106「秋好英明事件」

7.17.thu./2008

★帚木蓬生

帚木蓬生(ははきぎほうせい)は、スゴイ!
朝鮮人強制徴用をベースにした「三たびの海峡」(吉川英治文学新人賞)、戦犯憲兵の逃避行を描いた「逃亡」(柴田錬三郎賞)に次ぐ、大戦を背景にした著者の秀作が、本日読み終えた「総統の防具」(日本経済新聞社)。

冷戦終結後、閉鎖されたベルリン経済大学の倉庫で剣道防具が発見される。
ヒットラーに日本から贈られたらしいその華麗な防具と共に保管されていたのは、1937年からドイツ敗戦に至るまでの出来事を記した、ある日本人の手記(こんな設定、我輩大好き)。

この激動の時代を、ドイツのそして日本の戦略や外交、劣等種族とされた人々への迫害、ナチに対する抵抗運動や総統暗殺計画、そしてドイツ庶民の生活までをも克明に描いた内容。さらに、日本人として初めてヒットラーに会見した一人として「身の血が沸きかえる」と感激した主人公が、次第に「総統暗殺」へと傾斜してゆく心の様もふくめ、日本人がここまで書けるか、というほどの読み応え。

帚木さん作品未読の方は、先にあげた2作品からぜひ読んで欲しい、我輩オススメの作家(すべて文庫化済み)。で、本作評価は4/5。
5でない少々の不満は、この時代のドイツの歴史的記述に「こんなことがあったの?」という新味が(庶民生活のぞいて)少なかったことと、恋人ヒルデとの別れの状況かな。

7.19.sat.

★有川浩

「空の中」(角川文庫)を読む・・・。
著者有川浩の「海の底」という作品は以前読みかけてそのままに。
「海の底」も決して面白くないわけでなく、本作も「すべての本読みが胸躍らせる」云々と解説者もベタ褒めなんだけれども、「総統の防具」なんてある種「重厚な」作品のあとだと、どうもライトノベル的なこれらは読み飛ばして終わりの感、大で・・・。

物語は、高度2万bで航空機事故が相次ぎ、調査の結果その高度に謎の巨大物体が浮遊していることが判明。人類存亡の危機に陥る・・・というもの。
「海の底」は、巨大なザリガニ状の(だったっけ?)大型生物が海底から続々と陸地に這い上がり始め・・・という米映画「スターシップ・トゥルーパーズ」的内容だったが、ま、残り少ない我が人生、この類の小説はもう買わんだろうなぁ(我が本棚在庫分は読むでしょうが)。評価3/5。

★リービング

といっても、昼間DVDでみたオスカー女優ヒラリー・スワンク主演の米映画「リーピング」は、キワモノ的ながら画面に釘付け(単純や・・・)。

奇跡といわれる不可思議現象を科学的見地から次々と解明してゆく主人公が、田舎町の「川が赤く染まり(分析では20〜30万人分の人間の血液と判明)、蛙が空から降り、イナゴの大群が襲い・・・」といった聖書に描かれた奇跡が再現されていく現場で、自分の理論が次々とくつがえされ・・・という、いわゆる「オーメン」的な善と悪の闘いの物語。意外な拾い物で、評価4/5。

7.23.wed.

★久しぶりの休みに・・・

21日月曜は2週間ぶりの休み。
前夜、我が妻タヌコに「月曜、新世界に串カツ食べにいこか?」とメールしたのに月曜夕刻まで返事なし。で、電話。
「メールみた?」
「昼みた」
「なんで返事せえへんねん?」
「・・・・」

墨丸会員320号「青銅の魔人」サンに借りてるDVD「三丁目の夕日」もそろそろみて返さねばと、スーパーで夕食兼酒のあて用に寿司10カンとワカサギ甘露煮、カップ酒の酔心と麦焼酎いいとも計2,537円分購入し帰宅。

で、タヌコに「メールみたら返事せえよな」
「お酒飲むとこと違って、山とか海とか思いつかんのん?」
(本筋はぐらかし、女はこうしておのれを正当化しようとする・・・)。
「串カツはどうでもええねん、あのフェスティバルゲートっていうやつ、もうつぶれるやろからどんなとこかみてみたかってん」
(男もまんまと本筋を忘れさせられる・・・)。
「なんや、そやったらそういえばええのに!」

なんや、その程度かと思いつつ、新世界の串カツなんぞは30数年前、新世界国際で洋画3本立て800円でみた帰り、安いというだけで「これホンマ牛肉やろか?」と疑いつつ飲み込むようにして空腹紛らわせてただけの店。
で、これは今回ホンマ食べたくはなかった。けれど、新聞記事や人の話聞くだけで見たこともない謎のフェステ、知人が出店してることもあり一度行ってみたかったのだ。
じゃなぜ「フェステ行こ」とメールしなかったといえば、くどくどとメール打つのがめんどくさかったのと、その日お客サンとの会話で「串カツ」を瞬間的に食べたくなってたのと、食いもんでつりゃあタヌコも行くかと・・・。

それではと、2週間前の休日持ち帰るのを忘れてた「3丁目の夕日」取り出し「これみよか?」「あ、それもう借りてみたわ」「・・・・」
なんや、2週間前は「はよ持って帰って!」いうとったくせに、あほらしと、我が期待の「サイレントヒル」をみる。
ゴーストタウンに迷い込んだ娘を母親が捜し出そうとする物語。面白そうなのにわけワカランかった・・・気づくとタヌコは眠ってた。評価2/5。

そのあと一人でタヌコおすすめの韓国映画「約束」をみる。
婚約者を残し脱北した青年が、彼女の脱北費用をとがむしゃらに働くうち彼女が結婚したと聞く。失意の青年はソウルの女と結婚するが、その直後集団脱北者のなかに彼女がいることを知り・・・。
主演女優ふくめとってもいい作品なのに、結末に釈然としないのは我輩だけだろか?評価3/5。

つづいて「ラストキング・オブ・スコットランド」をみる。
70年代、悪名高き元ウガンダ大統領アミンの主治医となった若きスコットランド人が、アミンの非道さを目の当たりにするにつれ・・・。
主演の黒人俳優フォレスト・ウィテカーがアカデミー主演男優賞を受賞した作品かつアフリカ映画は愛から虐殺までなんでもありの世界で見ごたえ(?)充分。4/5。

で、まだ眠たくないんで「3丁目・・・」を、と思いきや、日本語セリフ聞き取りにくく音量大にしようにもすでに朝方ゆえ近所迷惑と、前半少しみて断念。それから、次の「まいった、まいった」世界に突入してしまったのである。

★秋好英明事件

いや〜、まいった、まいった・・・。
島田荘司著「秋好英明事件」(文春文庫)、約8百頁の大作を(手にしたときはその分厚さにおののいた)、寝つくまでと布団の中でページをひらく。

・・・この作品、ある殺人の場面から始まり、その同情すべき点などかけらもないように思える犯人秋好英明なる人物はいったいどんな生い立ちなのか、というのがプロローグ。
で、彼が満州で生まれた時代にさかのぼって物語が始まり・・・読み進むにつれ「この本はなんなのだ?」

フィクション?それともノンフィクション?
実話ならばあまりにも微に入り細をうがつ内容ではないか?
あとがきで確認すれば分かることと思いつつ、こんな事件実際にあったら覚えてるはずと夢中になって・・・もう眠らな今日は仕事できんとムリに就寝したのが午前11時。
翌日、仕事を終えふたたび読み始め、はたまた就寝午前11時。
こうしてランチタイムどころではなくなってしまった・・・のだ。
そしてランチ休んで、本日ようやく読了。

不肖我輩、昭和51年に福岡県飯塚市で実際に発生した一家四人惨殺のこの「事件」のことまるで覚えていなかった。いや、数多い事件のなかで覚えているほうがめずらしいのかもしれぬが。
島田荘司さんの著書ではかつて「異邦の騎士」に感激した覚えあるものの、「御手洗潔シリーズ」という本格ミステリー物に興味がなかったゆえその他作品にはあまり接したことがなかったのだがこの作品、「いや〜、スゴイ!」のひとこと。
フィクションならいざ知らず、実在した一人の男の不幸な人生をここまで微に入り細に入りドラマチックに描ききるなんて。そしてその結果、極悪非道と思われた殺人犯にこれほど同情を禁じえなくなるなんて。

彼はすでに死刑執行されたのであろうか?
島田さんのこの事件に関するサイト「top pigeon」にも最近のことは書かれていず、鳩山法相が先日死刑執行を命じた中に彼も入っているんだろうか?余裕があれば彼の支援グループに参加したいほどの「いや〜、まいった、まいった」の読後感(島田サイトの「三浦和義事件」も冤罪という書き込みは気になるが)。評価5/5!

「秋好英明事件」完

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