47「無人島に生きる十六人」

4.13.fri./2007

★読書席にて

前回記した「読書席」、その翌日開設。
といっても、余ってたクリップライトをカウンター片隅に目立たぬように取り付けただけだけど。でもこれが結構重宝。お客サンが来られるまでバーボンロックグラス片手に落ち着いて本を読めるのだ。
厨房には明るいライトがあり、本や新聞読もうとすれば読めるのだけども、これが結構落ち着かない。厨房内というのはいわゆる臨戦体制下の雰囲気なのだ。
で、以前から読みかけたままの須川邦彦著「無人島に生きる十六人」(新潮文庫)、一気に読み終える(そんなにヒマなの?・・・はい)。

本書は昭和23年刊行本の復刻版。
明治31年、日本人16名の乗った帆船が太平洋上で座礁。海面からの高さ1メートルほど、周囲もたった百メートルほどの、砂と草だけの砂州に漂着。そこでの無人島生活を描いた実録小説。

そんななにもないに等しい小島でいかに生き抜くか。
水は、火は、食料は、住居は、といった問題を水夫たちの工夫で次々と解決。日本人らしい規律正しい暮らしを送る姿を目の当たりにすると、吉村昭の傑作「漂流」やいくつかの剣豪小説を読み終えたとき同様、かつての日本人はスゴイ、の一言。でもちょっと道徳本的なのがひっかかっての、評価3/5。

海外作でも、砂漠に放り出された男女が生き抜く「砂漠のサバイバルゲーム」(ブライアン・ガーフィールド)や、「15少年漂流記」の暗黒版「蝿の王」(ウイリアム・ゴールディング)、限られた水と空気のもとでなんと月に取り残されてしまう「月は地獄だ!」(ジョン・W・キャンベル)なんてのはもちろんフィクションだけど、それぞれ知恵と工夫で生きぬこうとするスリリングな展開と極限状態下の人間を遠慮会釈なく書き込めるゆえかそれはそれで読み応えありなんだけれど・・・それでもサバイバルものはノンフィクションが優れていると思えるのは、想像を超えた世界が待ち受けているからなんだろうなぁ。
そうそう、子供のころ貸本屋で借りた白土三平「忍者武芸帖」だったかに、剣客が海の真っ只中の半畳ほどの岩礁で毅然と生きてゆく場面があったけれど、あの人はどうなったんだっけ?

★また、ノンフィクションの話

1860年、オーストラリア内陸砂漠初縦断に成功したビクトリア探検隊が、帰還予定日の1ヵ月後に砂漠の残留隊基地に食料尽き疲労困憊の果てにたどり着く。と、基地はすでにもぬけの殻。灼熱の砂漠にとり残されてしまった探検隊の悲劇的な末路を描いた「恐るべき空白」(アラン・ムアーヘッド)や、1914年、南極で難破した28人が極寒の地から生還した「エンデュアランス号漂流」(アルフレッド・ランシング)なども、耐え難い熱気とマイナス何十度のそれぞれの異世界がひしひしと伝わってきてやはりすごかった。

大戦末期、南海の孤島アナタハンに取り残され、終戦を信じず7年余りの自給自足生活を強いられた日本人たちが、ついには殺し合いに至った実話をとりあげた大野芳「絶海密室」などは、そのジャングル生活の詳細な描き方に目からウロコだった。毛色はちがうが高木俊朗の一連の戦記「インパール作戦」物での補給物資なしの戦闘・敗走でバタバタと兵士が餓死してゆくリアルなさまに、それを招いた本土参謀本部の無能、無責任さに読んでるほうもまさに憤死しそうな内容だった。

さぁ、今夜はなにを読もう!
・・・あ、いらっしゃい・・・。

★「今夜の名言!」

「異性に対する強い愛情は、悲しみと相性が良いということに、このとき生まれてはじめて気づいた」
「異邦の騎士」(島田荘司)より。

「無人島に生きる十六人」完

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