290「ついている、男」

4.2thu/2015

★「洗い場のオバサン」

堺・砂道町の三角ビルでの出来事を237でご紹介した際、「別のお話は後日に」と締めくくり終わったままでした。
で、前回の「ついてきた、女」を機に今回はその別のお話、「ついている、男」です。

三角ビルで喫茶部のウェイター兼調理からレストラン部の黒服ウェイターに昇格した私はとある日、レストラン洗い場のオバサンに声かけられました。
「スミちゃん、休憩時間に裏の部屋に来て」と。

テーブル席の他に畳敷き個室もあり、そこに来てくれというのです。
支配人やコック長に呼ばれたならドキドキ、同僚の若きウェイトレスにならばワクワクだけれども、当時二十歳位の私にとってはるか年上の、それも黒のゴム引きのでっかい前掛けした洗い場のオバサンになら・・・恐る恐る出向きました。

とオバサン、すでに座敷で正座しておられました。
テーブル挟んで私は向かい側にに座りました。
すると、「オバサン、気になってるの」と言いつつ私の背後に回り込み、両肩にそっと手を置いたのです(有馬稲子や岸恵子みたいな元美人女優オバァサンでもドキドキだけど・・・その方、笠置シズ子タイプで)
そしていわく、「スミちゃん、若いのに時々ため息ついてるでしょ?」
そう指摘されるまで自分としては気づいてもいませんでした。
「オバサン、それが気になってて。みてあげる」と私の背中を円を書くようにさすり始め、「オバサン、霊について少し分かるの」

※今でも無意識にため息つくこと多々あり、お客さんに注意されるたびにこのお話しして弁解中。

で、さすり終わっていわく、「若くて健康的で、なのにため息・・・それはね、スミちゃんに背後霊が憑いてるの」
「え〜!怖いやつ〜?」
「いえいえ、スミちゃんを守ってくださってる祖先の霊、守護霊です・・・でもその方は昔の侍で、誤って人を殺めてしまって、その後悔の念でいまだ成仏できずにいう。で、その方があなたを通してため息をついてらっしゃるの・・・」

う〜む、もう昔のことゆえそのことに対しどう対処すれば良いのか教えてくださったはず。なんだけれど、前回の話のように地縛霊阻止の「盛り塩」さえもいつしか交換忘れカチンカチンに固まらせてしまう我輩ゆえ、対処法、もう忘れてしまって・・・でも、侍と聞くとなんとなく心強くもあり、かつ思い起こせば「守ってくれてる」ような数々の出来事が・・・そのひとつというのが・・・

★「柿の木で」

高校時代、学年のハイキングで近郊の山に登ることになりました。
その山の麓、一軒の農家の庭先にたわわに実った柿の木が。
で我輩、友人らに「ちょっと待っとれ」と柿の木によじ登り、柿の実もいでは学生白シャッの懐に次々と入れていきました。
で、「さぁ降りよう」と下見ると、お婆さんが(たぶんその農家の)後ろ手組んで我輩を見上げているではありませんか!
・・・友人らは姿形もありません。
すごすごと木から降り、懐からひとつづつ柿取り出しながら「すみません」と、無言のお婆さんに手渡し勘弁してもらいました。

友人らは笑いこらえながら岩陰に隠れてい、「お前ら声かけてくれよ〜」と愚痴りながら柿のクズで汚れたシャツを脱ぎはたいて・・・そ〜して山の頂上へ。
山のてっぺんから麓の農家の柿の木が見えます。
「おお、我が犯罪現場が一望やん!アハハ」と、ふと視線移すと、先ほどの岩に白いものが?
「わ!わしのシャツ、あそこに干したままやん!」

ハイキングは山の反対側に降りるルートで農家はもう通りません。
貧乏下宿生活かつシャツ一枚でもおろそかにできない時代でした。
で、友人のFクンが(283「屋根裏という名の城」のFクン)、「今夜バイクで取りに行こ!」

★「そしての雨」

彼の運転するバイクで無事回収できました。
帰り道、「よし、わしが運転したる」と無免許ながら交代。
今でも覚えてるアホな我がひと言、夜空見上げて「晴れてんのに星みえんなぁ?」
Fクン「あれ、曇ってんねんで」
夜空一面の明るく見えた白いそれは雨雲でした・・・と、雨が降り出し、その中を疾走!雨で濡れて光る路面目印に疾走!

と、Fクン「スミちゃん止まれ!止まれ!」
「何いうてんねん!」ととりあえずブレーキかけると・・・バイク前輪が半分、崖に向かって道路からはみ出てて・・・。

雨で濡れたメガネ越しにヘッドライトで光る濡れた路面見つめつつ右カーブに差し掛かり、でも左側の川は直進していて・・・。
そ〜なんです。
道路とその川の両方とも濡れて光り、私は川の表面を道路と勘違いしてまっすぐ突っ走っていたわけです。
この時、Fクンが前方を見てなかったら、止まれのひと言が一瞬遅かったら、ブレーキかけるのが一瞬遅かったら・・・です。

洗い場のオバサンにいわれ思い起こす「守護霊のおかげかも」のほんの一例です。バイク事故で一命とりとめた話は他に二件はありますが・・・。
この様に助けられる?出来事の前に、常に自分で招き寄せた無軌道、無分別、無作為、無計画、向こう見ずかつ浅薄極まりない数々のアホ行動によるトラブルの結果の救済で、それらを数えればもう両手の指で足りぬほど・・・(あ、我が妻リ・フジンとの結婚も?)
アホでしょ?分かってます、三つ子の魂百まで。もう死ぬまで治りません・・・あ、こんな我輩ゆえご先祖さま、成仏しようにもできん一因かも。申し訳ございません・・・。

で、今回のお話はホントは「ついてくださってる、ご先祖さま」でしょうが、前回の題名と関連付けての表題と・・・またまたゴメンナサイ、おサムライ様さま〜!(おちょくったらバチあたるぞ!)

★「今夜の本!」

個人的には本屋で(その題名とあらすじだけでは)「手にとらんやろなぁ」の今回の三冊。
墨丸会員874号ジュンちゃんにお借りした文庫本です、が・・・

瀬尾まいこ「戸村飯店 青春100連発」(文春文庫)
大阪下町、大衆向け中華屋の息子兄弟が主人公。
顔も性格も頭の良さも異なる、仲良くも不仲でもない兄弟が東京と大阪に分かれて住み始めたことから心を通わせ始める、ほのぼの青春小説。坪田譲治文学賞受賞作・・・。
別れてからのそれぞれの青春、特に冒頭では表面的な人物像だった兄の心模様描かれる東京生活が読ませます。大阪弁をしゃべるだけで面白がられる描写や(我輩も経験ありで)大阪の我孫子商店街なんてのが出てくるのにも親しみ感じ、評価は4/5。

江國香織「赤い長靴」(文春文庫)
結婚して10年。子供のいない夫婦の、それもダンナは「うん」「ああ」としか口を開かぬ会話のない生活。でもなぜか冷め切ってもいないその日々が淡々と綴られ・・・。
正直、ページ開いてすぐにその物語性のなさに「読むのやめ」とページを閉じました。でも十数分後、なぜか気になり・・・完読。終始何かが起こりそうな予感抱かせつつ終わってしまう連作短編で、解説にあるそれが「少し怖い」というものなんでしょうか?でも妙に心に残る作品で、3/5。

吉田篤弘「小さな男 静かな声」(中公文庫)
デパートの寝具売り場に勤める「小さな男」と深夜ラジオの女性パーソナリティ「静かな声」、この二人の日常が交互に語られ・・・。
今回の三冊のうち、最初に読み始めて最後に読み終わった作品。
前回紹介の「その女アレックス」での小男警部の登場で我輩「小男トラウマ」ゆえ(この事についてはいつかココに記したい。そんな嫌な思い出話は山ほどあるけれど、思い出したくないのでなかなか掲載できず)、遅々と読み進めずでしたけれど、続けて今回も小男登場で、です。
冒頭の小男の章ではや挫折し(文章もくどい。小男らしく?)、2章の「静かな声」で読書意欲復活。で、「静かな声」の章だけ読み続け、最終章で「ああ!なるほど!」と「小さな男」読み直してしまい(というより、読み飛ばし)、完読。
「静かな声」の静香さん、友人のミヤトウさん、「支度中」という名の居酒屋の客虹子さんら、登場する女性たちのなんと魅力的なこと。こんな方たちと知り合いたい、かつ一行一行を大切に読みたくもなる「静かな声」の章。その章だけ、評価4/5。今回、他の著書をも読んでみたいと思わせられた作者でもあります。

★「今夜の合言葉!」

「静かな声」
で、サービスドリンクorつきだしプレゼント。

「ついている、男」完

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