532「今夜の本!」(8/2021のベストは?)

9.4.土/2021

ガジュ丸評価基準。
5「傑作!」 4「秀作」 3.5「佳作」 3「普通」 2「不満作」 1「駄作?」
NF=ノンフィクション類 ※=再読作

★「今夜の本!」

01.「黄昏の彼女たち」上下/サラ・ウォーターズ/創元推理文庫/4.0
02.「人を殺すとはどういうことか」NF/美達大和/新潮文庫/3.5
03.「大阪ブタ箱物語」NF/高橋正鶴/彩図社/3.5
04.「月のうた」穂高 明/ポプラ文庫/3.0 ポプラ社小説大賞優秀賞
05.「ホーラ 死都」篠田節子/文春文庫/2.0
06.「監禁」S・A・ボディーン/マグノリア ブックス/3.5

★「断念!本」
「面白くなさそう」と中断してしまった、「断念=残念」本は?

「私の沖縄戦記 前田高地・六十年目の証言」外間守善/角川ソフィア文庫

ありったけの地獄をひとつにまとめた」と米軍に言わしめた沖縄・前田高地での激戦。その映画化作品、メル・ギブソン監督「ハクソー・リッジ」(2016)で描かれた、断崖絶壁という立地での攻防戦に違和感覚え、その実態は?と手にとる。著者はその攻防戦での生存者。
が、沖縄の地図が掲載されてはいるものの大雑把すぎ、冒頭から頻繁に出てくる各地名がどのあたりか皆目わからず、戦闘状況把握できずで断念。かつ、岸和田図書館からの取り寄せ本ゆえ返却延長もできず。ま、浦添城址南東にその前田高地があるとはわかり、沖縄訪問時に訪れてみようでページを閉じる。

★8月の「ガジュ丸賞!」

8月のイッキ読み、二冊!

本邦初訳の女流作家ボディーンの「監禁」。
裕福な家庭に生まれ育った17歳の少女リビー。が、幼少期からつづくイジメで人間不信に。唯一の友人はローリーという名のネットで知り合った”愛する”少年のみ。けれども彼女は処女出版のファンタジー小説がベストセラーとなり、世界的に名を馳せる有名作家でもある。
冒頭、その彼女が道に迷い、運転する車が森の中で横転事故。気づくと、見知らぬ地下室に監禁されていて・・・。
その家の女主人がリビーを監禁する理由が不明なまま物語が進み、大団円迎えた終章で残り五ミリほどもある幅のページが残っていて・・・「ん?なんで?まだこんなに書くことあんの?」
スティーブン・キングの、熱狂的ファンが作家を監禁し、自分好みの作品を書かせる秀作「ミザリー」(1987)に似た展開ながら、この五ミリの展開で「なるほど!」。
ただライトノベル的な軽さが気になっていたところ、訳者あとがきで著者が「絵本作家」「ヤングアダルト向け小説作家」でもあると知り、「なるほど・・・」(本作はヤングアダルト作じゃないけれど、たぶん)。

高橋正鶴「大阪ブタ箱物語」は、副題が「突然逮捕されて留置場にぶち込まれたらどうなる?」。
許可証はいらぬと知人に聞いて開店した大阪ミナミのラウンジ。ある日突然、風俗無許可営業で逮捕され、22日間の留置場生活を送るはめに。
この作品の前に美達大和(仮名)の、副題が「長期LB級刑務所・殺人犯の告白」という「人を殺すとはどういうことか」を読み、獄中生活に興味抱いたわけ。
刑期10年以上の重罪犯が収容されるLB級刑務所に無期懲役囚として服役中の殺人犯の手記「人を殺す」より、たかが許可証一枚で前科者になるという、水商売経験者としては身近で現実的な問題で興味深く読めた。かつ、我輩と同世代の高橋さん、無一文になっての本書執筆により、コレを機会に次回作も出せれば生活も「なんとかなるだろう」との楽天的生き方にも共感。
両書通じて知ったのは、周囲の服役囚らが「反省の欠片もない」人間ばかりだということ。仮釈放に有利になるよう反省しているフリをしてるだけ、らしい(殺人犯美達大和は仮釈放を拒否している、らしいが)。
また、高度の知能を有する美達大和という、ためらいもなく二人を殺害した著者の作品には、事件に対する心理学者のコメントは大半が的外れだとか、ドラマで描かれる殺人シーンでは人は死なないとか、数々の「そうなんだ」的逸話も多し。

地元書店であいも変わらず見かけぬ英国女流作家サラ・ウォーターズの新作。
前作は古書店で、今回は図書館で発見。
サマセット・モーム賞「半身」、英国推理作家協会賞「荊の城」は、ともにヴィクトリア朝を舞台にした傑作。続く「夜愁」「エアーズ家の没落」は、第二次世界大戦中と後の時代をそれぞれ舞台にした残念ながらの凡作。
そして改めて期待の、今回の2014年「黄昏の彼女たち」は、第一次世界大戦直後のロンドンが舞台。
零落した上流階級の母娘が屋敷の維持のため仕方なく下宿人を置くことに。やってきたのは下層階級の若夫婦。当初、他人がいる生活に慣れない母娘だが、娘フランシスはふとしたきっかけで若妻リリアンと交流を深めることになり・・・。
上下ともに四百ページあまりの大作。
上巻の緻密すぎる心理描写に辟易するものの、「この物語は読者をどこに連れて行くのか」と傑作2作が評されたようにその雰囲気はあり、スリリングな展開期待し読みすすめると、「おいおい、フランシスとリリアンはどうなるんだ!?」と、下巻まるまるページ繰る手が止まらずの、「!」作品。
 
我輩ファンの書評家、池上冬樹さんと北上次郎さん両氏絶賛の「月のうた」は、盛り上がりに欠けるか。
これまた我輩ファンの篠田節子さんの「ホーラ」も、同様・・・。

で、「ガジュ丸賞!」は、サラ・ウォーターズ「黄昏の彼女たち」に!

「今夜の本!」8/2021 完

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