467「今夜の本!」8/2019のベストは?

9.20.fri/2019

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「傑作」4「秀作」3.5「佳作」3「普通」2「不満作」1「駄作?」
NF=ノンフィクション ※=再読作品

01.「日本怪奇小説傑作集」紀田順一郎 東雅夫編/創元推理文庫/3.0
02.「殺ったのはおまえだ 修羅となりし者たち、宿命の9事件」「新潮45」編集部編/新潮文庫/NF/4.0 ※
03.「おしゃべり怪談」藤野千夜/講談社文庫/2.0 [野間文芸新人賞]
04.「恋の休日」藤野千夜/講談社文庫/3.5
05.「熟れてゆく夏」藤堂志津子/文春文庫/2.0 [直木賞]
06.「なぜ日本人はかくも幼稚になったのか」福田和也/ハルキ文庫/NF/3.0
07.「対馬丸」大城立裕/講談社文庫/NF/4.0
09.「谷崎潤一郎マゾヒズム小説集」谷崎潤一郎/集英社文庫/3.0
10.「ソング・オブ・サンデー」藤堂志津子/文春文庫/3.5 [島清恋愛文学賞]
11.「うそ」藤堂志津子/幻冬舎文庫/4.0

★「断念!本」
「面白くなさそう」と中断してしまった、「断念=残念」本は?

「草祭」恒川光太郎/新潮文庫
著者は「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞した作家。かつウリ文句に「圧倒的傑作」とあり手にしたけれど、好みでないファンタジー系と気づき断念。そういえば「夜市」も印象に残ってないな・・・。

★「寸評!」

「日本怪奇小説傑作集」は、明治大正の文豪17人による怪奇小説集。
半世紀前に読んだ谷崎潤一郎「人面疽」、江戸川乱歩「鏡地獄」は当時夢中になった覚えあるものの「こんな話だったっけ?」と、いま読むと少々肩すかし。
この傑作集に佐藤春夫「化物屋敷」があった。以前読んだ「文豪怪談傑作選」(ちくま文庫)に、数人の作家による東京のとある一軒家にまつわる怪異実話談が掲載されていた。居住したりその家に出入りした作家らの作で各作品異なる内容だったが、この「化物屋敷」もその屋敷が舞台のようだ。まとめて読み直したくなってきた。

「殺ったのはおまえだ」収録の「池田小児童殺傷事件」(宅間守の父親を取材)ふくめて9篇のいくつか既読の覚えあるものの、まるで覚えていないものも。で、読み残していた本かと思いきや、何ヶ月か前に評価済みだった。酔っての深夜就寝直前読書のせいか・・・本書同様、このこともコワイ?
「新潮45」にかつて連載されたノンフィクションのこのシリーズ本(本書ふくめ書名は三流だけど)、読み応え十分の力作揃い。

藤野千夜は「ルート225」が印象に残っている。
姉弟がほんの少し「違う世界」に迷い込み実世界に戻れなく話だ。が以降の、著者が芥川賞作家と知ってからの作品は純文学っぽいせいか心に残らない。この手の小説は起承転結やドキドキ(トキトキでもいい)感あるドラマ性に欠けているような・・・今回は短編集「おしゃべり怪談」が。そういう意味では直木賞受賞作なのに藤堂志津子「熟れてゆく夏」も。その後に読んだ彼女の作品で徐々に評価あがるも現時点、書店ではスルーの作家。

論壇・文壇に賛否両論巻き起こしたという日本人論「なぜ日本人はかくも幼稚になったのか」は、戦後生まれの我輩ふくめ日本人の平和ボケに対する苦言についてはもちろん我輩、賛成派。例えば、アメリカ軍艦の艦長が原爆慰霊碑に献花した際、被爆者の家族がその花を引きずり下ろして踏みにじった事件とりあげ、それが人間としてまともな反応だと指摘。毎年繰り返されるあのセレモニー、「原爆反対」「核軍縮」「戦争反対」などもっともらしい正義や偽善の言葉の羅列など人心の奥底に届くもんだろうかとウンザリ気味の我輩など著者のいう、原爆投下に対してのセレモニーは「怒り」「無念さ」「亡くなられた方々への追慕」であるべきで、まずなによりも「情」」を主体にした言葉でならない云々・・・で「うん、うん」
けれども、こういうたぐいの本、数ページで収まる内容を書籍化する編集力が問題なのか作者の力量なのか、読んでいるうちに論点がどんどん薄められてゆく感かつ「負」オンリーの論調に、これまたウンザリ。

★「ガジュ丸賞!」

今月の白眉ともいえる作品は、事件は知ってはいたけれどその詳細知らぬままの、敗戦1年前の学童疎開船沈没事件を描いた大城立裕「対馬丸」(講談社文庫)。
「疎開」という言葉は戦前にはなく、「避難」では「逃げる」に似て好ましくないと、中国軍事用語の「散開」を意味する「疎開」を用いたと今回はじめて知った。
その沖縄から本土への疎開事業での最大の悲劇はなぜ起きたのか。アメリカ潜水艦の魚雷攻撃による沖縄学童800余名(実数不明)のうち生存者わずか50余名という事件の前後ふくめ、その経緯を描いた力作。その学童を海に葬った米海軍潜水艦ボーフィン号乗組員は現在どう感じているかも知りたかったが、その点の記述、取材なしが残念。

「今夜の本!」8/2019 完

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