508「今夜の本!」(11/2020のベストは?)

12.11.fri/2020

ガジュ丸評価基準。
5「傑作!」 4「秀作」 3.5「佳作」 3「普通作」 2「不満作」 1「駄作?」
NF=ノンフィクション系 ※=再読作品 ?=ようワカラン

★「今夜の本!」

01.「パーキングエリア」テイラー・アダムス/ハヤカワ文庫/3.5
02.「千日紅の恋人」帚木蓬生/新潮文庫/3.5
03.「野呂邦暢ミステリ集成」中短編集/野呂邦暢/中公文庫/3.5
04.「ナオミとカナコ」奥田英朗/幻冬舎/5.0
05.「ヒトラーの脱走兵」NF/對馬達雄/中公新書/3.5
06.「南洋と私」NF/寺尾紗穂/中公文庫/3.0

★「寸評!」

8月から10月末までに購入した新刊文庫は駄作揃い。
そして最後に残った翻訳小説「パーキングエリア」
女子大生ダービーは、母危篤の知らせで愛車ホンダ・シビックで故郷を目指す。が、猛吹雪の山中で進めなくなり、ようやくたどり着いたパーキングエリア。そこで、灰色のバンに監禁された少女を目撃。休憩所には吹雪で避難中の男女4人。誰が監禁犯なのか?[電波なし。武器なし。出口なし。そこは、人生の終息所。]が謳い文句のサスペンス。
・・・この作品でようやく新刊佳作ランクにたどり着いた次第。我輩好みの舞台設定なれど、面白くないわけじゃないけれど、我輩好みゆえ先の展開少々みえてしまっての佳作止まり。

その興味惹かぬ題名から長らくお蔵入りの「千日紅の恋人」
若くして夫と死別、離婚経験もありの介護施設パート勤務の時子は、高齢の母に代わり父が遺したボロアパートの管理人でもある。
・・・さすが帚木蓬生さん、格安アパートの様々な住人を書き分ける筆力に「これは評価4か」と。中盤から、時子より10歳若い二十代のスーパー店員有馬が入居してきての、彼との恋愛談。[どこか懐かしい恋愛長編]との謳い文句は、いま風でない清らかな心の交流がラストまで、だからか。その点が、懐かしくも物足りぬ感でランク落ち。が、百日草より長く様々な色の花が咲くという千日紅の種子を探してしまったりしている我輩であった。

懐かしい名前発見。
新聞読書欄でうろ覚えの作家名が。70年代の芥川賞作家野呂邦暢さんの文庫「野呂邦暢ミステリ集成」紹介で。
長らく耳にしなかった作家さんと思いきや、受賞後に早世されていた。本書は「ミステリ」とあるけれど、奇妙な味の作品集。読んでるかもの受賞作「草のつるぎ」を手に取りたくなった。

墨丸時代、テレビドラマなんて観る機会がなかったけれど、閉店後のいまはそれをよく観ている。
何年か前、高畑淳子が図太い在日中国人社長を演じたシーンだけが印象に残っているドラマがあった。その原作本をBOOK・OFFで発見。が、それは単行本。もうそんなの押し込める書棚余裕ないけれど、作者が奥田英朗さんゆえ即買い。300円。
そうか、あのドラマは奥田さん原作だったのか。我輩、著者の数少ない犯罪小説ファン。というより、素人が犯してしまう犯罪小説が好きなんだけど。
で、本書「ナオミとカナコ」謳い文句は、[いっそ、二人で殺そうか。あんたの旦那][ナオミとカナコの祈りにも似た決断に、やがて読者も二人の「共犯者」になる]という、待望の奥田さんの犯罪小説。
・・・終章に達した18日午後4時、素人犯罪者の行く末を想像し、この日はじめてのタバコに火を点ける(最近タバコがまずいのだ)。この「不安感」と「タバコ」が毎回高評価につながっている。
後日、すでに本書が文庫化されてることを知る。これは買って読むべきですぞ。ただ、[うりふたつ]の点には引っかかるけど、桐野夏生の傑作「OUT」を思い起こさせてもくれます。

常々疑問に思っていたこと解消かのノンフィクション2作。
日頃、第二次大戦下でのドイツ描く映画やノンフィクション本などに接していると、「ドイツ軍人たちは唯々諾々とユダヤ人や一般人の虐殺行為に関わっていたんだろうか」との疑問が。
そこで目にしたのが、今年9月発行の中公新書「ヒトラーの脱走兵」
副題は[裏切りか抵抗か、ドイツ最後のタブー]。謳い文句は[脱走兵は死なねばならない(ヒトラー「わが闘争」) 私は決して英雄ではない、だが臆病者ではない(脱走兵バウマン)]。筆者はドイツ現代史専攻の秋田大学名誉教授。
・・・本書によると、米軍脱走兵2万1千人、死刑判決162人、処刑一人に対し、独軍30万人、捕まった13万人のうち死刑判決3万5千人、処刑2万4千人、残った10万人は最前線の懲罰部隊に送られ戦死もしくは刑務所での拷問死。生き延びたのはわずか4千人。
そしての戦後、東ドイツでは戦犯およびナチ党員の摘発が行われたことに反し、西ドイツ首相アデナウアーの戦後政治では1963年までの14年間、元戦犯、元ナチ党員が国の要職を占め(映画「アイヒマンを追え!」でもその実情が描かれていた)、その結果、大半の脱走兵が虐殺行為に反発しての逃亡だったにもかかわらず、戦後、年金もなく職にも就けずの極貧生活を送ることになる。そして彼らが復権できたのは80年代後半になってから。で、ドイツ人も当たり前の人間だったんだ、と納得。でもそんな脱走兵が長年白眼視され続けた風潮はなんだかなぁ〜だけど。
ドイツは戦後処理を適正に行ったのに対し、日本は謝罪も補償も不十分という、日本でも左派メディアが喧伝し韓国では通説となった「ドイツ見習え論」者はこれをどうみるのだろう。

続くは、南洋諸島紹介の番組などで原住民が「親日的」と報道されるたびに、「激戦に巻き込まれたサイパンやテニアンの人々がなぜ?戦争もしていない韓国はなにかあれば反日云々なのに?」との思いがあった。
同様の疑問抱いた方が、81年生まれのシンガーソングライター寺尾紗穂さん。著書は「南洋と私」
・・・が、本書には「答え」はなかった。
70年代に沖縄旅行した際、呑み屋の女将さんが「沖縄で戦った本土の人が戦後沖縄に来ても当時沖縄にいたとは決して言わない。それほど日本兵はひどかった。けれどアメリカ兵は優しかった」との弁の反面、「祖国復帰」を熱望する人々もいたに似た、「唯一の答えなんてない。人の数だけ思いがある」ということで終わる、モヤモヤの残る作品。

★「ガジュ丸賞!」

奥田英朗「ナオミとカナコ」!

「今夜の本!」(11/2020)完

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