386「お・し・ご・と」後編(現場)

11.22.wed/2017

★初日

投票前日の10月21日土曜は設営業務。

我輩、既報のようにこの2年余りは入退院の繰り返し。
それ以外は我が妻リ・フジンの、つまり山椒大夫の奴隷である厨子王丸のごとき精神状態下の日々。
で今回、墨丸閉店後初めての”仕事”となるわけだ。
眼球手術費用のおかげで自由になる持ち金もなく、厨子王丸が奴隷の身分から脱して給金もらえる世間に戻れた際の気分はこの我輩のソレだったんだろうか、あはは・・・と自嘲の笑い。
※手術のことは380「露出した臓器の話」参照。

台風接近で降り続く雨のなか、9時就業の10分余り前に投票所となる自治会館着。
入口閉まっているのか、軒下で中年男女が佇んでいた。無言で。離れて。
その”静寂”打破すべく、「おはようございます!・・・このお仕事初めてですか」と男性に明るく問いかけるも、「なんどか」との愛想のないご返答。へぇ、プロなんや、と思ってると会館鍵持参の中年男性と年配男性お二人相次いで到着。

我輩話しかけた方は、市役所の投票所担当者の一人だった・・・。
ここでいつもなら「アホやん」で締めくくるんだけど、責任者が会館開くのを雨のなかで待ってるなど誰が思うものか。で、彼を「役所人間ベム」と心のなかで呼ぶことにした。

女性が我輩と同じく派遣スタッフ。年輩者はシルバー人材センターから。中年男性2名が市役所職員。
この計5名で、土足入場可にするためホールにシート敷きつめ、生まれて初めて「投票箱」なるモノを組み立てた。計3個。そして計7箇所の投票用紙記入台の囲みも組み立てる。すべてがアルミ製。簡単至極な組み立て方式。同時に長形テーブルとパイプ椅子等配置し案内貼り紙各所に取り付け、はやばやと設営完了。

そして、明日本番の担当割り当て。
女性は「受付」、年配者「小選挙区」交付係、我輩は最後の「比例代表」と「国民審査」交付係となる。
その作業内容は?
送付されてきたニュアル、帰宅してから読まねばならぬのか・・・。
役所人間ベムさん「まだ時間ありますが1時間業務ということで」(ええとこあるやん。税金やけど)。で、この日のお仕事終了。

★感想

サラリーマン時代、イベント現場担当した頃の早朝深夜や風雨のなかでの設営撤去に比べるとこれで給金もらえるなんてありがたいことだ。かつて本日同様、台風接近の雨のなか、雨具なしで昼過ぎから翌朝までかけ屋外各所のパイプ椅子三千脚をたった3人で、ハンバーガーひとつの食事で撤去したという地獄もあったのだから・・・民間だと本日作業など見積もり5名、実質1〜2名で、経費浮かせての設営だな。選挙に何億もの税金要するの当たり前やわ。

★本番

22日日曜の投票日は季節外れの台風21号襲来の日。
豪雨のなか、規定の6時20分には余裕で自治会館着。
これから投票時間帯の午前7時から午後8時まで、私語・雑談禁止の長丁場。

新たに市役所から女性2名が参加していた。
彼女らは、名簿対照係。個人情報満載の選挙人名簿抄本を扱う故だろう。
昨日の男性職員お二人は庶務・補助係。投票事務全般の掌握も兼ねて待機。
我輩の業務は、まず入場整理券が受付済み、照合済み、小選挙区交付済みかの確認。入場からのルート順で漏れなどあり得ぬと思うのだけど、混雑時はもしかして程度の作業か。かと思いきや後刻、小選挙区交付担当の年配者さん、チェック漏れ一件あり発見。手間省いて我輩が代わりにチェックしておいてあげた・・・。
で「比」と「国」の交付欄に赤鉛筆でチェックし、入場整理券を回収。そして「比例代表」「国民審査」の投票用紙を説明して手渡す。棄権の場合は「キ」と記入し、投票用紙は回収。そして記載台へ誘導。整理券を「男女別」「キ」別に一定数づつ束ねて保管・・・。

本番前に以上のこと簡単に説明されたけれど、わけわからずスタートまで再度マニュアルに目を通さねばならなかった・・・これは実際やってみなければだ。そして一度こなすと簡単すぎる作業。
ま、今まで投票所担当者って全員役所関係者と思っていたけれど、大半が部外者だということ。マニュアルにも「市役所職員として見られているので注意」とあった。
で、実務がスタートして思った。
最高裁の裁判官審査ってどれだけの人が理解し可否を決めてるんだろ。
結局白紙で投票した場合は「棄権」範疇に入るんじゃなかろうか。それは「キ」に加算されるんだろうか。
なぁんて、せっかく問える機会だったのに気づけば未消化のままだった・・・。

聞くところによると、当該地区の有権者は千六百余名ほどらしい。
愛想のいいほうの市役所男性いわく「この地区の投票率は市内でも特に高いんです。けど台風で今日はヒマですよ。期日前投票も今回は多かったし」と教えてくれ、幸か不幸か、ホッ。すでに外の街路坂道は激流と化していた。

で、この日最終674名への交付。
・・・ま、休憩が計1時間あったけれど、六百回以上も同じ「説明」立て続けに繰り返してるともう舌が回らなくなってきて・・・たまにウロウロされるオバサンなどいらっしゃると、この機械的流れ打破してくれて嬉しいぐらい。この夜、何度も鳴り響く緊急避難情報の携帯メールも、嬉しいぐらい・・・。
しかし、すべての投票所がこの自治会館と同人数で対応するという。
台風でなければ来場者の多い投票所ではフル回転でゾッとするような仕事ではないか。タバコも吸えず私語も禁止、緊急避難もできずして・・・。

楽なのは「小選挙区」交付係だろう。
入場整理券の「小」欄チェックして投票用紙手渡すだけで。それでも年配者さんミスしてたわけだけど・・・。
担当したくないのは「投票立会人」の仕事だ。
常々この方々はお役所のお偉いさんかと思っていたけれど、ここでは町内自治会の役員さんのようだ。
前半と後半入れ替わって各2名いらっしゃる。ただ前を向いて座り続けているだけ。退屈極まりない仕事だろう。だから交代制なんだろうか。
で、そのあとお二人は午後9時半からの開票にも立ち会う。その「お礼」は図書券。金額不明。行き帰りは手配されたタクシー。夜食出るんだろうか。我輩など朝から晩まで、持参の小さな握り飯2個とタバコ2本吸っただけなんだから、他人事ながら少々気になった。

受付中、時々「あれ、Sさん、今日はボランティアですか」などと来場者に声かけられる。
ご近所さんなんだろうけどお顔みてどなたか確かめる余裕もなく、というよりオジサンオバサンら、もう皆同じ顔にみえてくるほど人間性喪失の流れ作業歯車化・・・これが言われたボランティアならば、「絶対したらあかんボランティアやで」と叫び返したかった。

はやばやと午後7時過ぎから余分なシート、記入台も各一台残して撤去開始。
その間にも奇特なことに豪雨のなか来場者続く・・・。
家族揃って来られるのは少々羨ましいか。
「ワシは自民や。なに共産党に一票やとぉ、アカか、お前はッ」なんて家族の会話できそうだし、国家を一家で支えているようで・・・。
そんなこんなで完全撤去、はや午後8時15分には終了。
二日間で基本9時間、 残業4時間45分の計13時間45分の「呑み代稼ぎ」のお仕事でした。

★感想

いわば一日限りのこのお仕事、各自名札を付けただけで挨拶紹介もなし。後日、何処かでどなたかにお会いしてももう顔も思い出せぬだろう、我輩にとっては泡沫的な、泡沫過ぎるお仕事。単なる機械の歯車だったという感想。そこに「油」というお給金はあるけれど・・・。
緊急避難情報で、役所の方々「終わったら避難場所に行かねば?」の会話に愚痴っぽさもなく、さらに今から開票業務に携わり明日は出勤というのだから、これにはご苦労様です、だ。が、お役所ゆえ残業手当も休日出勤手当もきっちりなんだろうなと思うと、そのねぎらいの気持ちは心からどんどん消え去っていったのでした・・・。

「お・し・ご・と」完

<戻る>