356「今夜の本!」(イノセント・デイズ)june/2017

7.1sat//2017

ガジュ丸評価基準。
5〜4が「秀作以上ライン」(5は「ぜひ!」的作品)、3.5は「損ナシの佳作」、3は「普通」、2〜1は「駄作ライン」
NF=ノンフィクション。※=再読作品。

★「今夜の本!」

01.「しずり雪」安住洋子/小学館文庫/3.5 [長塚節文学賞短編小説部門大賞]
02.「永遠のとなり」白石一文/文春文庫/3.5
03.「ほかならぬ人へ」白石一文/祥伝社文庫/3.5 [直木賞]
04.「エアーズ家の没落」上下/サラ・ウォーターズ/創元推理文庫/3.0
05.「深尾くれない」宇江佐真里/新潮文庫/4.0
06.「不死症」周木律/実業之日本社文庫/1.0
07.「神無き月十番目の月」飯嶋和一/河出文庫文藝collection/4.0
08.「夢十夜」小説新潮編集部編/新潮文庫/1.0
09.「イノセント・デイズ」早見和真/新潮文庫/5.0 [日本推理作家協会賞]

★書店でチェックして・・・

書店で平積みの、手書きオススメ・ポップカード付き数冊が「面白そう!」と。
篠田真由美「閉ざされて」、柴田哲孝「下山事件」、早見和真「イノセント・デイズ」、桜井鈴茂「どうしてこんなところに」、そしての周木律「不死症」の5冊。

数十日後、ようやくうち三冊がBOOK OFFに流れてき、新刊ゆえ定価のわずか三割引きだったけれど二冊購入。
勘が働いたんだろうか、残る一冊はなぜか買わずにいたら、その日のうちに図書館で発見。
思った、「なんて運がいいんだろ!」

まずその図書館本を手に取る。
本文3ページ目で、「ん?」
5ページ目あたりから、「これは?」
まず擬音語の使い回しが気になり、ついで中学生の作文のような・・・解説者はなんと?
最終ページにあるはずの「解説」ページを開いてみる。
そこには「解説」も「あとがき」も、ナニもなかった。
実業之日本社文庫は「解説」ページがもともとナシだったっけ?
いや、解説しようがない内容だから「解説」がないんだろうか?
パラパラ漫画的にページめくって終わったその本、周木律の文庫書き下ろし「不死症」(なんと現在、著者最新作が大々的に書店に本書とともに並べられている)
思った、「勘が働いて、なんて運がいいんだろ?」

★なるほどな・・・

「他人の夢の話は面白くないものだ」と聞いたことがある。
けれど、10人もの著名な作家競作のこの短編集、「いくらなんでも」と思っていたら、最後まで・・・。

以前紹介の低評価本、小説新潮編集部編「怪談」につづいての、同編集部編「夢十夜」だ。
副題に「眠れなくなる」とあるけれど、「眠りたくなる」とホントは付けたかったンじゃないかとさえ思えてきたほどの、全篇「こんな夢を見た」で始まる抽象的な、ホントにみた夢だけ書き記したようなお話集。
これも図書館本ゆえ「運がいい」気分通り越し、もう「運が悪かった・・・」に。
我輩も、もう夢の話はしないことにしよう。かつ「小説新潮」自体ももう買うまい。

★村上春樹と村上龍から・・・

若き彼らがさっそうと文壇に登場して以降しばらく、同年代の方々の作品を手にしなくなったことがある。嫉妬のあまり・・・。

この頃からだろうか、作家の顔アップ写真付きで作品が喧伝されるようになったのは。
いや、いや、気にしだしたから顏写真が目につくようになったのかもしれぬが、続々と新進作家なるものが登場するようになったのもこの頃からだったように思う。
(で、周木律のような作家出現に今や至る。Wムラカミでなく、当時周木登場ならば自分でも何か書けるか!と思ったかも?)
かつて、「野獣死すべし」「蘇る金狼」などの傑作を生み出していたハードボイルド作家、大藪春彦氏が拳銃不法所持で逮捕された際、連行される彼の素顔をテレビで初めてみて「なんや、ただの太ったオッサンやんか」と、作風からあまりにもかけ離れた風貌にがっかりした覚えがある。で以後、彼の作品の冷酷で逞しきヒーローと作者の顏がオーバーラップしてしまい、一時読めなくなってしまったことが・・・。

が、いまや写真集かとも錯覚するほどの、新刊紹介で村上春樹や村上龍、北方謙三、大沢在昌などの顏写真入り広告を見せられると、小太りのオッサンらがなんでこんなに顔を露出したがるんだろ(もしくは露出させるんだろ)と、これは嫉妬からではなく、もう単純にそう思ってしまう。
石田衣良や羽田圭佑、又吉直樹らもコメンテーターとしてテレビでよく見かけるけれど、この方々は生理的に好きくない顔立ちなので作品自体も手に取りたくなくなってしまうわけで。
一個人がそんなことグチってもどうってことない話なんであるが・・・。

★時代小説が・・・

話がそれてしまった。
で、我輩より年長の作家さんなんてほとんど死に絶えてしまった昨今、年少作家の存在もいつしか気にならなくなっていた。
そうでなかった一時期、時代小説を読みふけったことがある(当時はまだ年長の作家さん達が多数存命中)
名だたる剣客達の技を極めようとする凄まじい生涯に驚歎し、日本人を誇りに思い始めるきっかけともなった。

さて昨今では、5月に読んだ歌舞伎役者・初代中村仲蔵の芸に生きる過酷な生涯を描いた松井今朝子の時代小説大賞作「仲蔵狂乱」、ほんの数行記録されていた史実をもとに濃密な物語を紡ぎ出した次の二編、鳥取藩の剣客・深尾角馬の壮絶な最後が心に残る宇江佐真里「深尾くれない」、農民一揆のその顛末記があまりにも悲惨な展開と予測してしまい、20年近い昔に思わずページを閉じたままとなっていた飯嶋和一「神無き月十番目の夜」らは、「これこそ小説!」の醍醐味ある重厚な作品。先述の周木作品など小学生の駄文に思えてきたほどだけど、これら秀作の三人の作家サン、うちお一人だけが我輩より年上という時代に今やなってしまっていた・・・。

★6月の推薦作!

さて飯嶋和一の作品じゃないけれど、物語の中盤に差し掛かった時点で数日間、枕元に伏せたままにしてしまった本がある。
早見和真「イノセント・デイズ」だ。

元恋人の家に放火し、妊娠中の妻と二人の子供を殺害した罪で死刑を宣告されたストーカー女。
その女の出生から死刑執行の日までの彼女に関わった人々の視点から次第に明らかになってゆく女の過去。
その過酷な人生をもう直視できなくなりページを繰ることができなくなったのだ。
これは今年上半期、フィクション部門イチオシの傑作かも。

「今夜の本!」june/2017 完

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