273「祝。2014初春!」

1.29.thu./2014

★2013年も我輩どうにか生き抜きました。これもみなさんのおかげです。
本年も墨丸ご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

ながらくこのページ「更新まだぁ?」といわれ続けてきましたが、今回無線ラン導入、その作業やらで遅くなりました(「なんでやねん!」でしょうけど・・・)。

で、年明け早々こんな話でなんですが、1960年に歯科医・本山による「雅樹ちゃん誘拐殺人」という事件がありました。
当時、誘拐犯かもとの市民通報ありながら警察は「まさか外車に乗る歯科医が」と真に受けず、といったいくつかの不手際により殺害に至ったこの事件、3年後に発生した有名な「吉展ちゃん誘拐殺人事件」の陰に隠れてしまった感ありで。けれど、雅樹ちゃんと同名の我輩、当時の「雅樹ちゃん誘拐」報道に我輩がかと田舎の祖母がパニックに陥ったとか。

父の仕事の関係で転校繰り返していた当時、自己紹介で姓名述べる際「雅樹ちゃん殺しのマサキです」と簡単説明すると、小中学生としては小難しい漢字のその名がスッと通じてもいた時代。

★「今夜の本!」

こんなこと思い出したのも、今回の「今夜の本!」は奇しくも「誘拐」モノ秀作3作品重なったゆえ。まずは・・・

角田光代「八日目の蝉」(中公文庫)
我輩、誘拐劇としか知らなかったこの小説は「密」ですぞ。
往年の海外ドラマ、デビット・ジャンセンの「逃亡者」を彷彿とさせる、赤ん坊誘拐犯の女の逃避行。そして誘拐され「薫」と名づけられ素直に成長してゆく少女との「母娘」の関係が犯罪ドラマの枠をこえた人間ドラマとして読ませ、ラストの岡山港でのシーンでは少しばかり落涙。

偶然にも後日、BSで放映されたその映画版、2時間余りのその枠から除かれている原作各シーン思いだし「すかすかやん!」と思いきや、小説とはラストが大きく変わっていて、これにも少しばかり落涙。そのせいでかカットされたシーンについて、「ま、映像化には不必要だったかも」と納得?

昔、この作品のNHK連続ドラマ版録画していたものの、レコーダー故障で結局見れず(これは傑作らしい。好きくない壇れい主演がネックだけれど)
そんな話をお客さんとしてますと、お客さん「テレビ版、録画してますよ!」
で、お借りしたDVD「あ、うちのレコーダー故障で(2台とも)再生不可やったんや・・・」
なんと次々と壊れやすい商品か。いやもう商品と呼べる代物ではない、これらはもう単なる「モノ」である。で、いまのところドラマ版は見れていず。原作評価は5。

う〜む、こんな秀作見逃してたか!は、「犯人に告ぐ」雫井脩介(双葉文庫)
暴力、恐喝、殺人と、人がどん底に陥るような作品にはもううんざり気味ゆえ長らく放置の作品。読後解説読むと「普段ミステリーや警察小説を読まない人をも虜にする、と絶賛された快作」と。本作はまさに、でした。

誘拐劇そのものよりも(いや、これはこれで読ませるけれど)、誘拐犯逮捕に至らなかった旨の記者会見で失態犯し左遷されていた主人公刑事が新たな事件の責任者に任命され、今回はそのマスコミを利用して犯人に挑む。が、裏では上司が捜査に水を差すがごとくライバル報道番組に情報漏えいし続け・・・といった展開が特に読みごたえあり。

ただ、中盤でかつての誘拐に関わったらしき男の名がでてき「はて、この男は?」と読み終えたページいくども繰れど・・・この箇所が流れをそいだ感あり(注:無視して読み進むべし)。映画版見たし。評価4。

三作目が、名作「レベッカ」のダフネ・デュ・モーリア(ヒッチコックの名作映画「鳥」の原作者)の再来ともいわれる、オーストラリアの女流作家ケイト・モートンの「忘れられた花園」(東京創元社)
1913年、イギリスからの客船が到着したオーストラリアの波止場に置き去りにされていた4歳の少女ネル。身元不明の彼女にはかすかに「お話のおばさま」に船に乗せられた記憶だけが・・・。
2005年、病で死去したネルの孫娘がその置き去りの謎を解くべくイギリスへと旅立つ。
そして物語は、ネル誕生前の1900年初頭、そしてネル自身が過去を探ろうとする70年代、孫娘による探索劇の05年と、各時代のネルにまつわる1世紀をこえる物語世界がこれも「密」に描かれてゆく・・・。

惜しむらくは、サラリーマン時代のように長時間の通勤電車での読書ならばまたたく間に読み終えたであろう本書、現在の、仕事終えての睡魔と酔魔の午前5時あたりからの数分数秒単位の読書では、各時代を複雑に交差させながらの展開に終始戸惑いの感ありで、評価3.5。
ちなみに、翻訳ミステリー大賞受賞作。闘うベストテン1位。本屋大賞翻訳部門3位です。映画化を期待。

★話は少し変わって

アイラ・レヴィン「死の接吻」(ハヤカワ文庫)は昨年末の忘年会での千円商品プレゼント交換用にと購入。

ヒトラーの極秘命令によりドイツ軍精鋭小部隊が英国に潜入。チャーチル首相を拉致しようとするジャック・ヒギンズの傑作冒険小説「鷲は舞い降りた」の文庫完全版(「完全版」なんて知らなかった)も出ていたけれど、これは優に千円超え、我輩が再読したしの本。ジョン・スタージェス監督、マイケル・ケイン主演の映画作品も佳作ですぞ。
補足:この作品、騎士道精神あふれたドイツ軍人を描いての英国作家ヒギンズ代表作。で、完結したはずなのに後年(ヒギンズ作品に陰りが出てきた頃)、続編「鷲は飛び立った」を発表。購入して数十年たつも、いまだ未読。たぶん、柳の下にドジョウ云々と思わせられるかもと・・・。

「死の接吻」は我が青春時代に長らくミステリー小説ベスト1に君臨していた、著者若干23歳での処女作。1953年アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。
著者の「デストラップ」(最優秀戯曲賞受賞)の映画版も秀作ですが、平凡な主婦が悪魔の赤ん坊を産むというポランスキー監督で有名な映画「ローズマリーの赤ちゃん」は、キリスト教文化に馴染んでいない我輩としてはレヴィン原作と共に映画もいまひとつ。

本書は、野望に燃える大学生が妊娠してしまった恋人を完全犯罪で葬り去ろうとする物語。で、前半「あれっ?」と思わせてくれる仕掛けが秀逸(ただし未熟な当時の我輩にとってはです)
その仕掛けゆえ映画化は無理だと思っていましたが「赤い崖」という邦題で公開。これは駄作。日本でも本書をもとにした、我輩の好きな木村功主演、今井正監督「白い崖」という作品があるらしく、これは見たし。

同時代のセオドア・ドライサーのアメリカ文学「アメリカの悲劇」も(映画版はモンゴメリー・クリフト主演、ジョージ・スティーブンス監督「陽のあたる場所」)、金持ちの令嬢と知り合った主人公が邪魔になった恋人を殺害しようとする。が、良心の呵責で踏み切れぬそのさなか彼女は事故で死ぬ。主人公は殺人犯として捕えられ、禅にある「己が罪、わが心に知られては、罪の報いをいかが逃れん」(だったか?)的に、主人公は無実を叫ばぬまま処刑台に連行されてゆく・・・。これは映画作品と共に傑作。

先ごろBSで放映された遠藤周作原作、浦山桐郎監督「私が棄てた女」は殺害には至らぬものの「やさしいだけが取り柄の」田舎娘を無情にも棄て去る大学生を河原崎長一郎が演じていたけれど、我輩が青春時代に見たのは確か弟の河原崎健三の作品だったような・・・テレビドラマだったかな。これは原作がおススメ。

ああ、わが青春振り返ればこのような作品ばかりが記憶に残ってるわけで・・・。

★「今夜の本!」A

墨丸会員734号チャン氏おススメの「さくら色 オカンの嫁入り」(咲乃月音。宝島社文庫)は、たぶんにいつもの睡魔と酔魔のせいで当初少々つまづきました。

最近、いつものパターンで睡眠1〜2時間ほどでいったん完全覚醒。これを一定期間経験すると今度は連日10時間以上寝続けることに。日ごろ昼夜逆転生活ゆえこれは体内時計調整してくれてるのかも?
で、その起床後、せんべい布団に(最初っからそんな寝床やけど)くるまりながらの本書一気読み。

なんと入籍のその日、夫となる男が倒れ三ヶ月後にあっけなく死去。妻であった陽子は女手ひとつで娘の月子を育てあげての20年目、ある晩泥酔した陽子は「捨て男」と呼ぶ若い男を拾ってくる。その男、「ゲッ、こんな男を!」と月子にも読者にも思わせての当初のつまずきもあるわけで、でもこのあと一気読みの展開。
絶妙の大阪弁とラストの「明るい」悲劇でほろり。大竹しのぶの映画版、見たし!小説続編も読みたし! 評価4。

以前オススメの「カフーを待ちわびて」(原田マハ)は第1回「日本ラブストーリー大賞」でしたが、本書はその第3回のニフティ・ココログ賞という受賞作と読後知り、うむ、この「ラブストーリー大賞」作品群って「なかなかいいのでは」と。翌日のこれも短時間睡眠後、店にある山積み未読本さぐってみると、さとうさくら「スイッチ」(第1回ラブストーリー大賞審査員絶賛賞受賞作)と他作品があり。

ふたたびせんべい布団にくるまり読み始めると「あれ?これって読んだことある?」・・・でも起き上がり冷え切った空間に身をさらして違う本探すのがつらくって、「え〜っと、ラストはどうなるんだっけ?」と再読ながらの一気読み。
26歳フリーター、処女。頭脳明晰ながら彼氏も友達も定職もなく、人付き合いの嫌いな苫子がさまざまな人々と出会ううちにホッとするような世界を経験し始めるという物語。ちょっと変な知人の多い我輩ならたぶん受け入れてしまいたいタイプだろうなぁ・・・。

次に手にしたのがその第3回の大賞受賞作「埋もれる」(奈良美那)
これも26歳という由希は、ソウルでバイトしながらの語学留学生。真面目なエリートサラリーマンのパクと付き合いながらもなにか物足りない彼女はパクと正反対な性格のテソクと知り合い、三角関係の泥沼へ。先に「人がどん底に陥るような物語」に拒否反応云々と記したけれど、ま、この辺ハラハラドキドキ。
韓国人という日本人とは異なる恋愛観の持ち主との関係も読ませるけれど、「なんで日本人相手にせぇへんねん!」とバカな差別主義者のボクは思いつつも、これも一気読み。評価3。

恋愛などにもう無縁かつもう恋など信じぬ我輩でも、ラストで「ホッと」させてくれる「日本ラブストーリー」受賞作群はおススメか。
残念なのはこれら宝島社文庫には「解説」がないこと。
こうまで読ませてくれると「作者っていったいどんな人なんだろ?他の作品はどんなだろ?」と興味を抱いてしまうというのに。

ただ、いま読み終わった恋愛小説(「日本ラブストーリー」受賞作でなく、解説が重松清なんで購入)、さぁ読もうかと表紙めくるとカバー裏に男性作者の顔写真が・・・その作家の顔が我輩の大嫌いなタイプで、女性主人公の物語ながら「この男が書いてるんだ・・・」とのイヤな思いが終始。で、なかなか読み進めず、といったデメリットもあるわけで・・・。

その橋本紡「流れ星が消えないうちに」(新潮文庫)は、転勤で家族が地方へ。大学進学が決まっていた奈緒子ひとり一軒家で住むことになる。その後、高校時代からの恋人が海外で事故死。新しい恋人ができるが昔の彼のことが忘れられなくて云々、という展開。

家族が引っ越したとたん未成年ながら当たり前のように恋人を家に引き入れ、その男が死ぬと各部屋に男の面影が残っていて云々と毎夜玄関口の廊下で寝つつも次の男も引き入れて・・・なぁんて旧・日本男児としてはついていけんわ、許せん生活やわ!で、評価2。

「祝。2014初春!」完

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