526「今夜の本!」(6/2021のベストは?)

7.2.金/2021

ガジュ丸評価基準。
5「傑作!」 4「秀作」 3.5「佳作」 3「普通」 2「不満作」 1「駄作?」
NF=ノンフィクション系 ※=再読作

★「今夜の本!

01.「どんでん返し」短編集/笹沢左保/双葉文庫/3.0
02.「代償」伊岡瞬/角川文庫/4.0
03.「樹海」短編集/鈴木光司/文春文庫/4.0
04.「血の葬送曲」ベン・クリード/角川文庫/3.0
05.「迷い家」山吹静吽/角川ホラー文庫/3.0 日本ホラー小説大賞優秀賞
06.「ヨコハマメリー」NF/中村高寛/河出書房新社/4.0
07.「あやまち」沢村凛/講談社文庫/4.0

★「ガジュ丸賞!」

かつてのTV時代劇「木枯し紋次郎」(好みじゃなかった)の原作者でもあった故・笹沢左保(ファンじゃなかった)の復刊短編集「どんでん返し」。
その題名に惹かれて読んでみた6篇。
読了後ひと月もすると、「どんでん返し」というほどでもない結末と(飽きずには読めたはず。なのに内容忘却)全編会話だけで構成という異色さだけが印象に残り(良い意味じゃなく)、この構成について解説ではなんと記されてるんだろと思いきや、解説ページ自体がなかったという、二流出版かの双葉社本。

解説文なしは、受賞作というのに角川の「迷い家」も。
帯の宣伝文句では、貴志祐介(著者の角川ホラー文庫「黒い家」は傑作)や宮部みゆきさんら選考委員絶賛とあるのに、選考過程ふくめなんの解説もなしという、不可解な角川本。
大戦末期、疎開先の山村で起きた児童の「神隠し」を発端にした、日本の怪異網羅の力作なのに。ま、その怪異集約の点だけが力作と思えたんだけど。

トム・ロブ・スミスの「チャイルド44」は、スターリン体制下のソ連の暗部を描いた傑作だったけれど、その興奮再びかの「血の葬送曲」は、戦後まもないレニングラードを舞台にした同じくの警察小説。
が、母が子を密告したり、警察署員全員が収容所送りにされるという共産主義社会の異様さが描かれるも、猟奇殺人事件捜査がメイン。で、共産主義の不条理と捜査を融合させた「チャイルド44」には及ばず。定価千円。ブックオフなら10冊買えた・・・。

異様な表紙写真に惹きつけられたノンフィクション「ヨコハマメリー」
副題は「かつて白化粧の老娼婦がいた」
その老婆の全身白ずくめ(顔は歌舞伎役者の白塗り風。ドレスも靴も白)の風体の写真が目に止まったのだ。彼女は一体何者なのか?我輩同様そう思った著者が彼女のドキュメンタリ映画を作ろうと、彼女の足跡を追った日々が描かれている。
戦後、進駐軍将校相手の街娼だったメリーさん、同時代を生きた世代は彼女に特別な想いがあり、彼女に対し優しく暖かかったという。が、戦争を知らない世代に時が移ると、浮浪者、変人とみなされ、街から追い出されてしまったのが1995年。石黒ケイ「港のマリア」、ダ・カーポ「横浜マリー」、根本美鶴代「夜明けのマリア」、淡谷のり子「昨夜の男」、デイヴ平尾「マリアンヌと呼ばれた女」など、メリーさん題材の歌が連作されたというほどのある意味では有名人。30代の頃に東京在住だった我輩も彼女を目にできたかもしれない。完成したドキュメンタリ映画も観たしの、これぞ力作。。

5月のページで、「イヤミス傑作選」という短編集について、「イヤミス」って「後味が悪いミステリー」のことだけど、その点では期待したほどの「イヤミス」ではなかったと記した。けれど、これこそ「イヤミス」なのが、伊岡瞬「代償」。
小学生の男の子の両親が火災で亡くなり、同級生の少年がいる遠縁の家庭に引き取られる。それからの悲惨な日々が「イヤ〜な」描写なのだ。かつて三浦綾子さんの傑作「氷点」の継子いじめに涙した時代に比べ、現世はこんなにもイヤな人間の存在など珍しことではないかも・・・とも思わせるまさにの「イヤミス」本。

久方ぶりの鈴木光司さんの作品は、連作短編集「樹海」
我輩、富士山麓の「樹海」自体に興味アリで(「迷い家」で描かれる山怪も)、そこに入り込んでしまった人々の6作品は興味深く読め、「樹海」世界を堪能。

上記三冊に比べ、読みふけって、悪しき習慣となった録画映画も観ずにの一日で読了したのが沢村凛「あやまち」
題がいい。身近な出来事が綴られているようで。で、読み始めるとまさにその通りの展開。「美人でもなく、特技もなく、恋人もなく、誰にでもできそうな仕事を日々こなして、ぎりぎりの生活費を稼いでいる、三十代まぢかの一人暮らしの女」が、通勤途中の地下鉄階段で毎朝出会う一人の男と・・・ま、読んでみてください。彼女と彼の「あやまち」のドラマを。6月の「ガジュマル賞」作品です。

「今夜の本!」6/2021 完

<戻る>