168「静かなる魅力」

2.13sat/2010

★篠田節子さん

90年代初め、『悪夢のバカンス』(シャーリー・コンラン。新潮文庫)という傑作サバイバル小説があった。
上流階級の女性5人が熱帯のジャングルでのサバイバル生活を余儀なくされる物語で、その漂流場面などでは以前読んだノンフィクション『氷海からの帰還』(流氷漂うオホーツク海に投げ出された北洋漁業船「第71日東丸」乗組員達の絶望的な漂流談)で知った、「海水1と真水2の混合水は無害」なのだよ、と彼女たちにどうにかして教えてやりたくなったほどの極限ドラマだった。

で、先日古本屋で、3人の脳天気な日本人女性達が、南国の島で軽薄なバカンスを楽しむうち動乱に巻き込まれ、小船で島を脱出、漂流。無人島とおぼしき浜辺に漂着し・・・という、あの『悪夢のバカンス』を彷彿とさせる面白そうな文庫本、上巻のみ発見(この時点では「発見」しただけ)

こんなの好き。
で、あちこちの本屋で下巻探せど、ない。どっこにもない。
う〜ん、上巻だけ買ってしまって傑作だと地獄じゃないか!と思いつつも「読みたい!」誘惑に抗しきれず、再度古本屋訪れて上巻のみ購入したのが、篠田節子『コンタクト・ゾーン』(文春文庫。題は「異文化接触地点」という意味らしい)

瞬く間に上巻読み終え、「くそ〜、やっぱり地獄やんか!」と、最終的にはネットで注文か、そんなことし慣れてないし1冊だけというのもなぁと案じつつ、再度書店めぐり。
と、上巻だけ購入した古本屋でその単行本全1冊発見!・・・はよ並べとけよなぁ。

で、今頃初めて知った篠田さん(彼女がデビューした頃、我輩すでにサラリーマン生活から独立。新刊本屋なんてめったに行かなかった)の虜になった(これだから本読みってのはやめられない)

つづけて直木賞受賞作『女たちのジハード』(集英社文庫。普段なら手に取らないであろう、5人のOLの人生ドラマ)、『聖域』(講談社文庫。未完の原稿を偶然見つけた文芸編集者がその得体の知れぬ魅力に取り付かれ失踪した女流作家の行方を捜し求めるのだが・・・)、山本周五郎賞受賞作『ゴサインタン』(文春文庫。嫁のきてがない農家の中年ダメ男が仕方なくネパール人の娘と見合い結婚。その娘の奇矯な振る舞いで平凡な生活が狂い始め・・・)、すばる新人賞受賞作『絹の変容』(集英社文庫。偶然、不思議な糸を吐く野蚕を発見した男はその魅力に憑かれて・・・)、『贋作師』(日本画家の大家の死で生じた贋作疑惑を追う女性絵画修復家)を読破。

彼女の作品、総じて大きな盛り上がりはないけれど、たるみのないその緻密な構成とそれぞれ視点の違うテーマ(これがまことに興味深い)に対する取材力にページをめくる手がとまらず。いうなれば「静かなる魅力」にあふれているわけ。で、評価4/5。
(初期作品の「絹の変容」「贋作師」は、他作品が特異ゆえ、そのSF、ミステリータッチなど凡庸に思えてしまっての評価3/5ですが)

手元に未読の彼女の作品が3冊残っている。
が、いままた「聖域」「ゴサインタン」につづく〈神の領域〉を描いた三部作目の『弥勒』を探し回っている・・・。

★「今夜の本!」etc

その他、今年読んだ本。
「パンドラの火花」(黒武洋。新潮文庫)
昨年紹介したホラーサスペンス大賞受賞作「そして粛清の扉を」の作者の第三作。
死刑制度が廃止された未来、すでに判決が確定していた死刑囚への対策として、本人を過去へタイムスリップさせ、殺人事件を起こす若き自分に対して年老いた自分が思いとどまるよう説得させるという物語。
過去での到着地点が、未来も今もその存在が変わらぬ仁徳天皇陵などという発想(タイムスリップした場所が池のど真ん中だったりしたら大変だもの)に、な〜るほど。4/5。

「島抜け」(吉村昭。新潮文庫)
江戸時代、講釈師が三人の流人とともに脱島したという10行ほどの記述から作者は各地を訪れ全容を解明。その取材力と刑罰としての「島流し」の実情に目からうろこ。4/5。

アンソロジー集2冊「悪魔のような女」(ハルキ文庫)、「七つの怖い扉」(新潮文庫)は、駄作が1篇でも入っているとこの手の作品集、俄然魅力半減。3/5。

・・・サラリーマン時代の我輩の年賀状は、その年に読んだ本のベスト10の紹介。で今年からそれを復活。年始に過去1年間読破のベスト本を紹介したいと
計画。皆さんも面白本、どしどし紹介してくださいね!

「静かなる魅力」完

<戻る>