387「今夜の本!」11/2017

12.28.thu/2017

今年7月9日の墨丸OBOG会席上、墨丸会員541号テラ吉くんより贈られた新作文庫本のことは既報の通り。で、それを読み終えたのち「読んでみたいのある?」と彼にメール。
10月9日、それら文庫本持参し、7月のお礼方々針中野の酒場トアロードにて二人して呑む。
その席上またしても新作本進呈されての今月は、その「テラちゃん文庫寸評特集!」第A弾。

対象作品は、02〜06の5冊。
例によって、我輩ガジュ丸が書店で手にとり「買う!」作品には○を、「買わない」には×印をつけてみた。

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5〜4が「秀作以上ライン」、3.5は「佳作」、3は「普通」、2〜1は「駄作ライン」。NF=ノンフィクション。※=再読作品。

01.「出版禁止」長江俊和/新潮文庫/?
02.×「私刑」川中大樹/光文社文庫/2.0
03.×「冷蔵庫を抱きしめて」荻原浩/新潮文庫/3.5
04.×「終電の神様」阿川大樹/実業之日本社文庫/3.5
05.○「ノクターナル・アニマルズ」オースティン・ライト/ハヤカワ文庫/2.0
06.×「あなた、そこにいてくれますか」ギヨーム・ミユッソ/潮文庫/3.5 ※

★「寸評」

01.は、”出版禁止”となったある心中事件のルポルタージュにまつわる、これはウリ文句通り”異形”の作品。読後、ネットでこの作品結末についての解釈検索に至ってしまった。それでも我輩のような凡人にとっては評価「?」。異才の作家だ。著者他作品読んでみたし。

02.は、元犯罪者達を私的制裁する犯罪小説。購入×なのは、もう飽き飽きの猟奇殺人からむゆえ。で、一言でいうと「痛快。でも、軽い。深みがない」か。

反して03〜04.は、両作ともに「人生」が感じとれる秀作集。”集”ということは、我輩好みではない「短編集」なこと。ゆえに×。
が、いままで印象の薄い萩原さんだったけれど、本作はすべてが秀作。まさに「短編の名手」かと。けれども短編ゆえのコレは宿命か、「例えばこの作品は」と通常なら紹介するところだけれども、あの長寿番組「世にも奇妙な物語」をいつものごとく楽しく見終わり、時が経つともう内容ほとんど忘れてるに等しい読後感でもある。短編好みの方には評価4ともなるオススメの一冊だ。ちなみに表題作のテーマは、新妻が「過食症」に陥るお話。

翻訳小説2冊は、奇しくも共に今年の映画化きっかけでの復刻本。
05.は、「サラ・ウォーターズ、ルース・レンデルら巨匠激賞の名作」のふれこみで、購入意欲としては○の作品かつ読みはじめて「傑作」の予感。
避暑地に向かう大学教授の家族がハイウエイで三人の男が乗ったクルマに嫌がらせを受ける。昨今話題の”あおり運転”だ。そしての接触事故。「不甲斐ない」夫の教授は男たちに言われるまま妻子とは別の車に乗せられて・・・という小説の原稿「夜の獣たち」が、なぜか離婚した夫から元妻に送られてくるという劇中劇の展開。旧題「ミステリ原稿」
・・・この冒頭の展開が読ませる。けれども以降の、原稿を読む元妻の心理描写がくどい。日本人作家なら数行で表現するのではと最近の翻訳本に接すると時たまそう思うその典型本か。結局「だからなんなんだよ」で終わってしまったのは、それゆえの読み込み不足のせいもある。

06.は、10年ほど前に小学館文庫「時空を超えて」(旧題)で読了済み。ゆえに×だが再読してみることに。初老の外科医がカンボジアの奥地で治療のお礼にと老人に10粒の薬を手渡される。医師はその薬で過去に短時間タイムスリップができることを知り・・・。
・・・記憶というものは恐ろしいものだ。この冒頭の展開は覚えていた。大した作品ではなかった記憶もある。なのに、30年前に亡くした恋人を救うべく、主人公は過去の自分に会うというこの展開を完全に忘れてしまっていた。で、このフランスのベストセラー、再読すると「面白いやんか?」。前回は最後まで読んだんだろうかとさえ思えてきたほど・・・。
ま、両作ともに映画版も観よう!だ。

墨丸時代はこうして「自分なら買わないだろう」本をお客さん方が貸してくれては秀作に出会っていたものだ。こういう機会を大切にすべきだなとあらためて感じた次第。

★「今夜の名言!」

「すべてはあらかじめ運命づけられており、だれもそれを変えられない、と主張する人たちが道路を横切る前に左右を見る」(スティーヴン・ホーキング)

「本を読むだけでは何も学ばない。打撃を受けることでしか学べない」(スワミ・プラジュナパッド)

「名言」ではないけれど、「あなた、そこにいてくれますか」の主人公が「夢」について述べる以下の箇所が「なるほど」と。いわく・・・

「肉体と脳に課されたすべての活動と同じく、夢にもひとつの機能、ひとつの目的があってもいいのではないか・・・。だが、どのような?秘教じみた妄言はいくらでもある。が、いまだかつて、だれひとりこれに科学的な解答を与えていない」

「人材は、どうやったら育つのでしょう」
「伸びる人、伸びない人には違いがある。伸びる人は素直。成功してうまくいった時は”運が良い”と考え、失敗した時は”自分のどこに問題があったのか”と考える謙虚さがある。しかし、逆であることが多い。プライドが高くて、うまくいかないと他人のせいにしてしまう。本当はもっと伸びるのに。そこを改めることができたらうれしいですね」

(手帳にメモっていた誰かの言葉)

★11月の推薦作!

荻原浩「冷蔵庫を抱きしめて」
※一ヶ月近く、パソコントラブルでHP更新できず。25日ようやく復旧。
ただし11月の「今夜の映画!」は消滅してしまった。次回12月分と併せて掲載予定。また、永年企画倒れだった「年間ベスト作品」も近々公開!

「今夜の本!」11/2017 完

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