512「不都合な真実」

1.27.水/2021

★火鉢

我が家には、何十年も前に手に入れたものの、なぜか使わずじまいの長火鉢がある。
時代劇での、岡っ引きの住まいなどで見かける木製の長火鉢だ。
その長火鉢囲み、夜な夜な友と炭火での燗酒酌み交す場面想像しつつ、はや数十年・・・。

一時は倉庫改造の書庫での活用をと考えたけれど、書庫に運び込んで5年がこれも過ぎたというのに、使わずじまい(多分にこれは、書庫自体が未活用ゆえ)。
でこの正月、酒盃片手に録画映画を夜な夜な観続けている本宅二階部屋に設置したならば、酒燗するにも好都合と、息子らに書庫から運び込んでもらった。

★木炭

炭は、これももう何年も前に調達済み。
先日は着火剤をホームセンターで購入。
が、持ち帰ってその説明文読むと、着火時黒煙発生云々で、室内向けではまるでなかった、それは屋外キャンプ用品。

なら火鉢の炭はどうやって熾す?
子供の頃はどうしてたんだったっけ?
当時、大阪の阿倍野に住んでいたけれど、風呂は薪で沸かし、外側木張りの小さな冷蔵庫は氷屋のブロック氷入れる仕様。夏は雨戸も開けっ放しでの蚊帳吊っての就寝・・・そんな時代、確か母親はガスコンロで着火してたんではなかったか?

で1月の22日木曜日、ガスコンロに金網と炭乗せての初めて火入れ式。
長火鉢付属の灰は石灰のような真っ白いモノ。他に、灰を均すコテや金属製の火箸なども付いている。
子供の頃は藁を庭で燃やし、その黒々とした藁灰を火鉢に入れていたものだ。
冬が終わる頃にはその灰は古くさい灰色と化し、毎年新しい藁灰に入れ替えられると子供心にも新鮮で、かつこれからの暖かさ想像して心躍る気分に・・・が、今どき藁なんて身近で入手できるはずもなく、焚き火もおいそれとはできぬ窮屈な時代・・・ん?この石灰状のモノは汚れっぱなしなるんだろうか?

ま、その記念すべき炭入れの日、石油ストーブやエアコンスイッチ切り、昔懐かしい赤々とし始めた炭火の上に南部鉄瓶乗せ、これで雰囲気は満点。
・・・満点なんだけど、かつて火鉢の温もりだけで真冬を乗り切っていたことが信じられぬほど、暖かくないではないか?・・・昨今の暖房器具機能に、体が馴染みすぎてしまっていた。
高野山奥の、厳寒の祖父宅で火鉢だけが温源だったのも今となってはこれも信じられぬ。祖父宅には囲炉裏やかまどの火があったにしてもだ・・・マリリン・モンローの1955年の映画「七年目の浮気」観ていたらその時代、主人公中流家庭にはすでにクーラー完備なのに気づいた。なのに日本じゃそんな生活。これじゃ日米戦争にも負けるはず・・・。

★!!

鉄瓶から吹き出し始めた蒸気に冷たい手かざしながらそんなことをつらつら思っていると、突如、けたたましい音が!
な、なんなんだ!?
鳴り響く音に続いて、「空気が汚れています!ただちに窓を開け、空気を入れ替えてください!空気を入れ替えてください!」との女性の声。
え、えっ!これってナニ?!どっから!?
隣室台所の、ガス漏れ・火災報知器からだった・・・。

★スイッチが、スイッチが・・・

病の後遺症で足が不自由というのに高めの椅子踏み台にし、天井近くに設置されたその報知器に、背伸びしつつ手をいっぱいに伸ばして、ようやくスイッチOFF。もちろん台所の窓も開けて・・・。

火鉢部屋(ここはこれからこう呼ぶ)に戻り再び火鉢にしがみつくと、またもや、警報!
台所と火鉢部屋とは戸でピッタリ仕切られているというのにだ?
で、それから数分ごとに警報!そしてのOFF、警報!そしてのOFFの繰り返し・・・。
近所が消防に通報するんじゃなかろうか、消防車より椅子から転げ落ちて救急車が・・・なんてぶざまな展開想像しつつスイッチOFF繰り返してると・・・スイッチ馬鹿になったのか、警報音が止まらなくなってしまった。

その報知器、「ピコピコ」なんてバカげた名のヤツが憎たらしくも思えてき、食器棚裏の報知器コンセント手探りで探し出し、電源コード引っこ抜いてようやく静寂・・・短時間の酷使でこの「ピコピコ」、壊れてしまったのかも。
そんなことしてる間に、記念すべき炭火は早くも消えつつあった・・・部屋暖める間もなく。

★さようなら・・・

昨今の住宅では火鉢などもう使えぬ時代と化していたのだ。
子供の頃、炭火の一酸化炭素中毒で頭が痛くなり始めると親に窓を開けさせられていたというのに、今や窓を開けていても・・・という敏感すぎる機器に振り回されるご時世となっていたのだ(タバコにも簡単に火をつけられぬ時代だし)。ショーン・コネリーも昨秋亡くなり、我が古き良き時代はこうして消え去ろうとしていた・・・。

「不都合な真実」完

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