544「今夜の本!」(1/2022のベストは?)

02.15.火/2022

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「必読!」 4「オススメ!」 3.5「損なし」 3「普通」 2「不満!」 1「駄作?」
NF=ノンフィクション類 ※=再読 ?=ようワカラン

01.「罪の声」塩田武士/講談社文庫/3.5
02.「さがしもの」短編集/角田光代/新潮文庫/3.5
03.「誰の為の女」石川達三/講談社文庫/4.0
04.「ドールズ」高橋克彦/角川文庫/3.0
05.「"鬼畜"の家 わが子を殺す親たち」NF/石井光太/新潮文庫/4.0
06.「水やりはいつも深夜だけど」短編集/窪美澄/角川文庫/3.5
07.「戦争童話集」短編集/野坂昭如/文庫/3.5

★「原作 vs 映画」(原作と映像作品、どちらが「優?」)

「罪の声」原作/塩田武士○ vs 映画/監督:土井裕泰 脚本:野木亜紀子×

あいも変わらず、録画映像と飲酒に飽き飽きしてのベッドでの酔眼読書は丑三つ刻から。
で、グリコ・森永事件題材の本作、犯人からの身代金受け渡し指示電話の「子ども」の存在が常々気になっていたゆえ読みたかった本であり観たかった映画である。

原作は文庫で500ページ超える大作。
その子どもの一人が成人後に自分の声だと気づき、本人が事件を調べ始めるのと同時に、新聞記者が未解決事件の特集組むため取材を開始・・・という同時進行の展開。ゆえに夜更けかつ酔眼ゆえ話がこんがらがっての途中から再読。
で、本と映画の比較は端的にいうと、映画は記者やその上司の人物造形に深み無さすぎ薄っぺらな印象。原作は悪くいえば緻密すぎる展開か。が、犯人たちの実像はもしかして原作通りなのかもと思わせるほどで、原作に軍配。が、あの声の三人の子どもたちはいかなる人生を?と、はたまた悶々。

★「ガジュ丸賞!」

短編集の「さがしもの」と「水やりはいつも深夜だけど」の角田光代さんと窪美澄さんは、今時点もそれぞれ「八日目の蝉」「ふがいない僕は空を見た」を頂点とし、ハズレなしの作家。

本を主題にした9短編集「さがしもの」の解説者岡崎武志さんいわく「人間は乳幼児の段階で、母親が膝に抱いて本を持つと、ページを指でめくろうとするらしい。いま見ているページの先に、何があるのか、知りたくて手が本に伸びていく。それは人間の本能なのだ。(中略)本を支えるために両指は5本あり、指の腹には滑り止めの指紋がついている。座って組んだ足の膝あたりに、本を置けば、ちょうど目と本の距離がいちばん適切な近さ遠さになる。だから”人間は本を読むために生まれてきた動物”なのだ。電車のなかで、本も読まずにケータイ電話にぶらさがってメールを打っている姿のなんと不自然なことか」。言い得て妙。

石川達三さん、野坂昭如さんは若き頃に愛読した作家。
「誰の為の女」は未読だった。
離婚歴のある女が同じく離婚者である愛する男と一夜を過ごす。と、男から手紙が届く。女は結婚の申込みかと期待したのもつかの間、それは身勝手にも女の「過去の男関係」が気になってという決別の内容。女は返信したため始め・・・。うーん、女の愚痴なんかが始まるのかよ、と思いきや・・・。

「戦争童話集」の題名は知ってはいたけれど、童話ということから躊躇し、何十年も手にしなかった作品。
すべて「昭和二十年、八月十五日」で始まる12の短編集。童話の形式だけれども戦争の悲惨さが伝わってくる、変わらずの野坂節。

ウディ・アレンは監督した映画作品のなかで主人公に「最近の映画は面白い。けれど心に残らない」と語らせ、書評家北上次郎さんは「昨今の作品にくらべ、戦中世代作家の冒険小説は傑作が多かった」というようなことを述べ、東大名誉教授平川祐弘氏は死去された石原慎太郎氏に関する新聞投稿記事のなかで、「傑出した文豪として存在感のある鴎外・漱石に比べて戦後派(石原慎太郎、大江健三郎)は品格・学識にかける」とまで述べている。

で今回、石川、野坂両氏の作品あらためて読み、現代作家の作品よりもコクって深く、考えさせられる(考えないけど)との感。
ゆえに今年からは積極的に先人の作品を手にしようと決意(ま、年末決意の「ヨミソッキ!」も企画倒れ傾向の、O型気質者の決意なんだけど)

で、1月の「ガジュ丸賞!」は?
「誰の為の女」と迷った挙げ句、虐待通報10万件超すとの報道もあり、「鬼畜」という題など「畜生」に失礼だ、本書に度々出てくる「良識のない」という語句も見当外れで「異常」が妥当との感の石井光太「"鬼畜"の家 わが子を殺す親たち」となる。

2000年代発覚の「厚木市幼児餓死白骨化事件」「下田市嬰児連続殺害事件」「足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件」を取り上げたノンフィクション。
恐ろしいのは手を下した親たちよりも、その彼らを産み落とした祖父母にあたる親らの異常さが心に残った。それも読後、三篇の彼らの見分けがつかぬほど異常さが似通っているとも気づいて愕然。
我輩がヒトラーなら彼らを子どもたちが受けた虐待方法で死に至らしめるだろう。それ以前に断種だ。人権?いや、家畜以下の異常生物ゆえ、無用無視。

「今夜の本!/2022」(1月のベストは?)完

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