559「今夜の本!」(5〜6/2022のベストは?)

07.15.金/2022

ガジュ丸評価基準。
5「必読!」 4「オススメ!」 3.5「損なし」 3「普通」 2「不満!」 1「駄作?」
NF=ノンフィクション類 ※=再読 ?=ようワカラン

★「今夜の本!」(5月)

01.「結婚恐怖」小林信彦/新潮文庫/(既読本?)3.0
02.「眠れぬ夜に読む本」NF/遠藤周作/光文社文庫/4.0
03.「行方」春口裕子/双葉文庫/3.5+
04.「心霊電流 上」スティーヴン・キング/文藝春秋/2.0
05.「イジ女」短編集/春口裕子/双葉文庫/3.5

★「今夜の名言!」

「音楽は重要だ。大衆小説は忘れられるし、テレビ番組も忘れられる。二年前に観た映画の内容を、おまえはすらすらと答えられまい?しかし、音楽は色褪せない。大衆音楽さえ色褪せない。いや、大衆音楽ほど色褪せない。「雨にぬれても」を鼻で笑うのは勝手だが、人々はあのくだらない曲を五十年後も聴きつづけてるはずだ」
最近のキング長編は面白くない。けれど「心霊電流 」での元ミュージシャンのセリフには「そうだよなぁ」(かつては「そうだよなぁ」セリフも多かったキング・・・)。

★「ガジュ丸賞!」

久しぶりの遠藤周作さん作品。
向田邦子さんのエッセイを改めて読んでみようと出向いた古書店で、代わりに見つけた1996年文庫本初版「眠れぬ夜に読む本」は、珍しいほど「うん、うん」とうなづくばかりのエッセイ集。我輩同様遠藤さん、高校時代は劣等生だったという経歴にも親しみ感じて・・・。
遠藤さん作品は、らい病に罹患していると知り、その女を無慈悲に棄て去る大学生を描いた1960年代の「わたしが・棄てた・女」でファンに(浦山桐郎監督 河原崎長一郎主演の同名映画もオススメ)。けれど我輩、反宗教気質ゆえカトリック教徒題材の「沈黙」で遠ざかってしまった作家。けれども俄然、本書で未読本読みたくなってきた。

春口裕子さんを初めて知った「行方」は、公園から忽然と姿を消した三歳の少女。両親は必死に捜すが・・・22年後、事件が動く。
古くは1970年の夏樹静子さんの「天使が消えていく」、角田光代さんの傑作「八日目の蝉」、桐野夏生さんの直木賞受賞作「柔らかな頬」など、幼児が関わる悲劇は身につまされるテーマ。本書読後「他の作品も」と古書店回ったけれど、手に入ったのは”女子のイヤ汁漏れまくり」系小説”「イジ女」のみ。続けて読んでみたい作家。

で、5月の「ガジュ丸賞!」は、遠藤周作「眠れぬ夜に読む本」!


★「今夜の本!」(6月)

01.「心霊電流 下」スティーヴン・キング/文藝春秋/2.0
02.「アウシュヴィッツの囚人写真家」NF/ルーカ・クリッパ マウリツィオ・オンニス/河出書房新社/4.0
03.「レストラン 『ドイツ亭』」アネット・ヘス/河出書房新社/3.5
04.「姫君を喰う話」短編集/宇能鴻一郎/新潮文庫/3.5

大戦下のアウシュヴィッツ強制収容所の被収容者肖像写真をニュース映像などで目にした方は多いと思う。1人につき三ポーズ。「着帽、右斜め四十五度」「無帽、正面」「無帽、真横」のモノクロ写真だ。
「アウシュヴィッツの囚人写真家」は、囚人だが写真家としての腕とドイツ語に堪能だったことから、死を目前にした被収容者の管理用肖像写真を撮らされ続けたポーランド人ヴィルヘルム・ブラッセ(1917〜2012)の収容所での日々を再現したノンフィクション・ノベル。本書表紙は、幼気な少女のその写真・・・。
ブラッセが死の影に怯えながら五年近くもの間に撮り続けた写真数は4〜5万人分。被収容者の「最後のポートレート」として、少しでもいい写真を残してやろうと、寝る時間を削って写真に修正を加え続けたことからその技術力を見込まれ、収容所内での人体実験の様子や手術担当のヨーゼフ・メンゲレら医師、収容所関係者の写真をも撮らされることになる。
そして敗戦間際、写真の廃棄を命じられたにもかかわらず「非人間的であることが人間的である狂った冷たい世界」を外に知らしめるために写真を隠し通し、それらがのちのニュールンベルグ裁判の証拠品となる。そのことなどふくめ、初めて知ることの多い力作。
ドイツ兵が幾多もの非人道的な蛮行に関わったのは?と読んだ、以前紹介のノンフィクション「ヒトラーの脱走兵」で他国に比べ脱走者が格段に多かったことを知ったが、本書でも収容所のナチスSS隊員の女性が自殺する記述があり、収容所の現実に耐えきれぬドイツ人もいたのだとも知る。

続けて手にした「レストラン 『ドイツ亭』」は、奇しくも、アウシュヴィッツ裁判(戦勝国がドイツの戦争犯罪を裁いたニュールンベルグ裁判の20年後の1963年に行われたドイツの司法がドイツ人を裁いた法廷)で、アウシュヴィッツのことを何も知らない主人公のドイツ人の若き女性が証人のポーランド人被収容者の通訳を担当することになったことから、その裁判が行われるまでの20年間ドイツでは何が起きていたのか?そして主人公の身近な問題として、数千人の収容所運営従事者の中にいまはレストランを経営する愛する両親もいたのではないか?という疑問も浮かび上がり・・・という、これも教えられることの多い大作。

宇能鴻一郎さんって艶笑作家だと思いこんでいた。それも我輩好みでない作風の。が、芥川賞作家だと本書で初めて知った。受賞作「鯨神」ふくむ6篇収録。
キリシタン弾圧下、信徒の花魁がキリスト像の踏み絵を踏むか踏まぬかを描いた「花魁小桜の足」が最も印象に残り、ポルノ以外の宇能作品をもっと読みたくなってきたほど。

で、6月の「ガジュ丸賞!」は、「アウシュヴィッツの囚人写真家」!

「今夜の本!」(5〜6/2022のベストは?)完

<戻る>