456「今夜の本!」 4/2019のベストは?

5.1.wed/2019

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「傑作」4「秀作」3.5「佳作」3「普通」2「不満作」1「駄作?」。
NF=ノンフィクション ※=再読作品。

01.「敗走千里」NF/陳 登元/ハート出版/3.0
02.「一等兵戦死」NF/松村益二/ハート出版/3.5 [直木賞候補]
03.「真夜中の北京」NF/ポール・フレンチ/河出書房新社/4.0 [英・ダガー賞 米・エドガー賞]
04.「アガーフィアの森」NF/ワシーリー・ペスコフ/新潮社/4.0
05.「孤狼の血」柚月裕子/角川書店/5.0 [日本推理作家協会賞]

★「寸評!」

昭和13年のベストセラーといわれる<敗残支那兵の血で綴った大長編>の復刻版「敗走千里」を読む。
中国人の著者は10代なかばで日本に留学。大学卒業控えた昭和12年8月に一時帰国した際、中国軍に強制徴募され戦場へ。二ヶ月に及ぶ日本軍との戦闘で重傷を負い、収容先の病院から脱走。その戦場体験記の本書を日本の恩師に送付の後、消息を断つ。
・・・<「南京大虐殺」の虚妄を暴き、「自虐史観」解き放つ、第一級の史料!>の謳い文句はちと大げさか。が、著者目撃の、戦場における私的軍事集団・軍閥や匪賊寄せ集めの中国軍ゆえ、食料を奪うため自軍の兵士たちをもためらいもなく殺戮するさまや腐敗の記述は、昨年読んだ辻政信の復刻版著書「潜行三千里」に描かれる中国軍と同様。戦後GHQが没収、廃棄した作というのもうなづけるというもの。

奇しくも上記の著者が戦った中国・江南地方での、日本軍兵士側の戦記復刻版「一等兵戦死」を読む。
昭和13年の従軍記ゆえ、偶然にも両作者が相前後し同じ空の下で戦っていたわけだ。
・・・前著の陳 登元が記す中国軍による農民からの略奪、殺戮、強姦を裏付けるかのように、本書の著者松村一等兵も戦場における中国軍の残虐さを目撃。髭も生えていない少年兵が退却できぬよう機関銃に針金で手足を縛りつけられた姿で戦死していたとの描写は、「敗走千里」での、退却してくる自軍兵士たちを射殺する部隊<督戦隊>の存在(独ソ戦の映画でも同様のソ連軍部隊が描かれている)に通ずる描写。
著者が毎日新聞記者出身であり、直木賞候補ともなった本書は文筆家でもない陳 登元の作より読み応えあり。が、両作に登場するそれぞれ農民出身の兵士が、軍靴で踏み荒らされ僅かに残った麦の穂をみて、ともに「ああ、あれを刈り取りたいなぁ」とつぶやく場面では、戦争の大義ってなんだろうと思わせる。

ふたたび奇しくも1937年(昭和12年)という時代背景の秀作ノンフィクションが「真夜中の北京」
舞台は日中戦争勃発前夜の北京。中国在住の元英国領事の令嬢が惨殺される。狂人の犯行か、日本兵の仕業か、人違いの悲劇か、噂される悪霊の仕業か・・・が、迫りくる日本軍による混乱の中、事件はついに迷宮入りに。
・・・そしての七十数年後。著者は当時の中国、英国の捜査資料、生存者への取材等から事件の真相にたどりつくという驚くべき内容。当時の混沌とした北京の様相や事件の捜査内容が、まるで昨今の出来事かのように詳細に描かれており、作者の手腕に感服するばかり。

「シベリアの奥深く人跡未踏の地域で、ボロボロの衣服を着た不思議な家族が発見された。彼らはなぜ隠遁生活を送っていたのか?衝撃のノンフィクション」が、「アガーフィアの森」
・・・1978年の出来事だ。全世界に報道されたというが我輩は知らなかった。
真冬には零下40度〜50度ともなる極寒の針葉樹林帯で、2.0メートル×1.6強の掘っ立て小屋に一家6人が暮らし、透明のポリ袋をみて「しわくちゃになるガラス!」と驚く彼ら「陸のロビンソン・クルーソー」の人生記録。今月のノンフィクション作では最も興味を惹かれた題材。

★「ガジュ丸賞!」

最近流行りの警察、病院舞台のテレビドラマは、若手タレント起用ゆえかリアル感乏しく思うのか、まったくみていない。
で、今月唯一の小説がその警察とヤクザがからむ好きくない題材。ましてや女性作家によるハードボイルド小説で期待せず手にしたのが「孤狼の血」・・・深夜2時10分すぎ、読みかけのその本閉じ、眠りにつこうとした。

けれども最近始めたとある「孤独な肉体労働」のバイト、明日は(いや、もう今日だ)いつも以上に過酷。勤務時間もオーバーするだろう。が、残業はつかぬ。しかし世間は連休中。その派遣先も一部施設休業となるゆえ、過酷日以降は反して時間を持て余すことになる・・・社の担当者にメールでその対応問い合わせてみた。
すると「一応規定の時間まで就労を」
我輩「余った時間、どうクリアすりゃええねん?」と、相反した悩みで目が冴えてしまい、しばしのち「孤狼の血」をふたたび手に取ることに。残り百ページと少し。すでに最終章だ。

昭和六十三年。広島の地方警察署暴力団係に配属された新人刑事と古株刑事が暴力団抗争阻止に挑む展開。
当初、まるで東映ヤクザ映画じゃんと思ったけれど、「ん?評価3.5かな・・・4.0だな」と、読み進むにつれ意外にも評価が上がってのこの夜、最終章を迎えたのだ。
しばしのち、思わずベッドから起き上がった。そしてタバコに火をつけ、机に向かって読むはめに。
久しぶりだ。こんな読書欲。2016年に読んだ吉川英治文学新人賞、野沢尚の傑作「深紅」の冒頭描写以来ではないか、この不安感。
で、「ど、どうしたッ、大上刑事ッ、ガミさんッ」
そしてラストで、「ああ、そうだったのか・・・」
冒頭のページ読み直してみると「なぁるほど〜」と、随所に挟み込まれた新米刑事の、なぜか伏せ字だらけの「日誌」の意味も、昭和の舞台設定の意味も明らかとなり、「なんてウマい構成なんだ」と、またファンとなる女流作家がお一人増えてしまった感。で、午前4時読了。興奮してよけい眠れなくなった。どないしょ、仕事。

★「原作vs映画」
原作と映像作品、どちらが「優?」

「孤狼の血」:柚月裕子 原作 vs 白石和彌 監督作

白石和彌は好きな監督。先ごろ終わった深夜テレビドラマの監督作「フルーツ宅急便」なんて毎週楽しみにしていたものだ。その監督作で数々の賞を受賞したという映画版、冒頭シーンで「ん?」
観始めて「ん?ん?」
後半、録画早送り・・・。
原作の印象的な数々が微塵も描かれていないではないか!
テレビタレント総出演の単なる三流暴力映画じゃないか。どうして受賞作なんだ?どなたか教えてほしい。先んじて映画を観た方は悲惨だ?今回はダントツで原作に軍配。

「今夜の本!」4/2019

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