561「今夜の本!」(7/2022のベストは?)

08.07.日/2022

ガジュ丸評価基準。
5「必読!」 4「オススメ!」 3.5「損なし」 3「普通」 2「不満!」 1「駄作?」
NF=ノンフィクション類 ※=再読 ?=ようワカラン

★「今夜の本!」

01.「るり姉」椰月美智子/双葉文庫/3.0− 本の雑誌ベスト1
02.「白い人・黄色い人」遠藤周作/新潮文庫/2.0 芥川賞
03.「滑稽 糞尿談 ウィタ・フンニョアリス」短編集/安岡章太郎・編/文春文庫/3.0−
04.「妻は忘れない」短編集/矢樹 純/新潮文庫/3.5
05.「悪い夏」染井為人/角川文庫/3.5 横溝ミステリ大賞優秀賞
06.「骨を弔う」宇佐美まこと/小学館文庫/3.5
07.「1922」中・短編集/スティーブン・キング/文春文庫/3.5
08.「野火」大岡昇平/新潮文庫/3.5
09.「北朝鮮 秘密集会の夜」NF/李 英和/文春文庫/4.0
10.「ホームシックシアター」短編集/春口裕子/実業之日本社/3.5
11.「悪母」春口裕子/実業之日本社/3.5+

★「断念!本」
「面白くなさそう」と中断した「断念=残念」本は?

「植物性恋愛」松本郁子/集英社文庫

★「ガジュ丸賞!」

「本の雑誌」2009年上半期エンターテインメント・ベスト1の「るり姉」は、十代の三姉妹と若き叔母るり子との関わりを描いた家族小説。読んでいてそのほのぼのとした幸福な世界に終始のめり込めずは、なぜ?

5月に読んだ遠藤周作さんのエッセイ集であらためて著者作品を読もうと手にした「白い人・黄色い人」は、ナチのゲシュタポの手先となったフランス人や神父を官警に売り’キリスト’を試すクリスチャンを描いていた。が、著者の宗教題材の「沈黙」で宗教など信じぬ我輩ゆえ読書意欲なくしたことを思い起こさせた、本書はその題材作だった・・・。

今月の「断念!本」の松本郁子「植物性恋愛」の、セックスに関する観念的描写に終始の展開にウンザリしたのと同様、「滑稽 糞尿談」はかねてより読んでみたかった作品ながら、糞尿にまつわる古今東西の話を26篇も読むとこれまたウンザリ。

収録されている各短編テーマが我輩好みの’平凡な日常生活に潜む秘密’の「妻は忘れない」は、現時点でその内容忘却の彼方。が、日本推理作家協会賞受賞作「夫の骨」を読後に買ったんだから、それなりの作品のはず。

生活保護不正受給題材の’クズとワルしか出てこない。最低にして最高’がキャッチフレーズの「悪い夏」も、これまた忘却(詳細をだけど)。昨今の映画は面白いが心に残らない説に小説世界も同化したか・・・。

我輩注目作家のお一人、宇佐美まこと「骨を弔う」は、小学生時代に同級生と山中に埋めた骨格標本が’本当に標本だったのか’との疑念を三十年後に抱いた同級生の一人が、かつての同級生らとともに過去の記憶を探っていくと・・・新味に乏しい展開とも思えたけれども終章で、「さすが!」

さすがといえば、キングの中編「1922」も。大恐慌の影が忍び寄る1922年のアメリカの農業地帯を舞台に、息子の手を借りて性悪な妻を殺害し井戸に捨てた農夫の罪悪感による魂の地獄が描かれている。昨今我輩の好みで言えば低迷気味と思えるキングの長編作に比べ、短・中編ではキング健在の感。

傷病兵の田村一等兵が野戦病院から追い返され、原隊でもまた邪魔者として病院に再度追い返される冒頭描写で既読本かと思いきや、それは1959年の市川崑監督映画作品「野火」での船越英二演ずる傷病兵に対する場面と同じであったからと気づいた大岡昇平原作「野火」。敗残兵描写で強烈な読後感を残した五味川純平「人間の条件」、高木俊郎「インパール」、江崎誠致「ルソンの谷間」での日本軍兵士の悲惨な末路が本作でも描かれている。映画先行で既視感大だったのが残念だけど。

在日三世による北朝鮮留学記「北朝鮮 秘密集会の夜」(副題「留学生が明かす’素顔’の祖国」)は、1991年当時の北朝鮮の負の実態が描かれている。北朝鮮平壌の宿泊ホテルのレストランでのメニュー’海老’’イカ’を注文すると日本の’かっぱえびせん’’さきいか’が出てきたとか、水道の蛇口からはミミズが出てくるなどの当時の実態から30年。なのにいまも国が存続しているのが不思議に思えてくる。終章で描かれる反体制秘密集会の存在で希望が?でも、30年・・・。

6月に読んだ春口裕子さんの幼児失踪テーマの「行方」で読んでみたくなった他作品、三軒まわった大型古書店では見当たらずでの、図書館で見つけた短編集「ホームシックシアター」と長編「悪母」。今月紹介の各短編集は短編という物足らなさが共通点だったけれど、2016年の長編「悪母」は幼児のお受験とママ友の醜い世界がテーマで久しぶりの一晩一気読み。けれど、最近再放送の杏主演の同テーマのテレビドラマ「名前をなくした女神 ようこそ、ママ友地獄へ(初回2011年放送。渡辺千穂脚本)」内容とそっくりな描写が見受けられるのが気になる。問題にならなかったのかしらん。

で、7月の「ガジュ丸賞!」は、李 英和さんの「北朝鮮 秘密集会の夜」!

「今夜の本!」(7/2022のベストは?)完

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