォルメされた設定にウンザリ気味だったけれど、読み進むとこれがなかなかどうして。
警察との交渉、身代金の受け渡し、マスコミ利用の仕方、そして彼女が変身できた方法(ちと説得力がないけれど、それについてラストで作者がフォロー)そしての意外性と、いままでになかったこの「人質物」は緻密に考え抜かれたサスペンス小説だった。4/5。

第三回日本ホラー小説大賞短編賞佳作「ブルキナ・ファソの夜」(櫻沢順)が久方ぶりの我輩好みの、これはホラーというより大人のファンタジー。短編なのが惜しかったほどの今回いちおしの作品。
日本最大手の旅行代理店に勤める男はある噂を耳にする。
グリーンランド最果ての、地図にも記されてない寒村へのツアーで「キリストとの対面」という企画が。
そこの小さな教会の祭壇の下、ガラス張りの棺のなかに「それ」は氷漬けの姿で眠っているという。そしてそのツアー参加者達は帰国時一挙に十数歳老け込んでしまったにもかかわらず、全員至福の表情であった・・・というもの。
それ以後そうした有り得ぬ内容のツアーをいくつも耳にするのだが、それを扱う旅行会社もツアー客の存在も確認することができないのだった。上層部は主人公に同様のツアーを企画するように命じ、男は全世界の支社から報告されるバカバカしい内容の調査に翻弄されるなか、偶然アフリカ小国の空港で奇妙なモノを見つける。それは・・・!という展開なんだけれど、それら謎のツアー内容がどれも魅力的でワクワク。
併録の、個室で従業員が物語を語る店を舞台にした「ストーリー・バー」ふくめ、こうした夢か幻か的な話を考え出せる作者に敬服。
ただ、角川ホラー文庫にはなぜか解説が付いていないものが多く、作者の詳細不明なのが残念。4/5。

「ブルキナ・ファソの夜」完

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