353「今夜の本!」(心にナイフをしのばせて)may/2017

「SUMIMARU'S BAR」から「書庫珈琲」HPへの移行のため、掲載が大幅に遅れました。
「書庫珈琲」店舗はいまだ開設準備の段階ですが、HPは墨丸会員342号ケンちゃんご協力により、6月19日スタート準備に至りました。懐かしのフォトギャラリーなんぞも新設しました。
これからも「墨丸」どうかよろしくお願いいたします。

6.21wed//2017

ガジュ丸評価基準。
5〜4が「秀作以上ライン」(5は「ぜひ!」的作品)、3.5は「損ナシの佳作」、3は「普通」、2〜1は「駄作ライン」
NF=ノンフィクション。※=再読作品。

★「今夜の本!」

01.「少年A 14歳の肖像」高山文彦/新潮文庫/NF/4.0
02.「黒い看護婦 福岡四人組保険金連続殺人」森功/新潮文庫/NF/2.0
03.「明日なき身」岡田睦/講談社/NF/3.0
04.「心にナイフをしのばせて」奥野修司/文藝春秋・文春文庫/NF/5.0
05.「絶歌 神戸連続児童殺傷事件」元少年A/太田出版NF//3.5
06.「ヘッド・ダウン」スティーヴン・キング/文藝春秋/3.0
07.「まさかの結末」E・W・ハイネ/扶桑社ミステリー/3.0
08.「たった一人の生還 たか号漂流二十七日間の闘い」佐野三治/新潮文庫/NF/4.0
09.「仲蔵狂乱」松井今朝子/講談社文庫/4.0
10.「夜想」貫井徳郎/文春文庫/3.5
11.「聖なる怪物たち」河原れん/幻冬舎文庫/3.0
12.「こわれもの」浦賀和宏/徳間文庫/3.5
13.「闇の歯車」藤沢周平/講談社文庫/3.5

★オカダボクを探して・・・。

通常の文庫本の二倍ほどもする価格設定はどうしてなんだろ?講談社文芸文庫って。
で、苦手な「純文学」ということもあり購入断念。
それは、雑誌か何かの新刊紹介で知った岡田睦の短編集。
知らぬ作家だ。
1932年、東京生まれ。慶應義塾大学卒。文筆業。
「読んでみたい」と思ったのは、その略歴の最後に、現在「行方不明」とあったからである。

で、最近通うようになった市立図書館の書庫から係員に探し出しもらったのが、講談社06年12月第1版の単行本「明日なき身」。04年から06年にかけて「群像」「新潮」など文芸誌に掲載された四編の短編集。図書館在庫はそれ一冊のみ。書庫保管というのだからあまり貸し出されない、知られていない作家なんだろうか。事実、知られていないらしいけど。

私小説である。
三度の離婚経験者。最後の妻の持ち家から追い出されることとなり、日頃服用している睡眠薬を嚥み過ぎたことから「自殺の可能性あり」と精神保険福祉法が適用されての生活保護費受給者に(いいこと知った・・・)
セイホ支給日前に持ち金なくなればセブン-イレブンのオニギリ百円のを一日ひとつ、もしくは数日何も喰わずに過ごす。そのくせマイルドセブンなんて高級タバコをカートン買い。我輩ガジュ丸なんてオニギリと最低ランクのエコー一個ずつ買いだぞ。
調理せぬことから自らガスを止め(といってもガス会社に「使ってませんね、なら止めましょか」と助言されて)、夏場はタバコを一本分ふかす時間水風呂に浸かるだけで冬は風呂に入らず、日頃歯も磨かず顔も洗わずの「クサい」と人に言われる、そんな生活のことが延々と綴られている。
これはまぁ、今の世で言うブログだな、オチのない話のアナログの。

以前記した「25%の確率」の話で、「ああ、こんな人いるいる。理解できん、いや理解などしたくもないし知り合いたくもないタイプ」を思わせる記述もある。我輩の弱点は往々にしてこのタイプ、個性的だと勘違いし知り合ってから後悔することだが、例えば、以下・・・

三度もの結婚もさることながら(我輩など一度でもうウンザリなのに)、行きつけのコンビニ女店員になぜか避けられるのが気になり、わざわざ事務所の店長に理由を問いただすのだが明確な返答が得られない。で、コンビニ本部にまで電話して「なぜなんでしょう」「注意しておきます」の繰り返し。ヘルパーにまで同行してもらい対応の改善を願い出ようとする(ヘルパーは他のコンビニを利用すればと忠告するが耳を貸さず、ヘルパーもうんざりしているようだ)
最後は店長に「店に来るな」とまでいわれ、「自分はなにもしていないのに・・・」と気にし続けて、話は終わる。読んでる方が気になってしまう終わり方だ。
また、正月元旦、寒くてしょうがないとゴミ箱代わりの段ボール箱に溜め込んだ鼻をかんだティッシュに火をつけ暖を取ろうとし、アパートの部屋を焼失させてしまう。当たり前だ。

この方、作家として、いやそれ以前に人間としての「矜持」も「常識」もなく何かが欠落しているようだ。火事の場合も「大変なことを」の意識の記述もなく・・・。人の感情を理解できない精神病質的な面を持っておられるんじゃないかとさえ思えてくる。
小説も結局ナニを言いたいのかよく分からずに終わり・・・それが「ブンガク」と言ってしまえばこれもまた終わりなんだけど・・・。
マンガ家の吾妻ひでおは、うつ病で家庭も仕事も投げ出してホームレスになった体験を描いた「失踪日記」(イースト・プレス刊)冒頭「この漫画は人生をポジティブに見つめ、なるべくリアリズムを排除して描いています」と作家魂失わず、それが幾多もの賞を受賞する作品に昇華したと思えつい比較してしまったんだけど・・・。

でも我輩、本書読み終え書店に走る。
あの講談社文芸文庫新刊で岡田睦の最後の作品にはナニが書かれているのか、失踪の原因など少しは分かるんじゃないかと立ち読みしようと。
でもすでに買われてしまったのか、書棚には見当たらなかった(う〜む、読まれる方いらっしゃるんだ)
こうして気にさせられるという点ではこの本、価値ありだったかな。いや、価値アリだ。

★猿でもできる反省だけど・・・

小口径の拳銃で頭ではなく胸を射って自決しそこねたA級戦犯東条英機氏のこと、長年誤解していたかもで・・・。

銃は女婿の少佐が玉音放送の後、自決に使った銃らしく、頭を射たなかったのは米軍が自分の大きく損壊した死体写真を見世物にすると予想。かねてから心臓の位置に印をつけ、義理の息子が命を絶った銃を使うと決めていたという。ただ使い慣れない銃のため、手元が狂ったのだという説を最近知った。

タカ派の評論家までもがその自決未遂について恥ずべきことのように述べていたもので、巷で言われた「死ぬ気がなかった」「銃の撃ち方も知らぬ陸軍大将」などの嘲笑を我輩鵜呑みにしていたわけだ。戦中は庶民にも人気だった東条サンに対し戦後は手のひら返すように罵詈雑言浴びせた当時の民衆と我輩も変わらぬわけで・・・。
今まで偏った見方をしていたかもの、例えば戦中のノモンハン事件の辻政信参謀、インパール作戦の牟田口廉也中将、東京大空襲のカーチス・ルメイ将軍らに対して、中国での百人斬り競争や南京事件、韓国の慰安婦問題、戦中戦後の沖縄に関すること等など、その時代、現場にいてさえ真実は我ら庶民にとっては藪の中であったかもと思うと、迂闊には感想などもう述べられぬと・・・でも、左派系の人々は、生理的にやはりイヤですけど。

★で、猿でもできる反省から・・・

で今回、現代の事件について様々な立場から書かれた作品を読んでみようと・・・。

酒鬼薔薇事件を扱った「少年A 14歳の肖像」「絶歌 神戸連続児童殺傷事件」では、一読「一歩誤った子育ての恐ろしさ」「更生の難しさ」をまず思ってしまったけれど、続く「心にナイフをしのばせて」ではそれら感想など、はたまたなんて軽々しいものだったか、と。

この作品、(先述の)書店で岡田睦の本の隣に並べられていて気づいたもの。
作者は以前紹介した沖縄での赤ちゃん取り違え事件を取り上げた傑作ノンフィクション「ねじれた絆」の著者・奥野修司さん。
興味をいだいたのは、「1969年の酒鬼薔薇事件」といわれる、中学同級生Aに殺害された少年の母が事件後、何の保証もなきまま極貧の生活に陥っての地獄の生涯なのに対し、加害者Aは少年院出所後司法試験に受かり、なんと弁護士となり妻も子もいる裕福な生活を享受しているという、犯罪被害者の側から事件を検証しているという点。くどくど言うまい、とりあえず書店で本書手に取り「あとがき」「文庫版あとがき」「解説」のいずれかに目を通して欲しい、必読の一冊と思うはず、たぶん。

※今回、本書を岡田睦の本と共に2006年版単行本を図書館で借りたのだが、文庫版が我が書庫にあり、その2009年版には06年以後のことも掲載されているので文庫版がオススメ。
※只今、酒鬼薔薇事件の現場取材をまとめた産経新聞社の「命の重さ取材して」を手にしているところ。少年Aの母親の手記、被害者父親の手記をも読んでみる予定。

★余談

ノンフィクション「たった一人の生還 たか号漂流二十七日間の闘い」は、当初「たった二十七日?」なんて、いままで何十日もの漂流談を読んできた我輩、不遜にもそう思ってしまったけれど、小さな救命艇に乗り込んだヨット仲間が次々と目前で死んでいく描写等には鬼気迫るものありの力作。
「夜想」「こわれもの」は共に「ある能力」のため新興宗教化する問題やその能力に振り回される人間の悲劇を描いていて一気読みの共に力作。

★5月の推薦作!

奥野修司「心にナイフをしのばせて」!

「今夜!」(本)may/2017 完

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