482「今夜の本!」(1/2020のベストは?)

2.1.sat/2020

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「傑作!」4「秀作」3.5「佳作」3「普通作」2「不満作」1「駄作?」
NF=ノンフィクション類 ※=再読作品

01.「結婚恐怖」小林信彦/新潮文庫/3.5
02.「鏡の背面」篠田節子/集英社/4.0
03.「ラジ&ピース」絲山秋子/講談社/3.5
04.「蛇行する月」桜木紫乃/双葉社/3.5
05.「氷の轍」桜木紫乃/小学館/3.0
06.短編集「無宿人別帳」松本清張/角川文庫/3.5
07.「竜と流木」篠田節子/講談社/3.0
08.短編集「静かな黄昏の国」篠田節子/角川文庫/3.5

★「はじめに:昨今の読書事情」

昨今、読書は文庫本で。
それも近郊のある「古本市場」や「ブックオフ」の80〜100円の廉価本。
よほどの期待作でない限りの新作単行本なんてもう長年買ってもいないし、買えぬ我が下流生活。
そんななか、生まれてこの方、活字に無縁な我が妻リ・フジンこと山椒大夫はいう。「家にいっぱい本あんのになんで図書館で借りるん?」
新作ふくめ単行本読めぬからかつ読みたい作品無尽蔵にある状況、彼女にはこれまた無縁。いや識字率の問題かも・・・。
大物俳優嵐寛寿郎はかつて言った。
結婚生活持続の秘訣について、いわく「趣味が同一なことです」
言い得て妙・・・。

★「寸評!」

で、何年か前に既存の文庫本版読み尽くしたかの篠田節子さん作品、今回久方ぶりに手に。
今月は本作ふくめ、単行本はすべて図書館本。
特に本書は五百ページ超す大作。外出時には重すぎ持っても出れず、習慣の寝入る直前読書では持つ手がしびれ・・・十数ページずつ読みすすめての数日後、バイト休みゆえ昼過ぎから読み始めての午後5時すぎ、残り半分のページ一気呵成に読了。昼間の読書は久しぶり。ゆえにアッという間にせっかくの休日が・・・あっ、あっ。

2018年発行の「鏡の背面」だ。
90年代初頭の処女作以来の筆力全く衰えていず。
冒頭、数人の女が暮らす廃村の古民家が深夜の落雷で全焼。「先生」と呼ばれる女性が焼死する。周囲から聖母と慕われていた「先生」こと小野尚子が検死の結果、なんと本人でないことが判明。いや、本人どころか・・・。
薬物やアルコール中毒に陥り行き場のなくなった女性たちの更生施設を私財なげうって維持してきた「先生」はどこへ?誰もが長年「先生」と信じ切っていた女は一体?いや、皆がなぜ「先生」本人だと思い込んでいたのか?
その冒頭から終章までたるみない展開で、読書の喜び満喫。これが本来の休日の過ごし方なんだろうけど、半日がまたたく間に終わってしまうなんて・・・。

篠田さんの短編で忘れられぬ作品の一つに「リトル・マーメイド」がある。
「あなたも人魚を飼いませんか」とのキャッチフレーズで売られている一匹60万の「人魚」。しかし、学名「マーメイド・リマキナ」のそれは長さ2ミリほどの、海中に漂うゴミのような軟体動物。別売り20万のレンズ付き水槽に入れるとまさに人魚に似た愛らしい姿がみられる。それを遺伝子組み換え技術で数十倍の大きさに。で、一匹600万に高騰。けれども大量飼育で一気に値が下がり・・・で、リマキナは?というお話。

で、今回読んだ2016年の篠田作品「竜と流木」は、01年発表のその短編を彷彿とさせる。
魅力的な小動物再登場の長編版だ。篠田さんにとっても捨てがたいテーマなんだろうな。大いに期待。
南海の小島の泉に唯一生息する、オレンジピンクの柔らかな半透明の肌をした、カワウソのような形をした可愛らしい生き物、クウクウと子犬のように鳴く非力な両生類、ウワブ。ある日、その貴重な泉の淡水を汲み上げ近隣の島々に供給することになる。ウワブ絶滅を危惧した有志たちが数キロ離れた島のリゾートホテルの池に移すのだが・・・冒頭、「リトル・マーメイド」同様ゾクゾク。が、長編過ぎました。短編もしくは中編で充分な展開(次に手にした彼女の短編集「静かな黄昏の国」にも「リトル」が収録されていました)。

一転して、うち一篇でも中編もしくは長編で読みたしが、1960年発行の今に比べて活字も小さく、読みごたえ充分な短編十作の松本清張「無宿人別帳」
故郷を出奔したことで人別帳(戸籍)から削られ、まっとうな職にもつけぬ無宿者となり、非人社会にも入れぬ男たちが行き着く先は、罪を犯しての牢獄か島流し。その彼らの過酷な半生が描かれたまさに力作集。

★「ガジュ丸賞!」

篠田節子「鏡の背面」!

「今夜の本!」1/2020 完

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