247「墨丸氏の優雅な一週間」(三角ビル篇)

5.7.tue./2012

★Yクン

今月の1日、旧友Yクンが当店探し当てての初来店。
一瞬誰だか分からず。10年近く会っていなかったか。

いまや中年太りの彼と知り合ったのは彼が十九歳、我輩が二十歳過ぎの1970年代。堺・砂道町に新築オープンした前面斜め、背面垂直壁という斬新なスタイルの三角形ビルの、当時としては珍しかったスポーツクラブの飲食店部門初代バイトの同僚として。

そのビル一階には喫茶「シャンタン」、高級レストラン「ボンパパ」、ゴルフショップが配置され、二階以上がプール付きのスポーツクラブ。
Yクンとはその喫茶部で共に働くようになり・・・で、若気の過ち。いや、いまも過ち連綿やけど、ある日から我輩なにかの都合で店を休み続けてしまった。

「もうクビやなぁ・・・」と、店の様子伺ってみようとYクンに電話。
すると彼「え〜、スミさん休んでたんですか!僕もその日から休んでますねん!」
アホや・・・バイトが偶然にも同じ日からさぼってたわけで(女性ウェイトレスは他に二名いたけれど)、こりゃ支配人激怒やわと、とりあえず謝罪しようと二人して(なら心強く)出向いた。

飲食店フロア責任者は、某ホテルコック長が前職の、恰幅のよいレストラン支配人。
まず支配人に詫びいれ、支配人がホテルから引き連れてきた喫茶マスターとコック長の順で頭下げて回り、コック長いわく「支配人のひとことなかったらお前もクビや!」

・・・Yクン、その場でクビだった。
が、なぜか我輩は、支配人苦笑しつつバイト続けるようにいわれ、後日制服の黒服まで誂えてもらってレストラン部のウェイターに昇格。
我輩バイト転々としていたけれど、なぜか年上に好かれた時代だった。

その後、スポーツクラブ運営するその本社に就職をとのお誘いまでいただいたのだけれど、水商売より堅実そうな昼間のサラリーマン生活をと別会社に就職。その後、そのスポーツクラブ、本社ともども倒産と知る・・・。
ま、それら思うと我輩、運はいい方なのかもしれぬ。
以後、そのビルはパチンコ店を経ていまは葬儀会社となっている。

辞めたYクンとはその後も年賀状やりとりし、我輩サラリーマン時代には彼が勤めていたデザイン会社と取引したりと付き合いが続き、墨丸長居店時代にも何度か来店。けれど、彼の会社も倒産。しばらく会っていなかったのだった。
彼の飲食ベース基地は天下茶屋とか。いつか天下茶屋で彼とゆっくり飲もうかと思っている。

今回は特にオチもない話になってしまった。
が、この三角ビルでの別話は思いがけぬ内容なので、また別の機会にでも。

5.9.wed.

★「今夜の本!」

今回は力作揃い。

「モンスター」(百田尚樹/幻冬社文庫)
畸形的なまでに醜い女性が整形手術で絶世の美女に。女の「美」の表裏とその「美」に翻弄される男達について学べます。評価4/5。

「沙高樓綺譚」(浅田次郎/文春文庫)
人は誰にも明かせない「秘密」を持っている。その究極の「秘密」の数々を知ることができる連作短編集。「刀剣」「撮影所」「ガーデニング」「ヤクザ」に関する薀蓄も面白みあり。が、「あ、これはいつもの浅田節やん」の、ある既視観が少々マイナスか。4/5。

「歪笑小説」(東野圭吾/集英社文庫)
クスリと笑いつつ読める出版業界の内幕本。4/5。

「骸骨ビルの庭」(宮本輝/講談社文庫)
何人もの戦争孤児を育て上げた男の人生。「大人」が書いた「大人」の本だ。ただ、ドラマチックなラストを期待すると拍子抜け。司馬遼太郎賞受賞作。4/5。

「グレイヴディッガー」(高野和明/講談社文庫)
江戸川乱歩賞受賞作家による、一人の男が謎のグループと警察に追われる「傑作追跡劇サスペンス」の謳い文句なれど、充分なタクシー代もない男がなぜかポリスグッズ店でいちばん安いというだけで手錠を購入。これって無意味な描写やんと納得できぬままの後半、とってつけたかのようにその手錠利用する場面が。原稿位数増やすためかとしか思えぬ無駄な展開多しで、2/5。
以上、最後の一点のぞき「オススメ順」でした。

「モンスター」では「整形美容」について色々学べます。例えば・・・
1.アジア人には目頭に蒙古襞(もうこひだ)がある。欧米人にはその縦襞がなく、目頭にあるピンク色の結膜が見えている。その襞を切開すると目頭が鋭角的になって、パッチリ感が増す。

2.日本人の理想的な目のバランスは、目尻から目頭までの長さを1とすると、左右の目の間は1.2が最も美しいバランス。白人は、両目とその間隔は、1対1対1が理想的。

3.「額の生え際から目のライン」「目のラインから鼻の先」「鼻の先から顎の先端」の三つのゾーンが等分。かつ、小鼻の先端から目尻、眉尻のラインが直線になっているのが、美の黄金比。

4.以前、「小股が切れ上がったいい女」の「小股」って?と辞書を調べたことがあり「女のすらりとした粋な体つき」と。でもそれがなんで小股?と、釈然としなかったんだけど、本書では小股=口角と解説。
整形では、口元をわずかに上がり気味にし、微笑んでいるような形(仏像に見られる少し笑っているような、いわゆるアルカイックスマイル)にするとかで、ようやく納得?

他にも、整形外科医の多くが美の基準を白人においていて、極端にいうと骨格の違いからそれらの結果は「滑稽な作り物」めいてみえる、という話も初めて知った。

5.11.fri.

★ピチピチビーチ

「今夜の本!」で紹介の、「骸骨ビルの庭」登場人物ニューハーフのナナさんについて何日か前にお客のCさんと語りあっていたとき、近場のニューハーフ店を思い出した。その旨告げるとCさん「今度行ってみましょうよ!」

そしての本日11時半。
店のお客がそのCさん一人になったとき、彼「マスター、今日はヒマですよ。もう誰も来ませんよ。奢りますから店閉めてアソコ行きましょうよぉ」
う〜む、う〜む、金曜ゆえお客さんが来ないはずはないんだけど・・・と悩むより、なぜか飲む誘いにはもう皆さんご存知のように我輩200%弱くって・・・金曜の夜というのに、いそいそとネオンを消してしまった。

で、電話で行く旨伝えてその店に。
飲み放題90分5千円也。
テーブルにはグリーン色のボトル用意済み。
「飲み放題って、これ?」
韓国焼酎の鏡月。それもアルコール度数たった20度の。
「焼酎かぁ」とつぶやくとママさん、キープ期限切れのサントリー山崎と交換してくれた。
結局、Cさんの要望で時間延長して飲み続け、計一人8千円となるショータイム付きに発展。
田中心ママさんの美しすぎる上半身裸のショーみても発情せずは、やはりボク、まとも?
でも、オランダとオーストリアの混血マユミさんは、美しすぎる方だった。
この夜は結局、お客は僕たち二人だけ。墨丸も閉めてよかったのかも。

お店は、西田辺駅前ルミナスビル9階「ピチピチピーチ」(06−6623−8739)
また、行きたいです・・・(ボクって、まとも、ちゃうの?)

「墨丸氏の優雅な一週間」つづく

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