298「ついてきた、女」

3.19.thu./2015

★「ラスいち!」

ブラックニッカのセミダブル(45cc)10杯目近くとなると泥酔も近しとなるお客のOちゃん口癖が、この「ラスト一杯」なる、「ラスいち!」

が、この「ラスいち!」が「ラスト」なんかではもちろんなく、その言葉繰り返しつつの更に数杯で泥酔に至るOちゃんだが、この夜はちと様子が違いました。
※Oちゃんは、283「屋根裏という名の城(Fクン)」以来たびたび登場の非墨丸会員の常連さん。

もちろん我輩、お客さまに対しては「細く長くお付き合い」がモットーゆえ、Oちゃん酔い始めると「もう限界でしょ?」と気遣い、ウイスキーに見せかけたお茶をロックでこっそりお出ししたりする。
だけれど、Oちゃんひと口飲んでもお茶とは気づかず、しばらくして気づくと、「ずるいわぁ〜!」
それでウイスキー出し続けて泥酔するとこれまた「(酔わせたからと)ずるいわ〜!」

で「この夜はちと違いました」というのは、トイレから戻ったOちゃんいわく、「あれ?女の人は?」
「女の人?おれへんで。さっきお客さん帰ってOちゃんとボクと今は二人っきりやん、うふふ」
「ウソやん!ボクの横におったやん!客とボクの間に!」
「どんな人?」
「ちょっと髪の毛触ったって・・・」(酔うと触り魔なのだ。けどいやらしくはない、たぶん)
「・・・もしかして髪の長い人?」
「そ、そ、髪の長い人!」
「きれいな人?」
「普通やった」
「・・・」

★「生き霊」(いきりょう)

※「いき すだま」。古くは「いきすたま」「いきずたま」といい、生きている人の怨霊で、祟(たたり)をするといわれるもの(広辞苑)

おお、この店にもついてきていたのか・・・。

20年以上前の墨丸1号店(長居)での夕方、常連Aさんとお連れさんのお二人来店。
新規のお連れさんは入店したその足でトイレに行かれ、カウンターのAさん開口一番ニヤッと「マスター、儲かってるがな」
「どうして?相変わらずヒマですよ」
「女の子雇ってるがなぁ」
「は?」(意味分からん)
すると、トイレから戻ってきたお連れさん店内見回し、カウンターに座りながらAさんに、「さっきの人は?」
当初、Aさんにおちょくられてるのかと思ってて「何の話ししてはんの?」
と聞くと、「何いうてんのん!わしら入ってきたときマスターの横に女の人立っとったやん!」
「女の人なんて雇ってませんよ。で、その女の人どこ行ったわけ?」
「わしが座ったら奥の厨房に入ってったやん!」
(厨房といっても半畳ほどの狭さで、もちろん誰もいません)
「どんな人?」
「か、髪の長い・・・」
「きれいな人?」
「う、うつむいてて、か、髪の毛で顔見えんかった・・・」

後日、常連Bくんと二人っきりの深夜。
「マスター、なんか気持ち悪いわ〜」
「どしたん?」
「カウンターの角に誰か座ってるように見えんねん、時々」
我輩、見えませんでした。

また後日、常連Cちゃんと二人っきりの深夜。
「マスター、あの奥のクーラーと天井の隙間に誰か横たわってるような・・・」
我輩、見えません。

見えたのは、いや見つけたのは後日、カウンター内清掃中の流し台の下、ハイヒールが転がってるのを・・・。
我が妻リ・フジンのでもなく(ハイヒールなんて履いてんのん見たこともない。そもそも持ってんの?)、それも片方だけ・・・(我輩、女装趣味なし)
ゴミ箱に捨てました。
・・・いま思うとガラスケースに入れて「幽霊のん」と飾ればよかった・・・。

常連Dさんの四国在住の友人が霊能力者ってると、Dさんが店から四国に電話を。
返答は(店の場所も伝えてないのに)「そこは四つ角のビルでしょ?その交差点では交通事故が多発。その地縛霊が店にとりついているようです」
我輩「ゲッ!ど〜したら?!」

四国(死国やな)女史の支持通り、それから入り口に盛り塩したりしました。
営業終え出入口で消灯する際、さすが気味悪くって店内に背中向け、手探りでスイッチ切って退店してました。
でも恐怖心薄れた数週間後、毎日交換せねばならぬはずの盛り塩、いつしかカチンカチンに固まってまして道路に捨てました、それ以来、な〜んにも対処してません・・・。

別の霊能力者には「生き霊です」といわれました。
でも、髪の長い人とのお付き合いは、ありません・・・たぶん。
女性に恨まれるようなこと、してません・・・たぶん。

で、前述の「おお、この店にもついてきていたのか・・・」となるわけです。
ゆえに「地縛霊」などではなく、「生き霊」なのかと・・・。
0ちゃんはホントに怖がってました。大男なのに。
で、コワいのかベロベロに酔って、帰りに乗りかけた自転車で二度ほど転び「自転車置いてけ!」と忠告するのも聞かずヨロヨロ発進。
心配になり、慌てて店の照明消してあとを追いかけました。
自宅方面という矢田南まで、ですよ。
いませんでした。一瞬、霊に拉致された?と。

店に戻ると電話が鳴り響いてました。
出るとOちゃんです。自宅からでした。
「マスター!女の人おらんっていうのんウソやろ?!ホントのこと教えてや〜!」

ま、あれだけ酔ってて帰れるってのは帰巣本能でしょうか。
そんな動物的本能有してるから霊がみえるのかも?ということは、見えない我輩は文明人だわ。うふふ。
でも我輩、彼女おらんからお化けの女性でも欲しい・・・祟るってのと顔が不明ってのがちょっとかもやけど。
・・・親しくなったら嫌いな奴を代わりに祟ってもらお。あんたにやで。

お化けの出る店は流行るといいます(ほんまかなぁ?)
ま、その1号店は流行った方でした。
ゆえにこの4号店も!うふふ・・・ちょっと怖いけど。

★「今夜の本!」

今年ようやくの1冊めの本、読破。
年末以来、お客さん方からメールや口頭で「アレックス読んだ?まだぁ?はよあの3章について話し合いたいのに!」と責められ続けての、「このミステリーがすごい!」第1位ふくむ史上初の6冠達成!と称賛の犯罪小説「その女アレックス」(ピエール・ルメートル/文春文庫)です。

ある晩、非常勤看護師アレックスがパリの路上で突如誘拐、監禁される(これ以上の内容、未読の方は知らぬほうがいいです)
冒頭のこの辺りからOちゃんなどは一気読み!というけれど、我輩は数日も要して・・・決して面白くないわけではなく、誘拐捜査にあたるカミーユ警部が145aという小男ってのが、283「銭湯の顔」では記していない「小男トラウマ」を我輩有してまして。その悪しきイメージが・・・ボクって意外に繊細!
かつ、ようやく一気読みとなった問題の3章。

これはもう悲惨というより陰惨な恐るべき真実の暴露。
翻訳者の橘明美さんが「あの暴力描写がどこからくるものなのか、何を意味しているのかは、私もまだ模索中です」と述べてはいますが、こんな「犯罪者」を生み出す作家の神経そのものを疑いたくなるほどある意味衝撃的で、もうこんなの読みたくありません。
Oちゃんもうひとつの口癖「心痛いわぁ〜!」が我輩の読後感で、評価はおまけの、4/5。・・・ボクって意外に繊細!

※飯嶋和一の時代小説「神なき月十番目の夜」は、序章でボクにとって「耐え切れぬ悲劇」予測し、本棚に戻してしまった未読作品。傑作らしいですが。
※「小男トラウマ」有するはるか昔に読んだ、身長163aの男と182aの女とのラブストーリー、山田太一の「君をみあげて」は傑作です。

★「今夜の合言葉!」

「ラスいち!」
で、サービスドリンクorつきだしプレゼント。

「ついてきた、女」完

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