129「新・偶然の夜」

3.7.sat./2009

★悪酒オールドの頃

深夜、お客サンと「飲み屋のツケ」についての話題のなか、思い出した。
で、今夜のお題は「新・偶然の夜」
ちなみに「ツケ」の漢字は「付け・附け」だが、「勘定書き」の意もあるそうな。

我輩二十歳代のサラリーマンの頃、以前掲載の126「偶然の夜」のモリちゃんと通っていた、阿倍野近鉄デパート裏のとあるスナックでのこと・・・。
当時のスナックはカラオケなんぞの小うるさいモノもなく、雰囲気としては今でいうガールズ・バーか。
店のホステスやバーテンさんとたわいのない話しつつ、サントリー・オールドのせいでひどい二日酔いが翌朝待ち受けていた時代。
よく墨丸でいうのだが、当時のサントリーは質の悪い酒で(オールド告発本も出版されていた)、我らの肝臓痛めてる間に「山崎」や「響」を樽で寝かせ続けていたというわけで、サントリーの宣伝マンでオールドのCМにも出ていた「食通」といわれた芥川賞作家の開高健など、だから今でもキライである。

★F子の・・・

その店の名はもう忘れたが、そこのマスターのことをお客の我々もホステスも陰で「ネズミ男」と、半ば軽蔑の念こめて呼んでいたのを覚えている。
この店を巡っては三つの出来事が(「ネズミ男」の名のゆえんもふくめ)あったが、今回のお話はその中のひとつ・・・。
ある夜、その店のホステスの一人と出身地の話題になり、彼女が偶然にも我輩が一時期過ごした南紀の田辺市出身とわかった(過去2回掲載の「偶然の夜」の舞台と同じ街)。

ホステス「高校どこぉ?」
我輩「田辺高校」
ホステス「え、いまおいくつ?」
で、我輩答えると、「Fって子知ってる?」
我輩「え〜!」
その子は女子バスケ部で、クラスメイト。かつ当時の片思いのお相手。
そのことを告げると彼女「え〜!・・・その子、わたしの妹!」
で彼女、しばらく押し黙ったあと、「お願いあるんやけど。私がここで働いてること、妹に会っても内緒にしといてくれる?」

★そして事件が・・・

その理由は聞かずじまいだったけれども後日、彼女が同僚と共にミナミのラウンジに店変えし、我らはそのラウンジにも顔を出していた。
そうしたある日、彼女から勤め先に電話が入った。
「スミちゃん、ちょっとご無沙汰やね。で、悪いンやけどツケの分、振込みでいいからお願いできます?」
「あ、そやなぁ、残っとったなぁ!悪い悪い、すぐ振り込むわ〜」
で、早速振り込んだ。

後日、久しぶりにそのミナミの店を訪れた。
その夜は中国人のママさんひとり。
年配の、中国訛りの日本語を話す方で、親切ないいママさんだった。
そのママさんとしばらく雑談したのち、「そうそうママさん、ツケの支払い遅れて悪かったわ」
「あ、久しぶりにお越しになって機嫌よくお飲みになってらっしゃるし、そんな話なんかで気を使わせたらと思って・・・」
「???あの〜、振り込まれてたでしょ?」
「え?」

そ〜なんです。
その場でママさん、あちこち電話し確認したところ、すでにその店を辞めていた(!)彼女と同僚のふたりが、ツケのあるお客に片っ端から電話。彼女達の口座にそれらを振り込ませていたのだ。
今でいう「振り込み詐欺」みたいなもの・・・。

あのF子の、いまはもう顔も思い出せぬあの姉さんは、その後いかなる人生を歩んだのであろうか・・・いや、そういう人生ゆえに「妹に内緒に」といっていたのかもしれぬ。
出会いの偶然から生まれたひとつの事件だった。

「新・偶然の夜」完

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