267「洞窟」

8.22.thu./2013

★発端

初夏のとある夜、我が友М氏「なんか面白いことないかぁ?また温泉でも行こうやぁ」
そのセリフ、我輩左の耳から脳みそ留まらず右の耳へ一直線。
でもとりあえず、「はいはい」(そんな金どこにあんねん・・・)

7月に入り、車を運転したい欲求急に芽生える。
車を手放してから時々この欲求に襲われる。
そんな時、会員になって数年間一度も利用したことがない旅行案内会社からの特価宿紹介ファックス便に、「洞窟温泉」と。

「なに、なに、洞窟?」
興味そそられ文面みてみると、「洞窟食、洞窟温泉一泊二食6980円也」
「うむ、うむ、う〜む。休みの日に飲み歩いて1万円くらい使うなら、こんな体験もいいのではないか?」
で、М氏に電話「俺が運転、ガソリン代お前持ちでどうや?」
М氏即答「行く!」

★で、予約

早速予約センターに申し出ると、「残念ながらこの週は連日満室です」
「うむ、うむ、う〜む。満室ってことはよほど人気が?」と、翌週の7月21日(日)から一泊で予約。

レンタカーはいつも通り「いちばん安いやつを」で、日産マーチ24時間保険料込み会員価格6300円也で予約し、午後二時出発。

毎回のことだけれど、サラリーマン時代の正月休み、盆休み、ゴールデンウィークなどの初日、仕事のことなど念頭からきれいさっぱり忘れ消え去り、永遠に休日が続くような錯覚に陥ってしまう、浅はかで能天気な我輩。ゆえにいまだ自死することなく生き延びているのであろう。いや、日曜ロードショー番組終了時のテーマミュージック流れると「時間よ、止まれ!止まってください・・・」と急激に落ち込む「サザエさん症候群」には人一倍罹患していたとは思う・・・。
で、久方ぶりにこの初日もそんなウキウキ気分。

★「つ」現地着

三重県津市までナビと高速利用で、2時間強。
「つ」。宛名書きが楽な地名だ。
その市の現地付近でМ氏「おい、おい、こんなとこに温泉旅館あんのかよ?」というほど狭い農道進んでいくと、眼前に田んぼと山との狭間にへばりついたような二階建て民家が・・・が、ナビでは目的地到着であった。

う〜む、民家風やけど、ちゃんとでっかい看板が。
ま、旅館というより民宿の風情。
少々気がかりなのは、周りが田んぼと山々のみゆえ夕食後の問題が。
以前М氏と和歌山中津村に軍鶏料理を食しにの一泊旅行で、夕食終わり仲居さんに「このあと飲めるとこあります?」と聞くと、「そ〜ですねぇ、海南まで出られたら」「遠いの?」「タクシーで一時間くらい」「・・・・」
20時からの大河ドラマを生まれて初めてみて時間つぶした無残な覚えがあったのだ。

が、今回はその心配はなしか。
旅館と併設の「半田村」というお食事処があった。
夕食後はここで地元特産のアテで地酒を飲める。あはは、同じ過ちは我輩、しないのだ。恋愛だけは別やけど・・・。

★そしての旅館。が・・・

フロント。
入口でお客さん方の見送りの仲居さんと出会ってるというのに、その無人のフロントから奥に幾人かの人影を暖簾越しに見かけるというのに・・・だぁれも出てこない。一抹の不安・・・。
フロントベル鳴らしてようやく応対。が、その仲居さん、愛想はいい。
下駄箱がほぼ満杯だったゆえ「お忙しそうですね」と問うと、「いえ、日帰りの法事のお客さんで」。そうか、今夜はすいてるんだ。

部屋に案内。
二階の角部屋。
が、風呂、トイレなしで、「・・・」
が、その案内仲居さんも愛想はいい。
仲居さん我輩に「お客さん、芸能人のどなたかに似てらっしゃいますねぇ?この温泉、テレビでよく紹介されるので芸能人の方々もよく見えられるんですよ」。М氏「誰に似てるか考えといてね。本人かも」

家族風呂の洞窟温泉は予約が入っていたのでとりあえず大浴場とやらへ。
「うむ、うむ、う〜む・・・」
ま、数人で満杯の浴槽狭さは我慢できるとしても、その横の干上がった小規模の浴槽跡?も無視するとしても、ジャングル風呂的なその木々が一部枯れたままなのからも目をそらすとしても、洗い場が4ヶ所しかないことは・・・その洗い場がである、椅子それぞれ近接しすぎているのだ。いや、ひっついているのだ。
こりゃ大人四人なら互いに洗いっこしてるみたいやぞ、とМ氏と我輩両端にそれぞれ陣取り、体を洗う。
洗い終える頃、中二つ洗い場あるというのに、後から入ってきた子供が「父ちゃん、洗うとこない」
我輩「大丈夫、大丈夫、おじさんもう洗い終わるから」なんてセリフをやりとりしたほどなのであった・・・。

で、期待の夕食、18時から。
これまた愛想のいい仲居さんに食事場所の洞窟まで案内されつつ玄関出たところのお食事処「半田村」、17時開店のはずなのに、準備中。
仲居さんに「あそこは今夜休みですか?」と問うと、「やってますよ〜。でもそこより洞窟でも一品頼めますからそっちのほうが雰囲気あっていいですよ〜」
そうかもしれないけれど、閉まっててやってますなんて、これまた一抹の不安・・・。

★そしての洞窟。が・・・

さて、期待の洞窟。
旅館裏手の駐車場奥の山肌に、ぽっかり空いた洞窟が・・・。
「うむ、うむ、う〜む」
洞窟なんて沖縄鍾乳洞の龍泉洞観光以来か。
こんなところで酒が飲めるのだ、と大いに期待。

入り口斜面下ると左側に洞窟の大広間があり、各所に長方形の座卓。
数組が食事中。
我らの座卓に案内される。
「う〜む・・・」
じっとりと、座布団が湿気ってるではないか。
はたまた、一抹の不安・・・。
背後の岩肌にはなぜか掃除用のモップが立てかけられている。
反対側に座ったならば、これは仲居さんにモップの移動願うだろう。
モップみながらの食事など想像もできぬわ。
これまた一抹の不安・・・。
が、料理を運んできた仲居さんも愛想がいい。

が、その料理、冒頭からメイン料理の「山海賊焼き」が?
読み取りにくいファックス案内文ではこの料理名は読み取れたが、「これだけ?」
・・・これだけだった。
М氏「なんか安っぽい焼肉屋に来たみたいやなぁ・・・」
で、仲居さんに(これまた愛想がいい)「一品料理のメニュー持ってきてくれますか」「はいはい」
・・・そのまま忘れ去られてしまった。

乾杯した生ビールなくなり、仲居さんに(この方も愛想いい)酒のメニュー依頼し(その裏に一品メニューが書かれていて助かった、というのも情けない話だが)、「う〜む、一合づつ飲むよりボトルのほうが安いよな」と日本酒五合瓶注文。
・・・持ってこられたのは一合徳利二本だった。
その間、薄汚れた配膳用黄色いプラケースは食事横に置かれたまま。
べたつく爪楊枝入れには爪楊枝が四〜五本のみしかなく・・・。

「しゃあない、部屋でスーパーで買ってきた酒でも飲むか」と我ら席を立つ。
その際、昔はクレンザー用の砂を採掘していたという、その乾いていると見えた洞窟壁面触ってみると、これが湿気でじっとり。
クーラー設置されていずとも涼しいというが、これでは座布団も湿気るはず・・・。

帰りに洞窟奥行き百メートルほどの突き当たりに、「洞窟探検マップ」では「神秘の泉」なるものがあると記されていた。
興味津々で行ってみると、木の板で入り口塞がれていた。
「探検」できそうな場所はそこしかないのに「マップ」では。
そこで吐く息が白かったことぐらいか、いい意味で印象に残ったのは・・・。

★再度の旅館。が・・・

本館前まで戻るとお食事処はまだ、「準備中」
フロントで「今夜はあそこ休み?」と尋ねてみると仲居さん愛想よく「やってますよ〜。開けましょかぁ?」「いいです・・・」

トイレが遠い。
あちこちに数ヶ所あるのだが、これがどれも一人用で部屋から遠い。
最短距離のが使用中ならばさらに遠いトイレを探し当てねばならない。
で、館内マップみてみると、トイレ付部屋はいくつかあるのだった。
角部屋でなくとも、「本日ヒマ」ならばせめてトイレ付き部屋くらい、と思ってしまうのはぜいたくか・・・と思いつつ用を足してトイレを出た瞬間、女の嬌声が!

ふとその階段上廊下見やると、半裸の、バスタオル軽く引っかけただけの若き女性が走り抜けようとしていた。
一瞬目が合ったその時、若き男が笑いながらそのあとを追いかけてゆき、「なんや、いくら暇な宿でも裸で遊びまわるなよ・・・」と、悶々とする真夜中のはじまりであった。

この夜は参院選開票日。
「ワタミよ、山本太郎よ、民主党、社民党、共産党候補者よ、みんな落選せよ!」と夜なか三時過ぎまで酒飲みながらダラダラとテレビみつづけ(結局、あの中津村と変わらん過ごし方やった)、「あ、こりゃワタミは当選せんな、よかった、よかった」と一安心して目が覚めると、当選してはった・・・。

★洞窟温泉。脱出

我輩が芸能人の誰に似ていたのか?
前夜の仲居さん、帰りのフロントで「あっ、お客さん、どなたか分かりました。山本晋也監督!」
「男の顔は履歴書」とはいうけれど、我輩そんなスケベ顔なのか・・・。

フロント横に来館の芸能人の写真がずらりと飾られていた。
笑ってる写真が、なかった・・・。

大阪に近づくにつれ我ら「おもろないなぁ、このままどっか行きたいなぁ」
ちなみに、そのままレンタカー延長する場合とあらためて借り直す場合とどちらが損か?レンタカー会社に聞くと「延長する場合」だった。
あのままフラリと別の温泉地に向かわずにいてよかった、というより我らもう財布の中身は空っぽ同然であったのだが。

お愛想がおススメの温泉宿でした。愛想のいい鬼がいるよな地獄でした。
171「呪いの北東事件」にも残酷宿泊の話アリ。

「洞窟」完

<戻る>