399「実録 / さっぽろの夜」(Dさっぽろの女)

3.13.tue/2018

今回「さっぽろの女」と題したけれど、これは皆さんご想像かもの生々しい話では、残念ながらありませぬ。「さっぽろ」で働いていた「ホステスさんたち」にまつわる世間話程度のことなんですけど、つい演歌の題名思い出してしまって・・・。

店で何人のホステスさんが在籍していたのか、もう半世紀近い過去のことゆえ定かではない。
ロシア人ハーフのママ、以前記した太ももに入れ墨の和服のちぃママ、「和歌山ブルース」が十八番の姉御肌の気のいい姉さん、共に主婦のカオルさんと前歯に隙間のある太った愛ちゃん、フランス人形ぽく化粧した派手な顔立ちのマリちゃん・・・我輩が働き始めた頃のレギュラーさんでいま思い出せるのは彼女たちぐらいか。でもみなさん、同棲中もしくは既婚者ながら、店では全員「独身」のふれこみ。

★キクちゃん

そうそう、前回「ヤクザ屋さん」で記したS組幹部が破門になる前、その幹部の紹介でキクちゃんという、我輩と同年代の女の子が短期間在籍していたこともあった。

当時我輩、この「墨丸亭綺譚」にたびたび登場の、学友モリちゃんの京都岩倉の下宿に日曜から月曜にかけて遊びに通っていた。そして「さっぽろ」での給料は京都四条河原町界隈での呑み代に散財・・・。
そんなある時、男子学生ばかりのその下宿屋でキクちゃん交え呑み会を催したことがあった。
さすがヤクザ屋さん関係の女性ということもあってか、六畳一間で雑魚寝したけれども手も握らずの関係だった。眠たげにもみえるまなざしが印象的な可愛い人だったけれど、敬愛する松山マネージャーが「キクちゃんはヤバイ女やから手を出すなよ」と忠告してくれてもいて。かつまた後年のサラリーマン時代同様、同僚女性にはなぜか異性の意識まったく抱けず、ましてや職場結婚して四六時中一緒なんてなぜできるのか理解の範疇を超えていた頃だ。今でもそう思うけど・・・(結婚したらこれはもうおなじような状況だ)。

キクちゃんはすぐに堺のスナックに移った。
我輩が「さっぽろ」辞めてからだったか、キクちゃんが我輩を呼び出してとモリちゃんの下宿に電話をかけてきたという。もちろん大家さんは「そんな人は下宿してませんが」と返答したとモリちゃんから聞き、我輩を探しているという話が何だったんだろうと今ごろ思い出してしまった(破門幹部をかくまってくれ、だったりして)。さっぽろの年上のホステスさんたちはもちろんのこと、キクちゃんももしかしたらもうこの世の人ではないかも知れぬ世代なんだけど・・・。

★マコちゃん

その後も我輩と同世代のマコちゃん、ユキちゃんという友人同士のふたりが入店してきた。
当初、我輩はバイクで店に通っていたのだけど、どういういきさつだったのか、その頃は松山さんのクルマで閉店後、自宅まで送ってもらうようになっていた。その頃のことだ、連載第一回「面接」での、松山さんの忠告「店内恋愛は禁止」が破綻してしまったのは・・・。

松山さんのクルマで送ってもらうようになり、毎晩のように松山さんに連れられ夜食兼ねて呑みに行くようになっていた。同じく送ってもらうマコちゃんユキちゃん入店後は共に。そして飲み代等はすべて松山さんが・・・で、松山さんに尋ねたことがある。
「マネージャーになると給料いいんですね」と。
で、松山さんいわく「内緒やぞ。レジの金ごまかしてる。安月給で毎晩飲み食いできるか?こうでもせんとやってられん」
こんなことを下っ端の我輩に打ち明けてくれるほど信用されていたわけだけど、なるほどとも思う。在日半島人の、酒も飲めぬ鉄工所社長のオーナーがケチなのは確かだったのだから。

ミーティングで社長から「遅刻、欠勤が多すぎる」との指摘があった。
で、各人に自覚と反省求められて我輩「アメとムチというんですか、皆勤賞とか設定すれば」云々と当たり前の意見述べたところ、ホステスさんたちに「よういうてくれたわ」と感謝はされたけれど・・・給料日、ちぃママに「スミちゃん、手当付いてた?」と聞かれ「ハイ、皆勤賞が」というと、「あんただけやで、付いてんの!」
うるさいこといわぬようにかどういう魂胆か、手当付いたのは我輩だけという、とにかくこんなことにも金を出し惜しむような社長だったのだから・・・。

マコちゃんは新人ながら客あしらいもよく若く色気もありで、たちまち店のホステスナンバーワンとなっていた。
お客がキープしたその夜のVSOPボトルを独りで空けてしまうほど飲みっぷりもよかった。そんな彼女がある夜、泥酔してしまった。
松山さんが我輩を店の隅に呼びささやいた。
「マコ、アパートに連れ帰ってくれ。そのまま早退していいから」
「え、先輩のオダさんがいますけど」
「いや、スミちゃんでいい」
薄々気づいてはいたのだけれど、松山さんはマコちゃんとその頃すでに同棲を始めていたのだった。「店内恋愛禁止」と面接時、我輩に命じたはずの松山さん自身が・・・でも好きだったな、こんな人間らしい人。
しかしさらなる事件が、我輩にとって「さっぽろ崩壊」につながるできごとが後日待ち受けているとはその時知る由もなかった・・・。

それはともかく、呼んだタクシーにマコちゃん乗せたはいいけれど、それからが大変だった。
クルマの中で抱きついてくるはキスは迫られるわ、アパートに着くと「マスターに内緒にするからぁ」と部屋に連れ込もうとするわで、我輩「ダメです、ダメです」と。

翌日、我輩の首の周りはしがみつかれた時のキスマークだらけであったが隠せるはずもなく、その夜のいきさつも言い訳もせず黙って仕事を続けていた。先輩のオダさんより信用してくれたんだから冗談でもマコちゃん、「夕べ、実はスミちゃんと・・・」なんてマネージャーにウソいってくれるなよと願いつつ・・・松山さん、キスマークを知ってか知らずかナニもいわなかった。

★ユキちゃん

問題児のような派手なマコちゃんにくらべ、彼女の友人ユキちゃんは物静かなタイプだった。
店ではダンスタイムがあり、バンドマン清水さんのギター演奏や御堂さんのムード歌謡をバックにお客さんがホステスさんと踊るのだけれど、お客が少ない時はどうしてもホステスが余るわけで、そうしたときに駆り出されるのが我らバーテンダー。
ある時、ユキちゃんと踊ってると、「スミちゃん、休みの日はいつも京都やね。そんなに京都好きやったらココ辞めて私と京都で働かへん?」「ハイハイ」と適当に返事してはいたのだけど・・・。

★クリスマスの夜

クリスマスの深夜、例によっていつもの四人でてっちり鍋の夜食をとった帰り、松山さんが「はい、着いた」とクルマを停めた。酔った我輩、自宅だと思い「ありがとうござ・・・」と降りようとすると、見知らぬ場所。「え、ここ・・・」といいかけるとユキちゃん、「ええねん、ええねん」と我輩の腕掴んでクルマから連れ降ろした。ラブホテルの前だった。
松山さん、マコちゃんらが示し合わせて・・・「店内恋愛禁止」ってどうなってん!

でも その夜、失礼ながら、大変失礼ながら好きでもないユキちゃんに指一本触れなかった。いや我輩、高潔な人間などではもちろんなく、墨丸常連さんご存知の「ウソまさ、エチまさ」に過ぎないんだから。前述の、バイト仲間や会社同僚に異性を感じない、ただソレだけのことで・・・だから結婚してしまうとコレは先ほど述べたように、同様のことだったんだけど・・・。

この日を境にユキちゃんはもとよりホステス連中の我輩見る目がイイようにか悪いようにか変わってしまったのは確か・・・が、ある事件で我輩への「ホモ疑惑」が一掃されるできごとが、これまた後日待ち受けていたのだった・・・。

「実録 / さっぽろの夜」つづく

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