283「11/22/63」B

8.6.wed./2014

★7月31日(水)、13年度「このミステリーがすごい!」海外小説部門第1位、スティーブン・キングの大作『11/22/63』(文芸春秋)全1044ページ、ついに読了。

これまで紹介したページでは、ベトナム戦争での若者たちの死やロバート・ケネディ司法長官、キング牧師の暗殺をも防げ、かつ良き時代の継続を計れるとジョン・F・ケネディ大統領暗殺阻止を目的に、現代から過去へと旅立った高校教師の時間旅行の経過を一部記してきました。さ〜て最終章です。

中国で蝶が羽ばたくと地球の反対側で天災が起こるという理論「バタフライ効果」※、本書でもその理論通り、主人公が過去を変えてしまうことによって現実世界に微妙な変化を生じさせることが上巻から描かれていました。
大統領暗殺阻止というまさに大きく歴史を変えてしまうことによる想像もできぬ変化とは?
一例として、人種差別主義者の急先鋒ジョージ・ウォレス知事や大戦末期に日本焦土化作戦を発案、指揮した軍人カーティス・ルメイ(なのに航空自衛隊創設に貢献したとして佐藤内閣時代に勲章授与。でも天皇陛下自らは手渡さず。ま、少しは良識が残ってた?)、そう、彼らが台頭してきたりもするのです。

そして、過去の世界で出会った愛する女性の死、その死をくいとめるにはふたたび現代から過去へと旅立たねばならない。それも、常に58年9月9日正午2分前のリセットされた時代、ケネディが暗殺される5年前の世界にしか戻れないのだった。
ゆえに主人公が新たに選んだ道は?
・・・我輩はこんな選択なんてイヤ。「未来を救うべきか、愛する人を救うべきか」となると、まぁ仕方のない主人公の選択だったんだけど・・・。

前々回紹介のタイムトラベル映画「ある日どこかで」(奇しくも今回の作品と彼女との再会シーンが似てました)同様、これまた奇しくも本作でも著者は今は亡き作家ジャック・フィニィへのオマージュを述べており、さらに奇しくも我輩もフィニイ原作の「盗まれた町」その3回目の映画化作品「インベージョン」(ニコール・キッドマン主演)をみかけているところ。

さぁ、興味のある方、本書お貸ししますよ。
評価は4/5:ウォレスやルメイのことをたまたま知っていたからいいようなものの、知らなければその辺りの展開に?かも。また、ちょい脇役が多すぎて下巻読書中たびたび上巻でその人物確認するはめに。頭脳明晰な方は問題なしでしょうが。
キングの妻(作家)が暗殺陰謀説派でキング自身はオズワルド単独犯行説を99%支持という理由をもっと知りたくもなります。我輩なんていまだ陰謀派ゆえ。

※主人公が一人の不幸な少女を救おうと過去へと旅立つ。しかし現実世界では別の身近な人が不幸に陥る。それを是正するために再度旅立つとまた別の人が・・・という悪夢を描いた「バタフライ・エフェクト」(エリック・ブレス監督)は傑作タイムトラベル映画。シリーズ化されています。

★「今夜の本!」

ま、前述もこのコーナーも「本」の話で恐縮ですが、「この疾走感、桐野夏生を超えてます!」がキャッチコピーの『逃げる』(林由美子。宝島文庫)一気読み。

40歳にして処女そして平凡で不美人。でも真面目な聡美は職場の皆から「母ちゃん」と呼ばれ親しまれていての勤続20年。が、社長から不当な言いがかりつけられたあげく解雇に。退職金も望めぬと思わず会社の金を横領。おまけに出入りの若き営業マン和磨にそそのかされ社長の孫娘の誘拐に手を貸してしまう。そして始まる二人の逃避行・・・。
冒頭、聡美のあまりの不幸さにページ繰るのを躊躇してしてしまったけれど、その後の展開はまさに桐野ワールド的緊迫感。そしてラストの和磨の行動がせつない!
こんな作家さんがいらっしゃったんだ、と旧作買いに本日書店に走るが見当たらず。評価4/5。逃亡資金全額を恐喝者らにたびたび渡してしまうのには「そりゃないやろ!」ですけど。

『遠くて浅い海』(ヒキタクニオ/文春文庫)は、殺しの天才とターゲットの若き大富豪の天才との対決を描く大藪春彦賞受賞作・・・。
なれど最近はこうした我輩の世界からみて現実離れした殺人、暴力作品は好みではなくなって、評価3/5。でも一気読み。面白くてではなく違う作品を早く読みたくて。

「11/22/63」完

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