515「今夜の本!」(2/2021のベストは?)

3.3.水/2021

ガジュ丸評価基準。
5「傑作!」 4「秀作」 3.5「佳作」 3「普通作」 2「不満作」 1「駄作?」
NF=ノンフィクション系 ※=再読作

★「今夜の本!」

01.「月と雷」角田光代/中公文庫/4.0 ※
02.「だれかの木琴」井上荒野/幻冬舎文庫/4.0
03.「1968 三億円事件」短編集/日本推理作家協会 編/幻冬舎文庫/4.0
04.「不協和音」クリスティーン・ベル/小学館文庫/2.0 国際スリラー作家協会賞
05.「狂」坂東眞砂子/幻冬舎文庫/1.0

★「原作vs映画」
原作と映像作品、どちらが「優?」

「月と雷」原作:角田光代○ vs 映画監督:安藤尋 脚本:本調有香◎
「だれかの木琴」原作:井上荒野○ vs 映画監督:東陽一 脚本:東陽一◎

他人の家に[寄生]して暮らす母子、好きでもない美容師に異常な執着心を抱く主婦という、共に特異な人物像を描いた両作品、原作と映像共に甲乙つけがたし。が、映像の方が今も心に残っての差。

★「寸評!」

サラリーマン時代、先輩に「三億円事件の犯人はスミちゃんみたいなヤツとちゃうか」と、なぜか言われたことがある。我輩に犯罪者的気質ありとみたんだろうか。ま、そんな気質プラス明晰な頭脳あるならば完全犯罪を、という気持ちは常々抱いてはいるんだけれど・・・で、こんな作品集あったんだと興味津々で読んだのが「1968 三億円事件」
五人の作家が、「もしかすると」の事件舞台裏を描いている。なかでも、小学生女児が遅刻しての登校途中、偶然犯行現場に出くわし犯人を目撃。その犯人に初恋の感情を抱いてしまって・・・という織守きょうや「初恋は実らない」が印象的。こんな作品集、テレビドラマ化して欲しい。

読書人生前半は翻訳小説一辺倒だった。なのに昨今、つまらぬ翻訳作品ばかりに出くわし遠ざかる一方。スリラー小説の受賞作「不協和音」もそうだった。
最愛の夫を亡くした主婦のもとに、夫の過去の愛人と名乗る、誰もが知らぬ人物からの奇妙なお悔やみの手紙が届く。それを発端に、彼女の周囲で奇妙な出来事が次々と・・・で、じわじわと追い詰められていく彼女を待ち受けていたのは?という興味そそる内容。
なのに、解説者の脳科学者中野信子さんの「繰り返し被害者の認知と感覚を狂わせ、正気であるのかどうかを自分で確かめられないように仕組んで精神的に追い詰める行為を、映画[ガス燈]のタイトルにちなんで[ガスライティング]と呼ぶ」という文庫帯の謳い文句で、かつてなら「この物語はなんなんだ?」かものはずが、終盤までの興味が単に「誰の仕業?」だけに。ま、その「誰」の正体が明かされる終章数ページだけは受賞に相当かもだったけど。

作品に当たり外れのある作家のお一人が坂東眞砂子さん。直木賞の傑作「山妣」や柴田錬三郎賞「曼荼羅道」以外、いまのところハズレばかり。江戸時代の史実に基づくという狗神憑依事件テーマの大作「狂」もそう。リアル感まるでなし。絵空事のような憑依描写が延々と続く展開に、疲れた。

★「ガジュ丸賞!」

角田光代「月と雷」は再読だし、井上荒野「だれかの木琴」にしよう。

「今夜の本!」2/2021 完

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