501「今夜の本!」(9/2020のベストは?)

9.30.Wed/2020

ガジュ丸評価基準。
5「傑作!」 4「秀作」 3.5「佳作」 3「普通作」 2「不満作」 1「駄作?」
NF=ノンフィクション類 ※=再読作品

★「今夜の本!」

01.「夜がはじまるとき」短編集/スティーブン・キング/文春文庫/3.5 [ブラム・ストーカー最優秀短編賞]
02.「戻り川心中」連城三紀彦/講談社文庫/3.5 [日本推理作家協会賞]
03.「人生を変えた時代小説傑作選」短編集/児玉清 山本一力 縄田一男 選/文春文庫/3.5
04.「朽ちないサクラ」柚月裕子/徳間文庫/4.0
05.「へび女房」短編集/蜂谷涼/文春文庫/4.0

★「寸評!」

短編集冒頭の「N」が興味惹かぬラヴクラフトのクトゥルー神話的ホラーで読書意欲そがれ評価落ちとなった、スティーブン・キング「夜がはじまるとき」。が、アメリカのホラー作家協会の08年受賞作とか。文庫解説によると同年の最優秀長編賞が、奇しくも我輩は駄作としか思えなかった彼の「悪霊の島」だった。
この短編集で秀逸なのは、隣人とのいさかいで男が屋外用トイレに閉じ込められ、ドアを下にして横倒しにされる作品。炎天下の糞尿まみれのトイレから出られず死を待つのみかの「どんづまりの窮地」だ。キング初期の傑作長編、狂犬病の大型愛犬から逃れ炎天下の車内に逃げ込み出られなくなる母子の恐怖を描いた「クージョ」同様、こうした異常な状況描けるのはキングならでは。「N」読まなければ評価4の短編集だった。

時代小説好きの3人が2篇ずつ選んだ贅沢なアンソロジー「人生を変えた時代小説傑作選」には6人の作家の名作が。この贅沢な文庫がBOOK・OFFでたったの100円。BOOK・OFFなどのおかげで、読みたい新刊本が山ほどあるというのに新刊買うのが贅沢かつバカらしく思え、ある意味ツライ。ただこのアンソロジー、「人生を変えた」はちと大げさ。

読み始めて「なんでこんなの買った?」と。
小説でもTVドラマでも、絵空事過ぎて読んだり観たりあまりせぬジャンルの警察と病院モノ(が「踊る大捜査線」シリーズや田中哲司演ずる患者クレイマーが秀逸のNHKドラマ10「ディア・ペイシェント」は別)。
なのに手にしていたのが、地方警察署舞台の「朽ちないサクラ」
警察の対応ミスからストーカー被害者が殺害され、それを発端に警察内部の闇が明らかに・・・淡々と読み進んでの終章「こ、コレは一体?!」・・・この感覚、もしかしてと著者略歴に目を通すと、本書と同じく終盤で「あ、あの人は一体?!」となった「孤狼の血」柚月裕子の作品だった。購入時には柚木作品ゆえのはず。なのに手にしたときには彼女の作というのを失念していた。
かつて、これは物語前章の「不安感」で高評価となった野沢尚「深紅」(吉川英治文学新人賞)同様、こうした部分的にでもインパクトのある作品って高評価につながってしまうなぁ、ずるいよなぁ。

蜂谷涼って作家、知らなかった。
4編の短編集「へび女房」の作者だ。
表題の「へび女房」は、徳川幕府瓦解後、ふがいない武士に落ちぶれたその妻が、卑下されもするマムシ薬を扱い家庭を立て直そうとする話。で、明治維新に翻弄された人々の同様の話が続くのかと思いきや、明治の重鎮黒田清隆や大隈重信、伊藤博文、大鳥圭介、榎本武揚、日本國外務省軍事顧問のル・ジャンドル、皇族や政府高官の掛かりつけ医エルウィン・フォン・ベルツ、文部大臣森有札というそうそうたる人物が次々と登場してくるのだ。が、主人公は彼らではない。彼らと結婚せざるを得なかった女たちが主人公。
旧藩主の姫君で維新後に芸者の身となった糸子、父親に売り飛ばされた庶民出の芸者たまの二人の運命劇「きしりかなしき」などは「二人はどうなんねん!?」と、「朽ちないサクラ」同様のドキドキもの。
で、9月の「ガジュ丸賞」は?

★「ガジュ丸賞!」

蜂谷涼「へび女房」!
「朽ちないサクラ」と甲乙つけがたしかと思われたけれど、酒乱の黒田清隆に仕方なく嫁ぐことになる芸者小せん、唾棄すべき人物として描かれる森有札の妻となった常子が金髪の不義の合いの子を産む話、らしゃめんと卑下される毛唐の日本人妻の話など、嘘か真か初めて知る話ばかり。かつ「朽ちないサクラ」には細かな点に不満あるのにくらべ、緻密で完成された展開でもあるのだ。そして作者は我輩より10歳も若い方なのだった。絶句・・・。

「今夜の本!」(9/2020)完

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