117「リカとルワンダは、コワイ」

11.3.tue./2008

★安政五年の大脱走

読み終わって、その本をあらためて手に取りじっくり表紙を見つめる、ってのが面白本読後の我輩の読書癖。
今回その表紙を見直したのが、コレ。五十嵐貴久「安政五年の大脱走」(幻冬舎)。

う〜ん、この表紙のイラストみると、物語の舞台となる海に囲まれた高さ二百丈(約六百m)の異様な形の山「絖神岳(こうじんだけ)」の様子がよ〜く分かる(文庫化されてるようだけど、その表紙は?)。

「巨大な茶筒を縦に刀で切った」ような、周囲が垂直の絶壁。その狭い山頂(三丁・約三百二十七m・四方)に、小藩津和野藩士五十一名が理由も分からぬまま幽閉される。昇り降りは山頂から下ろされた一本の鎖を使うのみ。
謀臣長野主膳の進言により、彼らの捕縛を命じたのは幕府の大老井伊直弼。
死罪待ち受ける藩士たちはいかにしてその脱出不能とされる山頂より逃亡するのか、いやできるのか?

う〜ん、こんな脱出方法ってあり〜?が正直な感想だけれど、そこにいたる藩士達の苦闘の日々が読ませるし、絖神岳の様は永く記憶に残りそう。冷酷無比な長野主膳の実像についても知りたくなっての、評価4/5。

11.5.wed.

★ルワンダの涙

飲みに出るのは極力月曜夜のみと決め(誘われたらもうアカンけど。墨丸創業17年目にしてようやく実行できつつあるってのがスゴイといえばスゴイ?)、最近は仕事終えたあと録画した映画鑑賞三昧。

この夜は米映画「ホワイト・ライズ」を。
ハリソン・フォードの「ホワイト・ライズ・ビニーズ」の題名を新聞テレビ欄紙面の都合、省略してんのかと思った。まさかなぁ。

物語は、中国出張間際、青年は電話ボックスの香水の残り香から、不自然な別れに終わった恋人がこのシカゴにいるのではと出張を延期。恋人の痕跡を追いはじめる。しかし彼の前に現われたのは、同じ名前のリサという別人の女・・・。

「透明な嘘」という題名にこめられたミステリアスなゾクゾクするような展開はなんか昔みたような・・・モニカ・ベルッチ出演の「リサ」の愛が悲しい96年仏映画「アパートメント」の、本作はリメイク版だった・・・。
重要な出張仕事ほったらかしての無責任男(みてるとイライラ)は、「パール・ハーバー」のジョシュ・ハートネット。そんな俳優のこの作品より、仏版オリジナルのほうがおすすめですぞ。3/5。

他に印象に残っている映画は、みたと勘違いしていた「ルワンダの涙」
ルワンダの民族紛争をテーマにした実録映画の一本。「彼らにナタで殺されるぐらいなら銃殺して。せめて子供達だけでも」との、以前なにかで知ったセリフがこの作品だった。ナタを振りかざしたフツ族とりまく収容施設に、ツチ族二千数百人を残したまま去ろうとする(!)国連軍司令官にツチ族の代表がそう懇願するシーン。
国連軍撤退直後、笛の合図と共に「作業にかかれ!」の一声で施設のツチ族は虐殺され、かろうじて生き残った人々が制作したという作品という。
評判になった「ホテル・ルワンダ」初めとするルワンダテーマの作品は、黄色人種のわれらにとってもひとごとではないと思わされ、必見。5/5。

名匠フェデリコ・フェリーニが55年に監督した「崖」は、イタリア・ネオリアリズムとでもいうのか、老年にさしかかり将来の生活に不安を覚える詐欺師の日々が描かれてのラスト、純真な小児麻痺の少女を抱える貧しい農家から有り金すべてを騙し取ったあと、仲間に改心したようにいう「あの娘のために金は返してしまった」と。

普通ならここで「な〜るほど。めでたし、めでたし」なんだろうけれども、実は男は金を独り占めに。それがばれ、仲間に追われ崖下で寂しく死んでゆく・・・という結末。フェリーニの代表作「道」は確かこの前後の作品か。4/5。

★夜の河

山本富士子主演の大映映画「夜の河」は、上原謙との今やありきたりの不倫ドラマで56年の作品。
以前ラジオで60年代街頭インタビューの録音が流され、それを聞いた女性アナウンサーが「え、なに、この答えてる女性?女子大生!?」と、その日本語らしい日本語(大和言葉)での上品な受け答えに驚いていたのが印象に残ったが、それほど当時の女性はまだ女性らしい落ち着きがあった。

この映画の山本富士子は20代半ばなんだけれど、その仕草、表情、口調ともに現時点からみるととてもそんな年にはみえない雰囲気。
30代で亡くなった、かの市川雷蔵はもちろんのこと、この当時の大人は顔つきだけ見てもホントの大人だったとこの時代の作品に接するたびに思わされる。
先日テレビで、いまどきの女の子が可愛くみえる方法と「ハキュー」と発音したさいの口元が「あひる口」になり、それがイイのだ云々と解説されていた。
ケバイ子らが「ハキュー」「ハキュー」と連発練習する姿をみせられ、世も末かと・・・。3/5。

石川北ニ監督「ラブ★コン」は意外な拾い物。
藤澤恵麻演ずる背の高い女の子と背の低い男の子の恋愛ドラマ。
山田太一の恋愛小説の名編「君を見上げて」は同様の設定で結構シリアスな展開だったが、本作はたわいないストーリーのラブコメ。
・・・な〜んだけど、藤澤恵麻の漫画チックな演技に知らず知らず引き込まれての、4/5。

11.8.sat.

★闇の子供たち

世の非道知るたびに、「わしがヒットラーやったら・・・」と、店でのたまう我輩。東南アジアの闇の世界を描いたヤン・ソギル「闇の子供たち」(冬幻舎文庫)で、また痛感。幼児売春、臓器売買に関わる全ての人間を強制収容所にぶち込んでやりたい読後感。

通りすがりの子供達をみて「おっ、可愛いな〜」の感情を違う意味合いで感ずるケモノが跋扈していることを併せ思い起こしてしまう昨今、プーケットだのタイ料理だのとうつつを抜かす軽薄な女どもよ、読みたまえ・・・「こわ〜い」なんちゃってぶりっ子ぶって読まないでしょうが。
彼の作品ではいまのところ「血と骨」が最高傑作か。4/5。

11.9.sun.

★リカ

「闇の子供たち」と違う恐ろしさ(途中で本を伏せて読みすすむのをストップしたほど)は、前述の五十嵐貴久の処女作&ホラーサスペンス大賞受賞作「リカ」(幻冬舎文庫)。

平凡な中年サラリーマンが友人にすすめられるままにインターネットの出会い系サイトを利用し始め、リカと名乗る女性と知り合う。しかし、その純真そうな女性は・・・。
「都市伝説」化されているその女、貴志祐介の傑作ホラー小説「黒い家」の臭覚マヒの病をもつ異常女を思い起こさせ、半日で読みきった。単行本未発表のエンディング付き!今夜のおすすめ本だ。5/5!

11.13.wed.

★交渉人

またまた、五十嵐貴久。「交渉人」(幻冬舎文庫)読了。

三人組のコンビニ強盗が逃げ込んだ先は都内の総合病院。
人質50人を解放すべく、石田警視正が犯人との交渉にあたる・・・。
今回たびたび登場する五十嵐さん初期3作の最後の作品。
時代小説、ホラー小説、そして今回は犯罪小説。これらジャンルの違うそれぞれが平均以上の出来なんだからスゴイじゃないか。

この作品の中盤まで、アメリカ映画などで交渉場面みなれてるとマニュアル通りのようで新味に乏しいし、物語自体も・・・と思っていたら、まさか!のどんでんがえし。それまでの交渉内容もここで「な〜るほど!」で、4/5。

「リカとルワンダは、コワイ」完

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