359「今夜の本!」4/2017

5.1.mon./2017

ガジュ丸評価基準。
5〜4が「秀作以上ライン」、3.5は「佳作」、3は「普通」、2〜1は「駄作ライン」。NF=ノンフィクション。※=再読作品。

★「今夜の本!」

01.「ヤクザが店にやってきた」NF/宮本照夫/新潮文庫/3.5
02.「凶悪 ある死刑囚の告発」NF/新潮45 編集部編/新潮文庫/3.5
03.「尋問請負人」マーク・アレン・スミス/ハヤカワ文庫/3.0
04.「ジョイランド」スティーブン・キング/文春文庫/3.5
05.「怪談 黄泉からの招待状」小説新潮 編集部編/新潮文庫/?
06.「闇に香る嘘」下村敦史/講談社文庫/4.0 [江戸川乱歩賞]
07.「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」/豊田正義/新潮文庫/? NF
08.「嘘神」三田村志郎/角川ホラー文庫/3.5 [日本ホラー小説大賞長編賞]
09.「女魔術師」岡本綺堂/光文社文庫/3.5
10.「細い線」エドワード・アタイヤ/ハヤカワ文庫/3.0 ※
11.「検視官」パトリシア・コーンウェル/講談社文庫/3.5 [MWA処女作大賞]etc

★評価 その壱

作家別七短編のうち二編だけ「優」というのは一冊の本としてはどう評価すればいいのだろ?
元の掲載誌「小説新潮」がか、それとも本書の編集者が問題なのか、二編以外はすべて評価1〜2程度というその短編集「怪談」
注目の二編は、殺人や自殺を目撃できるという秘密のツアーに潜入取材した記者の恐怖を描いた長江俊和「原罪SHOW」(※)、パーテイで知り合った女と交際し始めた男が女の言動の奇妙さに気づき縁を切ったところ、夜な夜な夢に女が現れ・・・という三津田信三「夢の家」(※2)にはゾクゾク。このお二人の他作品、読みたし!で、以下・・。

※ 深夜テレビで長江俊和さん脚本の番組「放送禁止」を初めて観た。
「原罪SHOW」読み終えてすぐのことで、これは偶然のこと。
偶然といえば、週刊誌書評で折原一の20年以上も前の作品「異人たちの館」が傑作として取り上げられていた。我が書庫にあるやなしや、読了済みか否かも不明のまま図書館に用ありゆえついでにそこでチェック・・・なかった。
図書館出る際に目に止まった、無料持ち帰りOKのリサイクル本コーナー。なんとそこに「異人たちの館」単行本が!こりゃ奇跡でしょ?この運にあやかって「宝くじ」買おうと決心。図書館出たら買うこと忘れてしまってた・・・アホやん?

さて我輩観た「放送禁止」、ある大衆食堂の日常を追ったというドキュメント。
何らかの事情でお蔵入りとなったその番組を今回放映とのふれこみで、司会者が「画面の隅々を目を皿のようにして注意してみていてください。お蔵入りの原因が・・・」云々で始まって間もなく、「くだらん番組やなぁ」と。
ドキュメンタリーとしては何を描きたいのかよく分からぬし、ドラマとしては雑すぎるし・・・と、ラストで「あ、あ、あ!」
その「不出来さ」すべてが伏線だったのだ。
この作品、フェイク(嘘)・ドキュメンタリーというらしく、フェイクと知らずに観たおかげで秀作の感となる。

★ここで、今月の「断念!本」
(本や映画の読んだり観たりを「面白くなさそう」と中断してしまった作品欄が「断念!」シリーズです)

1.「禍家」三津田信三/光文社文庫 ※2
ナニかがいる怪しげな借家に越してきた少年の怪談話なれど、心理的恐怖感ゼロ。前述短編集での作家の作・・・。
2.「シャイニングガール」ローレンス・ビュークス/ハヤカワ文庫
タイムトラベラーの殺人鬼が未来の女たちを襲う・・・訳文理解しきれず挫折。

★「原作vs映画」
映像作品もしくは原作の、どちらが「優」?

「女の中にいる他人」吉本昌弘脚本TVドラマ○ vs 「細い線」エドワード・アタイヤ原作△

瀬戸朝香主演のNHK連続ドラマと1951年出版の原作本の対決。
親友の妻と愛人関係の男がその妻を誤って殺害。男は罪悪感に責めさいなまれ・・・という原作は、名匠・成瀬巳喜男監督の劇場映画やTVドラマ版がいくつかあるほどの名作らしい。が、再読してみたその原作、現代では単純といってもいい筋書き。犯人の心理描写に復讐や恐喝からませ物語を膨らませているのがTV版。これは見ごたえありだった。

★評価 その弐

こういう作品はどう評価すれば・・・が、ノンフィクション「消された一家」
とてもじゃないけれど「面白かった」なんて不謹慎すぎて・・・。

事件発覚時の報道でもあまりにも残酷な事件ゆえ表現方法が極めて困難といわれたそうだ。精力的に取材し新聞連載した記者は「朝から気持ち悪くなる記事を読ませるな!」との読者からのクレームを受けたというほどの異常な事件の顛末記。
5歳と10歳の子をふくめ親族7人を互いに殺害させ(本人は手をくださず)、死体を解体、肉も骨もすり潰し煮込んでフェリーから海に捨て続けた、愛想のいい善人顏の(元警察官までをも籠絡したあと殺害するほどの)天才殺人鬼・松永太の悪魔的所業。それを本書で知ると(今月のノンフィクション「凶悪」で"先生"と慕われていた三上静男も同じく)、世の人権派のいう生まれながらの悪人はいない、加害者にも人権あり、死刑廃止すべしなどの弁がちゃんちゃら可笑しくなってくる。

松永いわく「私の解体方法はオリジナルです。魚料理の本を読んで応用し、佃煮を作る要領でやりました」

★乱歩賞作品で・・・

我輩にとってなぜか「!」作品にはお目にかからぬままの乱歩賞作品。
が、「選考委員、全員が推した!」というだけあって「闇に香る嘘」の世界には引き込まれてしまった。

3月紹介の乱歩賞作「左手に告げるなかれ」での万引き描写同様、中年になってから盲目となった男の闇の生活描写に引き込まれる。見えないことからの疑心暗鬼から「目の前の男は、本当に実の兄なのか?」とのその疑念自体がもう面白さをあらわしていて・・・。フィクション部門で今月のオススメ作。

★ようやくの、P・コーンウェル

文中「ポケベル」なんて言葉がでてきたので奥付けみてみると、翻訳初版が1992年。我輩手元のは09年の58刷版。そして読み終えたのが本年17年・・・。

当初から傑作と聞いてはいたけれど(09年で58刷なんだから)、猟奇殺人ってテーマが非現実的であまり好きでなく(今日では現実的過ぎるけど)、ページ開くまで結局20年以上もかかってしまったというコーンウェル処女作「検視官」
バージニア州の女性検視局長ケイ・スカーペック主人公の、いまや何冊出版されてるの?と戸惑ってしまうほどの人気シリーズ。が、20数年も経つと展開にさすが新味感じられず、「ああ、いまごろ読んでもったいないことした」の感。

★4月の推薦作!

「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」!

「今夜の本!」4/2017 完

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