528「今夜の本!」(7/2021のベストは?)

8.4.水/2021

ガジュ丸評価基準。
5「傑作!」 4「秀作」 3.5「佳作」 3「普通」 2「不満作」 1「駄作?」
NF=ノンフィクション類 ※=再読作

★「今夜の本!」

01.「非在」鳥飼否宇/角川文庫/3.5
02.「自殺」NF/末井昭/朝日出版社/3.0
03.「虚構の家」曽野綾子/文春文庫/3.5
04.「スイート・マイホーム」神津凛子/講談社文庫/4.0 小説現代長編新人賞
05.「愚者の毒」宇佐美まこと/祥伝社文庫/4.0
06.「月の満ち欠け」佐藤正午/岩波文庫/4.0 直木賞
07.「駄作」ジェシー・ケラーマン/ハヤカワ文庫/1.0
08.「帰郷」短編集/浅田次郎/集英社文庫/3.5 大仏次郎賞
09.「真昼の暗黒」アーサー・ケストラー/岩波文庫/2.0

★7月の「ガジュ丸賞!」

7月のイッキ読み、四作!

奄美大島の海岸に漂着した一枚のフロッピーディスク。
それにはある大学サークルが、秦の始皇帝に命じられ不老不死の秘薬を求めて探検に出た徐福がたどり着いたとされる、人魚が生息し仙人が棲むという蓬莱山と思われる絶海の孤島にたどり着いた調査記録が。行方不明となったサークルのメンバーを救助すべく、捜索隊は謎の島を探し出し・・・かつて半村良が描いた伝奇小説のワクワク感を思い起こさせてくれる「非在」。

「家」を舞台にした傑作ホラー、小野不由美「残穢」、小池真理子「墓地を見おろす家」、リチャード・マシスン「地獄の家」の”怖ろしさ”を彷彿とさせてくれる、念願のマイホームを購入した家族を待ち受ける恐怖譚。が、単なるホラーで終わらせていない「スイート・マイホーム」。

以前読んだ著者の「入らずの森」が、たしか印象に残らぬ作品で久しく手にしなかった宇佐美まこと本。が、「衝撃の傑作」の謳い文句かつブックオフ価格百円ゆえの「愚者の毒」は、筑豊の廃坑集落で極貧生活を送った少年少女に20年後の1985年、忌まわしい過去の因縁が襲いかかるという、謳い文句通りの展開。宇佐美さん見直して「入らずの森」再読したしとなる。

佐藤正午さんの傑作「Y」を超える作品はまぁ無いであろうと高をくくってその後は佐藤本手にせずだったことを後悔したのが「月の満ち欠け」(歌野晶午さんの傑作「葉桜の季節に君を想うということ」読後に数作読んでの経験から)。
冒頭の、男と7歳の小学生女児のかみ合わぬ会話で「この話はなんなんだよ!」とイライラ。文庫カバー掲載のあらすじに目を移してみると・・・「生まれ変わり」がテーマだった。なるほど。で、三人の男と一人の女の、三十余年におよぶ数奇な愛の奇跡が描かれた物語に、このテーマでここまで書き込めるのか!と感嘆。積ん読状態の佐藤本、読みつくしたしとなる。

青春時代に、翻訳された全作品をたぶん読破したであろう海外作家のお一人、ハドリー・チェイスの「悪女イブ」は、他人の戯曲を盗作して華々しくデビューした(してしまった)男が、その虚名と実力の差に苦悩し破滅していくさまを息詰まるタッチで描ききった傑作だった。
以降、同様のテーマ作品を何冊か手にしたけれどすべて及ばず・・・のところにアメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞ノミネートってんで、大作「駄作」を読んでみた。
盗作する状況描いた出だしは、まぁまぁ。
が、ウリ文句で「本書には奇想天外な展開があることを警告しておきます」とあり、その待ち受けているであろう「展開」期待しつつ読みすすめると、出だし以降のバカらしい展開がその「奇想天外」とやらだった・・・。
「ノミネート」イコール「読ませる」本とは限らぬ見本みたいな、まさにの「駄作」。

この作品で、今月の高揚した読書熱に水をさされ・・・次に手にしたのが、スターリン時代の大粛清を暴きベストセラーとなったという政治小説「真昼の暗黒」。
ソ連体制の暗部・暴虐を暴いたソルジェニーツィンの「収容所群島」の迫力にはとても及ばないと解説にあり、興味半減しつつ読みきった、しんどい本。
けれど、「群島」の四半世紀も前の1940年にソ連批判の本書が書かれたことには驚かされる。

で、7月の「ガジュマル賞!」は、佐藤正午さんの「月の満ち欠け」!

※ここ数年、年間ベスト10を記していないことに気づいた。
かなり前から「傑作!」と思えた作品を「秀作」止まりの評価にしている。
読後すぐの高揚感で「傑作!」と評価していることに気づいたゆえ。
時を経ても忘れられない作品こそが我輩にとっての「傑作!」なんだろうと(上記文中「傑作」とあるのはまさにの「傑作!」か)、近々「年間ベスト10」で、その「傑作!」ご紹介させていただきます。

「今夜の本!」7/2021 完

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