447「今夜の本!」 2/2019 のベストは?

3.1.fri/2019

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「傑作」4「秀作」3.5「佳作」3「普通」2「不満作」1「駄作?」。
NF=ノンフィクション ※=再読作品。

01.「鎧櫃の血」短編集/岡本綺堂/光文社文庫/3.5
02.「自作の小屋で暮らそう Bライフの愉しみ」NF/高村友也/ちくま文庫/4.0
03.「減速して自由に生きる ダウンシフターズ」NF/高坂 勝/ちくま文庫/1.0
04.「定年と読書 知的生き方をめざす発想と方法」NF/鷲田小彌太/文芸社文庫/1.0
03.「破局 現代の離婚」NF/斉藤茂雄/ちくま文庫/3.0
04.「あくむ」短編集/井上夢人/集英社文庫/3.0
05.「ビター・スウィート・ビター」沢木まひろ/宝島社文庫/3.5 [日本ラブストーリー大賞]
06.「スイッチ」さとうさくら/宝島社文庫/4.0 [日本ラブストーリー大賞審査員絶賛賞] ※
07.「とりつくしま」東 直子/ちくま文庫/3.0
08.「屍の聲」短編集/坂東眞砂子/集英社文庫/3.5

★「寸評!」

久方ぶりの、綺堂本!
明治5年生まれの岡本綺堂の代表作「半七捕物帳」シリーズは読まず嫌いで手つかずだけれど、二十代の頃に著者の怪談本を買い漁ったことがある。発端は「西瓜」という物語。細部は忘れたけれど、西瓜を割ると中から一匹の青蛙が出てくる。さらに西瓜の中を探ってみると幾すじかの髪の毛が。その長い髪は蛙の後ろ足の一本に強くからみついていて、女の物であるらしかった・・・という一節だけは、よくもまぁこんな話を思いつくものだといまだに覚えている。
それらの旺文社文庫版は絶版となったようで古書店でも見かけなくなった。古書店で怪談と思って買った本書は光文社文庫版で十年ほど前に再刊の本。怪談ではなく古老が語る江戸の巷談十八篇だったが、大人の日本昔話とでもいえようか。

久方ぶりの、ラブストーリー大賞!
第一回受賞作の原田マハ「カフーを待ちわびて」は原作、映画化版ともに傑作と秀作だった。
で、岡本綺堂同様、これまた久方ぶりに手にした同賞作が「ビター・スウィート・ビター」。以前読んでいま一つだった受賞作の奈良美那『埋もれる』同様、R−18文学賞発足時のテーマ「女性が書く、性をテーマにした小説」かと勘違いしそうなほど、ヒロインに複数のセフレがいる美容師・暁の生き方にげんなり。と、そこに実直な清掃員・祐輔クン登場。彼女の人生が大きく変わってゆく。「ウムウム、まさにラブストーリーではないか」と本作でこの賞見直し、受賞本他になかったかと本棚物色。手にしたのが、第一回での審査員絶賛賞「スイッチ」

雑踏の片隅でカウンターを手にパイプ椅子に座って交通量調査のバイトをしているヒロイン苫子(トマコ)という変わった名を目にした途端「ああ、あのトマコの・・・」と、すでに読み終えた作と知る。が「あの苫子にどういう愛が待ち受けていたんだっけ?」と再読。
で、物語の大半覚えていず、だった。
こんな時「俺はバカなのか」と。
けれど書評家らが解説の際「いま一度読み返して」とよく書いているのを思い出し、「プロでも忘れてるんだ?」と最近は自分を慰めている。喫煙者は認知症になりにくいとも最近知ったし・・・。

物語は、短大を首席で卒業したにもかかわらず、性格ブスゆえ就活の面接で落とされ続け、二十代後半となってもビルの清掃バイトで食いつないでいる彼氏も友もいない苫子がいかにして生きる希望を見出していくかという、我輩が作家志望の青年ならば題材にしたくなるような緻密な展開。けれど原田マハさん以外に彼女たち受賞者の続く評判作は耳にしないなぁ・・・。

光明本?
我がキリギリス人生に一条の光が・・・というのが「自作の小屋で暮らそう Bライフの愉しみ」
「人がもし、山奥に放り出され、助けが来る望みもないとしたら、とりあえずやらなければならないことは次のことだ」で始まる本書は、我輩今日まで文明社会にどっぷりつかり、気づくといまや自然に囲まれての生活下、周囲の草花や樹々の名も鳴き交わす鳥の名も知らぬおのれの非人間さ(と思う)、無力無知さ思い知らさての昨今、「ウムウム。で、どうするんや?」と一気読み。
となったのは、1982年生まれの著者が我輩同様「カナヅチすらロクに握ったことのないド素人」で、カナヅチ、のこぎり、メジャー、ドライバー、タッカー(大きなホッチキス)だけで試行錯誤しつつ、まず原野に3坪の小屋を建てる(見捨てられたような土地の購入方法や小屋の建て方などを写真、図面付きで紹介してくれている)。
そして「月1万円の食費があれば高水準の食事が摂れるし、安物のカセットコンロ一つあれば死なないどころか大抵のものは作れる」(コンロはプロパンより安くつくらしい)と、時給千円で一日働き3ヶ月分の米と味噌を確保してのBライフを実践。BはbasicのB。つまり必要最低限の、もしくはbabyish(幼稚)な生活のこと。生活水は小川から、電力はホームセンターで買った安いソーラーパネル。税金、健康保険などのことにも言及。

著者はいう「規則正しい生活が健康に良いというのはでたらめで、せいぜいいえるのは、規則正しい社会生活には、規則正しい家庭生活が必要である、この程度であろう」「朝型がどうとか夜型がどうとか、そうしたご高説を全て吹き飛ばすだけの破壊力を自由な睡眠は持っている」と、「寝たいときに寝て、起きたいときに起きる、上質な睡眠」を選択した生活を送っているのだ。

我輩の青年期にはとてもじゃないけどマネできない生活ながら、この歳になると、金がなくとも考え方さえ変えればキリギリス的我が残る人生も「なんとか人生の冬を生き抜けるかも?」(ま、著者はタバコや酒に無縁のようだけど・・・)。

「自作の小屋」同様、”為になる”本としては「破局 現代の離婚」というのが。
結婚生活破局に至る九件の事例の紹介と分析はともかく、「結婚に失敗しない十ヵ条」で「同性の人に好かれる人を選べ」は我輩の持論でもあった。が、これだけではもちろんダメなのは経験上理解済み・・・。巻末の「実用 離婚手続きのすべて」はお悩み中の方には為になるだろう。

「なるほど」と思えた発想の本が「とりつくしま」
「取り付く島もない」の「とりつくしま」だ。
こういう言葉にあらためて出会うと、その意味するところはわかってはいても語源を知らぬことが気になってくる。調べてみて、いままでほったらかしにしていた「木で鼻をくくる」の語源も今ごろ理解・・・情けない。
本書は、なくなった故人があの世で「この世に未練があるなら、なにかモノになって戻ることができますよ」と教えられ、母親の補聴器や妻の日記などに「とりつく」というほのぼのとしたお話が十篇。自分ならナニにとりつくだろ?とつい考えさせらた。

★「期待作!」

「自作の小屋」への賛辞の言葉「働かず、縛られず、好きなだけ寝る極意!」と寄せた嵩坂勝(1970年生まれ)の「減速して自由に生きる」も読んでみた。
我輩同様バブル崩壊後に脱サラしバーを開業。「稼がない自由」を謳歌しているという人物の手記だ。
が・・・裕福な家庭に生まれ、一流大学を出て一流会社に勤め、立地条件悪しの場所での自営業開始。で、週休二日から三日に変更しても「赤字にはなったことがない」と、全編嘘か真かバラ色の人生讃歌的本書は、まるで新興宗教家の説法集・・・。

同じく読むのに苦痛伴った、1942年生まれ著者の”本を読まないと老化する”テーマの「定年と読書」では、「重要なことが書かれているはずなのに、少しも頭に入ってこず、胸にも訴えない文章がある」とあり、我輩など「減速して」とともに、本書自体がそうだった・・・。

★「今夜の名言!」

「男と女は身体のつくりも思考も違う。男どうし女どうしの組み合わせだっていずれ別々の人間だ。わかりあおうなんて思わないほうが無難なんだが、好きになっちまうとつい頑張る。両方で試行錯誤するからますます行き違う。空気みたいになったと思ってた相手が、ある日まるで知らない人間に見えて唖然としたりな。楽しいことはほんのちょっとで、不安と焦燥ばかりで過ぎていくのが恋ってもんだ」
「ビター・スウィート・ビター」で、祖父が恋に悩む高校生の孫に語る言葉。「まるで知らない人間に見えて」でグサリと。

「生きてるの、面倒臭くない?」
「え?」
細長い草を適当にちぎっていた苫子は、顔を上げて聞き返した。
「面倒臭いよな?」
「・・・はい」」
(中略)
「誰かと比べれば、絶対的に贅沢で幸福で、そんなの言える身分じゃないけど、これから先、自分のゴタゴタを、納得いく形にできる気がしない」
苫子は、やりきれない顔でサル男を見た。
「スイッチ」から。「納得いく形にできる気がしない」で、「そうなんだよなぁ」と。

★「今夜の迷言!」

ソ連時代の工場で。いつも10分遅刻するイワノフが「怠慢」の容疑で逮捕された。10分前に来るアレクセイは「西側のスパイ」で。サーシャは始業時間にピッタリだったが、逮捕されてしまった。「日本製の時計を持ってるに違いない」と。

交番に韓国人の青年が飛び込んできた。「韓国人と日本人が1時間も前から殴り合いの喧嘩をしています」。警察官が「わかった、すぐに行こう。しかし、なぜもっと早く来なかったのかね?」「さっきまでは韓国人の方が優勢だったもので」

韓国の国会議員たちが議論していた。「私たちは、うまくいかないことをすべて日本のせいにするが、改めるべきではないか」「確かにそうだが、この悪癖の原因は何だろう?」
長い議論の末、結論が出た。「原因は日本にある」
昨年夏からこの2月までの産経新聞夕刊コラムに引用されたジョーク。

★「ガジュ丸賞!」

前回の評価はどうだったんだろうの「スイッチ」は再読ゆえ番外として、やはり高村友也さんの「自作の小屋で暮らそう Bライフの愉しみ」だ。

「今夜の本!」2/2019 完

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