385「今夜の本!」10/2017のベストは?

11.17.fri/2017

ガジュ丸評価基準。
5〜4が「秀作以上ライン」、3.5は「損ナシの佳作」、3は「普通」、2〜1は「駄作ライン」。NF=ノンフィクション。※=再読作品。

★「今夜の本!」

01.「花の生涯」舟橋聖一/講談社/4.0
02.「名刀と怪談」本堂平四郎/双葉文庫/2.0
03.「奸婦にあらず」諸田玲子/文春文庫/5.0 ※

★探せども探せども

書きなぐって机上散乱の覚え書きメモ、そのメモのひとつに諸口玲子「奸婦にあらず」読後評価と共に「舟橋聖一」の名が。作品読むつもりだった文壇の大御所のことだ。

安政の大獄以降、悪の権化と言われてきた時の大老井伊直弼や、直弼の師であると共に懐刀であった長野主膳。明治新政府のかつての尊王攘夷派たちによって誹謗され貶められた人物だ。
「奸婦にあらず」解説によると、舟橋聖一(1904〜1976)代表作のひとつ「花の生涯」が刊行された昭和28年(1953)当時は、色濃く明治以来続く薩長史観が残っていたという(今でもかつての会津藩の福島県人は薩長末裔との婚姻を渋ると聞く)。明治政府が作った正史に基づく、尊皇攘夷の志士たちこそが正義で、対する旧体制の者たちは奸であり賊であるという史観だ(共産主義国家だな、まるで)。

舟橋さんは、内外ともに多難な時代を切り開き日本を変革させようとした優れた人物として井伊と長野を描いた。が、その「花の生涯」の存在があまりに大きく、以後半世紀の間、井伊と長野が共に愛した女性村山たかふくめての三者を配した歴史小説が再び書かれることがなかったというのだ。そこに新田次郎文学賞受賞の「奸婦にあらず」(2006)が登場。
我輩も悪の権化と思い込まされていた井伊直弼、粛清の嵐からただひとり明治九年まで生きた村山たかの存在に目を開かされ、直弼の無念の死を遂げた生涯に感動した読後感だったのだ。

で今回「花の生涯」探してみたわけ。
なのに地元書店、古書店では舟橋作品一作もなく(!)、ようやく図書館員が地下の書蔵庫から出してくれたた、ただ一点の作品が幸いにも「花の生涯」上下巻。早速読む。
さらに読後、諸田作品では?と「奸婦にあらず」再読。
うむ、長野、たかふくめ多田源左衛門、帯刀ら人物描写が作者によってはこうも異なるのかと、今度は彼らの実像知りたくなってきた次第。
とりあえずは原田伊織の”日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト”との「明治維新という過ち」(講談社)を読んでみようかと。
と、ココにこう記しただけではまた忘れ去るのでこれは要注意、だな・・・。

★奇しくも

読書前後のBS放送で、「歴史捜査 井伊暗殺事件の謎 桜田門外の変に迫る」「歴史街道スペシャル 築城410年彦根城」「ザ・プロファイラー 大老・井伊直弼の真実」が相次いで放映された。
そこで、茶道の精神を象徴する「一期一会」の四字熟語は直弼が初めて用いたと知ると共に、以下の直弼公御歌も。

「そよとふく 風になびきて すなほなる 姿をうつす岸の青柳」
小説でも述べられているが、直弼は柳の木をことのほか愛していたという。
風にも折れず、しなやかになびいてくちることなく緑を保つ。そんな柳の姿を心の有様の理念としていたと・・・。

惜しむらくは、開国前後の動乱期の人間模様を描いた第一回「大河ドラマ」(1963年放映。未見)原作がこの「花の生涯」だったこと。「花の生涯」「奸婦にあらず」ベースにあらためてドラマ化してほしいと思うほどの今月の推薦作!

★「名刀と怪談」

もう一冊が、刀にまつわる怪談奇聞28篇集。
東雅夫編ながら昭和10年初刊の復刻本。ゆえに内容構成ともに古すぎて・・・。
が、著者が剣客本人から直接聞いたという奇談もふくまれており(すごい時代だ)、他の作品も作り事でないとすれば捨てがたい短編集かも・・・。

★「今夜の名言!」

「世の人の心を惑わすこと、色欲に如かず、ともうすではございませんか。久米の仙人の、もの洗う女の脛の白さを見て、神通力を失い、女の髪筋をもて縒れる綱には、大いなる象もよく繋がれ、また、女のはける足駄にて作れる笛には、秋の鹿、必ず寄るとか申しまする。女こそ、魔性のもの。滅多に心は許せませぬ」

「花の生涯」より。長野主膳の定宿先、俵屋の和助が主膳を諌める弁。
直弼や主膳さえも色恋に心惑わされていたわけだ。あな恐ろしや、女・・・。

「今夜の本!」10/2017 完

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