308「恐るべき空白」変身

12.25fri/2015

★変身

いわゆる急性期病棟には11日間いました。
でもその日々のことはほとんど記憶に残っていません。
我輩のような脳出血や脳梗塞(ふくめて脳卒中という)の患者は入院前後の記憶がほぼ失われているとか。

覚えているのは、最上階のわが病室窓からかろうじて見ることのできた近隣マンションビル屋上の巨大看板、そのただ単に「(株)NKグループ」(だったっけ?と、毎日目にしていたはずなのにこのように記憶不確か)とだけ書かれたそれ。「いったい何の会社なんだろう」と目にするたびに疑問符。看護婦さんに聞いても関心なさそうに「さぁ、パチンコ屋さんなんですかねぇ」と、これまた日頃気にしていないのが我輩としては不思議。

数日間の寝たきり点滴生活終えようやくそのフロアの20数人ほど収容できる患者用食堂に車椅子押され行けるようになると、男性患者の一人が壁に向かって座らされているのに気づきました。なぜかはすぐ判明。
その方、大声で「ああ〜!おお〜!」と食事中にわめき続けてるんです。
コレまた看護婦さんに聞いてみました「あの人はわざと叫んでるんですか?」「いえ、ご病気で」・・・目の前の患者はよだれ垂らし続け、横の人は口の周りやテーブルに食べかすくっつけたり撒き散らしたりと、まるで精神病棟での食事のようで・・・。

そのせいでというのではないけれど、食事がまったく喉を通りません。
子供の頃から「病院食はマズイ」と聞いてはいましたが、時代は流れすべてが進歩してるはずなのにコレほどとはと思っていると、ある時気づきました。
それら食材がすべて無味だったのです。

無味?
そう、脳出血のせいで身体の左側が麻痺し、左手は力入らずもちろん歩くことも出来きずして、顔面左側も痺れていたのです。で、付随する舌も痺れていたわけで、なんと味覚が喪失していたのです。
わかりやすく言うと、抜歯の際の麻酔が24時間効きっぱなしってな状態。

白米派の我輩、自宅でコメの種類が変わるとすぐ分かるほど、ヘビースモーカーなのに味覚はまぁ敏感なほうでした。なのに、病院食の白米口にすると綿を口に詰め込んだような違和感。かつ惣菜はというと茶色一色の、我輩の苦手な煮物ばかり・・・。
後日談ですが、リハビリ帰りに食堂に入ろうとした時、いつもの煮物の匂いが漂ってき「ああ、またか・・・」と食堂に足踏み入れたとたん、雨に濡れた野良犬の毛の匂いが。
いったい今夜の煮物は何なのだ?と恐る恐る惣菜の食器蓋持ち上げてみると、鯖の味噌煮?・・・なんでこれが犬の濡れた毛の匂いなん?(臭覚健在なり?)

こうしてこの病院でいた期間、ほとんど飲まず喰わず。
飲まずというのは、感覚神経冒されてるため空腹感の喪失(!)と共になんと喉の渇きさえもが自覚出来なくなっていたのであります。
飲まず喰わずでいながら空腹も喉の渇きも感じぬその未知なる世界による更なる我が変身については 次回!

「恐るべき空白」つづく

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