370「今夜の本!」7y/2017のベストは?

8.4.fri./2017

ガジュ丸評価基準。
5〜4が「秀作以上ライン」、3.5は「損ナシの佳作」、3は「普通」、2〜1は「駄作ライン」。NF=ノンフィクション。※=再読作品。

★「今夜の本!」

01.「アラーム!」カトリーヌ・アルレー/創元推理文庫/3.5
02.「切腹」白石一郎/文春文庫/3.5
03.「ローズ・マダー」スティーブン・キング/新潮社/2.0
04.「冥闇」ギリアン・フリン小学館文庫/3.5
05.「善良な男」ディーン・クーンツ/ハヤカワ文庫/3.5
06.「妻の女友達」小池真理子/集英社文庫/3.5 [日本推理作家協会賞(短編部門)]
07.「ナルキッソスの鏡」小池真理子/集英社文庫/3.5
08.「ミステリマガジン700 海外編」杉江松恋篇/ハヤカワ・ミステリ文庫/3.0
09.「閉ざされて」篠田真由美/角川文庫/3.5
09.「鍵のない夢を見る」辻村深月/文春文庫/3.5 [直木賞]
09.「たぶらかし」安田依央/集英社文庫/3.5 [小説すばる新人賞]
10.「犯罪」フェルディナント・フォン・シーラッハ/創元推理文庫/3.5 [本屋大賞]

★冒頭が印象的な三冊

二十代の頃にハマったフランスの女流作家アルレー作品群。「わらの女」「目には目を」など傑作の覚えはあるけれど、今はもうその内容、完全に忘却。
で、古書店でみつけた彼女の「アラーム!」。新作かと思いきや87年の翻訳。我が書棚にあるかもしれぬが、百円ゆえ買って即日読了・・・。
里帰りから戻ったヒロインを待っていたのは、「先ほど夫が死んだ」との友人たちの悔みの言葉。単なる骨折で入院。が、容体が急変、死亡したという。さらに遺体が勝手に火葬されてしまった、と。釈然としない彼らは病院に掛け合おうとするが、一人、また一人と姿を消してゆく。う〜む、このあたり、カフカの不条理世界のよう・・・。

「善良な男」は、主人公が酒場で人違いされる。その見知らぬ男から渡された封筒には、札束そして名前と住所が記された女の写真。殺人を依頼されたのだ。店を出る男を呼び止めようとしたが、男は闇夜に消えてしまう。続いて入ってきた男はカウンターの封筒を見て、「早かったな」と声をかけてくる。殺し屋だ。主人公は「依頼は取りやめだ」とキャンセル料として封筒の金の半額を渡す。男が出ていく。男の車を見ると、警察車両だった。ではこのことを何処に訴えればいいのか・・・。

残る一冊は、次のコーナーで紹介。

★「原作vs映像」
原作もしくは映像作品の、どちらが「優」?

ギリアン・フリン原作「冥闇」○ vs「サラの鍵」のジル・パケ=ブレネール監督作「ダーク・プレイス」○

秀作「ゴーン・ガール」の著者G.フリンの、処女作「傷」につづく二作目。各賞にノミネートされた本書「冥闇」は、冒頭で描かれるヒロイン像が特異。
31歳の主人公は無職で手癖も悪い女。7歳のときに家族を惨殺された。彼女の証言で15歳の兄が殺人犯として逮捕、収監されている。彼女は事件後に寄せられた善意の寄付金で自嘲的で無気力な生活を送っているが、金が底をつき始め・・・。
同情にも値しないような女に成長したヒロインを映画ではシャーリーズ・セロンが演じている。これが原作でのイメージに反し美人すぎてミスキャストかと。が、映画では簡潔な展開が○。ヒロインらしくない人物像を生みだした原作はこの点が○。

★奇妙な味の二冊

「たぶらかし」は奇妙な世間を描く。
30代のヒロインは食い詰めた舞台役者。あやしげな事務所の「役者募集」の張り紙を見て職につく。「レンタル家族」は聞いたことがあるけれど、様々な人物のなりすましを稼業とするのだ。その現実では考えられぬ他人になりすますという生活を巧みに描写。2012年の作品だが他の作品を、あれば読んでみたくなるほど。文庫化当時は残念ながらナシのようで。

「犯罪」も、弁護士の著者が現実の事件に着想を得て「異様な罪」を犯した人々を描いた短編集。その異様さはちょっと思いつかぬ事件ばかり。が、「妻の女友達」「鍵のない夢を見る」と同様、短編という物足らなさが。これは短編好きか否かの好みの問題で、あっさり「面白い」感で終わるのがもったいないというゼイタクな不満・・・。

★既視感

「ナルキッソスの鏡」は、夏場だけ人が訪れる信州山奥の別荘地のはずれにある、かつての牧場の廃屋に近い古い家屋がひとつの舞台。そこに住む大女。汚いおかっぱ頭でオーバーオールの異様な風体。自分の子供の誕生日が近づくと、通りかかったハイカーらを殺害。身ぐるみ剥いだそれを子にプレゼントするという異常な生活・・・これはトビー・フーパーの傑作ホラー「悪魔のいけにえ」の世界ではないかと。そしてその別荘に住むことになった女装趣味の美青年。彼らはどう関わってゆくのか・・・。

題名は知っていたけれど未読だった96年翻訳のS・キングの期待作「ローズ・マダー」は、結婚生活で耐えまなく夫から暴力をうけているローズが、結婚14年目にして発作的に無一文で家を出て逃避行。しかし、異常性格者の夫ノーマンは現役の刑事。ノーマンはその捜査能力を駆使し、ローズを探し始める。このあたりは読ませる。が、このよくあるパターン、米映画でも観たという既視感が・・・。
500数十ページ、厚さ4センチの大作の本書、中盤からファンタジーの要素が介入。古物商から買った作者不詳の絵画。その絵の世界に出入りできるようになり・・・という描写がすんなり受け入れられるいつものキング手法でなく、違和感アリアリでマイナス評価の駄作に。

★「今夜の名言!」

「くじけないで・・・本物の相手に出会うまでは、どんな恋愛も失敗なのだから」
(S・キング「ローズ・マダー」より)

★7月の推薦作!

残念ながら特になし。
が、選ばねばならぬとすれば、辻村深月の短編集「鍵のない夢を見る」かな。

※次回は「テラちゃん文庫特集!」

「今夜の本!」july/2017 完

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