368「ガジュ丸の動物記」U(サカナ篇)

7.15.sat./2017

★金魚

母がナニに使う予定だったのか、物置などから未使用の水盤が大小合わせ最終的に五個も出てきた。
母は高齢で施設に入っている。
聞いてみたいことがこうして時々思いつくのだがすぐ忘れてしまう。
我輩が施設に入るべきなのかもしれぬ。

で、鉢を三個初めて見つけたとき、それの有効利用をと、ホームセンターで金魚の安価なのを大小三匹ずつ買って鉢二個に分け、玄関軒下で飼い始めた。一つの鉢にはカルキ抜き用として水道水ためておくのに使って。
前回記した犬猫同様、金魚も出目金やランチュウなんて奇怪で醜いのではなく、大はコメットや朱文金で、小は活餌用かつ夜店の金魚すくいの小赤。まっとうな姿かたちの金魚たちである。

★末路

思い起こせば墨丸2号店の住吉区長居店時代に、店内で飼う初めてのペットがそんな夜店で売られてる金魚だった。
凝り性ならば行き着くところまで、なんだろうけど我輩、どうも小動物に関しては中途半端に終わる性分らしい。
まずは手近の器やケースなどで飼い始め、次第にエスカレートするのはいいとしても・・・ハムスターの場合は、小さな飼育ケースから、パイプを様々な住居に繋いでのゼイタクな邸宅と化していき、比例してケースも最終的には大きな木箱に。
ウサギの場合も同じくだった(「この世で一番頭の悪いペットだ。ただうずくまって震えているだけで、そこらじゅうに糞をする動物なんて誰が飼いたがるだろう」G・フリンの小説「冥闇」より)

金魚の場合も徐々に手を加え、苔や水の濁りが気になりはじめると浄化装置を。すると器の小ささが気になって、じゃぁとたかが夜店の金魚のためにアクリル水槽設置し麦岩石などで水中飾り付けはじめ・・・。
で、今度は水槽がデッカイからとゼニガメ入れると、ゼニガメが金魚の尾に噛みつきだし・・・この頃になるともう、病気の治療やら条件反射的にエサのときだけ口をパクパクさせる、針の先ほどの大きさしかないだろう脳ミソのヤツらに手間ヒマかけるのが馬鹿らしくなってくる。
要するに、なんの愛想もない相手に金を使う、まるで器量も頭も悪いホステスを振り向かせようと無駄に貢いでいるようなもんだと、ある日突然気づくのだ。で・・・

「子供の誕生日?」
「じゃあプレゼント!」とそのカメを。
「なに?昔メダカ飼ってた?」
「じゃあ、大サービス!水槽ごと金魚あげる」
・・・こうして全てが、ハムスターもウサギもお客さん方の手に渡って、いなくなってしまった。

★ベタ

話は戻って、いま思えば入院前に水盤利用を思いつかなかったのは不幸中の幸いといえる。なぜならば墨丸のお客さん方ご存知の、店内で飼っていた東南アジア産の闘魚ベタの末路があるからだ。

ベタはなかなかだった。
そういえばベタだけは人の手に渡らなかった。
慕って近寄ってくるのか、闘魚ゆえの闘争心、敵意でなのか、リサイクルショップで買ったミニ金魚鉢の中から始終我輩を見つめているのだ、ヒレをはためかして。睨みつけてるのかもしれない。怒り狂っての態度なのかもしれぬ。だから「なかなか可愛かった」とは言えない。

その、オスで一番安価な600円のベタ(メスはヒレも小さく美しくもないから300円ほどだ。小魚でも人間同様オスより劣るのだ)、入院に際し我が娘さくらんぼうに預けて飼育を頼んだのだけれど(我が妻には大事なものは預けられぬのが現実)、退院後の彼女の告白によると、エサやりすぎたか云々でたちまちのうちに死に至らしめてしまったらしい。
ベタ生存への一縷の望みをかけた彼女も、我が妻・山椒大夫、リ・フジンの血脈とこれで証明され、金魚などもどんな末路となったやらという意味で冒頭の「不幸中の幸い」となるわけだ。

そのあと飼ったベタは我が手元で約1年あまり生きた。
死んだとき、去年亡くなった猫のインクの墓、墓石代わりにオリーブの木を植えた横に埋めてやったが(インクがあの世で食うかもしれぬ)、続くベタはあっという間に死んだ。後日何かで読んだのだが、煮沸させた水は人の体に良くないらしく、カルキ抜きする手間省くため煮沸後の水をベタに使ったのが悪かったのか。このベタは愛着芽生える間もなかったので、ティッシュに包んでゴミ箱に捨てた。

★金魚リターン

そしての今回の金魚である。
軒下で飼い始めて以降、水鉢あらたに二個発見で計五個となったわけで、一鉢一家族三匹の勘定で350円の朱文金と45円の小赤を鉢の分だけ補充として買ってきた。・・・「一家族三匹」というのは深層心理学的に何か意味があるのかもしれぬ。

ここでコレを読んでいる方は「オカシイやん?」と気づくだろう。
だって先ほどまでくだくだ述べてた「針の先ほどの脳ミソ」の金魚なんだから。
でもこれは、水鉢利用のためと、屋外ならば鉢内部に生える苔もまた風情、玄関のインテリアともなりエサも毎日やらずとも生きながらえるヤツらだしとの思いゆえ。ベタのように「なかなか」などの思いもないし。

が、我輩も気づくべきだった。
当初の二家族の金魚、ある日突然、一匹がいなくなったのだ。
深くは考えず(うっすらとは「そうなんではないか?」と思ったが)今回、鉢分の家族揃った所で事件再発、そして解明。

ある日、小赤3匹が死体となって水鉢に浮かんでいた。
それも食いちぎられた無残な姿で。
そう、屋外ゆえ野鳥が喰いに来るのだった・・・。
ゆえにガソリン代使って遠方までたかが45円のを補充しに買いに走らねばならない。
野鳥よけにガーデン用のネットも必要だろう。
野鳥から隠れひそむ水草もいるだろう。
屋外とて金はやはりかかるのだった・・・。

★ウーパールーパー

そんな時、ペットコーナーで見かけたのが、TVコマーシャルで有名となったウーパールーパー。

通常二千円前後で売られているそれが、イベント展示の残りということで特価600円。手足の生えた両生類だ。
売り場に「唯一、会話のできる魚」とのコピーが小さく表示されているが意味がわからない。「会話のできそうな」魚なんだろうか。魚でなく両生類のはずだけど・・・。
売り場の年配係員に飼育方法尋ねても「さぁ、私よう知りませんねん」
だから「会話」のことを聞くのがもう可哀想でヤメた。

後日インテリアショップでブリキとガラスで作られた粋な小ぶりの器を見つけてしまった。
「おお、コレにウーパールーパーを・・・」と、その足でウーパーを買いに走ってしまった。
「しまった」と続くのは後悔したことに繋がるんだけど・・・「飼育しやすいですよ」とのその時の店員の言葉で二匹も買って、しまった。「会話のできる」の意味を聞くのを忘れて、しまっていた。

「しまった」こと・・・
壱;水温25℃以下に保たねばならぬこと。ベタと違い熱帯産ではないと知った。だから日中、扇風機で水槽を冷やしている・・・。
弐;育てば体長20センチほどにもなるらしい。水槽に入りきれなくなる・・・。
参;エサに食いつかねばピンセットで口元まで持っていかねばならぬ。ちょっとカワイイが・・・。
四;泳ぎ回れる広めの、でも水深浅めの水槽が必要。あ〜あ、面倒くさ。

ウーパーはとりあえず果物入れのガラス鉢に移した。
あのブリキ製の器にはポトスを活けている。
その器をみるたびに、これにベタを・・・などと思い始めている自分がイヤだ。

「ガジュ丸の動物記」(サカナ篇)完
※ウサギ篇は、241「うちはウサギの子、ダミンやねん」をご覧ください。

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