472「今夜の本!」10/2019のベストは?

11.2.sat/2019

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「傑作」4「秀作」3.5「佳作」3「普通」2「不満作」1「駄作?」
NF=ノンフィクション ※=再読作品

01.「モジリアーニ・スキャンダル」ケン・フォレット/新潮文庫/2.0
02.「逃亡くそたわけ」絲山秋子/講談社文庫/4.0
03.「沖で待つ」短編集/絲山秋子/文春文庫/2.0 [芥川賞]
04.「最後の息子」短編集/吉田修一/文春文庫/2.0 [文學界新人賞]
05.「三陸海岸 大津波」NF/吉村昭/文春文庫/3.0
06.「傷だらけの店長 街の本屋24時」NF/伊達雅彦/新潮文庫/4.0
07.「亡者の家」福澤徹三/光文社文庫/3.5
08.「あの日のあなた」遠田潤子/ハルキ文庫/3.5
09.「さむけ」短編集/高橋克彦etc/祥伝社文庫/1.0
10.「死にたがる子」藤原審爾/新潮文庫/3.5

★「寸評!」

1978年のベストセラー「針の眼」の著者ケン・フォレットに「こんな作品あった?」と手にしたのが、「モジリアーニ・スキャンダル」
不遇の画家モジリアーニの贋作めぐる物語で題材としては好み。ベストセラー作家となる前に発表された約10作のうちの1作品という。
・・・途中から冒頭に戻って読み直した。登場人物が多すぎるのだ。酔眼と眠気で誰が誰だかわからなくなり、約20名の人物相関図したためながらようやく読破・・・「ようやく」の印象強しの、まさに「ベストセラー以前」の作。

精神病院に入院中の「あたし」が名古屋出身の「なごやん」誘って脱走。ボロ車で九州縦断の逃避行描いた「逃亡くそたわけ」
・・・題材から想像する暗い展開ではなく、題名から想像できるちょっとおかしな二人のことが印象に残る秀作。病院で投与されるクスリにやけに詳しいと思ったら、著者ご本人が躁うつ病での入院経験ありの方だった。で、絲山秋子さんのこと知りたく、続けて読みたい作家の一人となる。

江戸時代初期の1611年に起きた慶長三陸地震津波、1896年(明治29年)の明治三陸津波、昭和に入っては8年そして35年のチリ地震大津波。それら実態描いたノンフィクション「三陸海岸 大津波」(旧題「海の壁」)。
・・・1958年のアラスカ襲った史上最高の津波は500メートル(!誤植か?)の高さまで達したと本書で初めて知った。印象に残ったのが岩手県田老地区のこと。田老は「津波太郎(田老)」の異名を付けられるほど古くから津波被害が多く、村人のほとんどが全滅したとの記録もあり、人の住むのに不適当な危険極まりない地区といわれてきたという。8年の津波翌年から防波堤の建設をはじめ、33年には類を見ない大防潮堤が完成。その後も手を加え続け、35年チリ地震の際には死者もなく家屋の被害もなかったという。が、本書初出の昭和45年以後に東日本大震災で壊滅的打撃被ることになろうとは著者も住人も思いもしなかっただろう。県外人の我輩などいくら漁場豊かな先祖伝来の土地だろうとも落ち着いて住めやしないと、ただただ頭の下がる思い。

20数年の書店勤めを中途退職した著者が描く、ノンフィクション「傷だらけの店長 街の本屋24時」
・・・かつての墨丸には刑事から前科者まで様々なお客さんがいらした。が、書店勤めの方には墨丸のお客ふくめ、個人的にはお会いしたことがなかった。
以前、碧野圭「書店ガール」で書店の実態垣間見た思いだったけれど、本書でまさにそれは「垣間見た」であった。ただただ本好きゆえ過酷な業務にひたすら耐える日々と知ったいま、安月給、長時間労働ならば飲みにも行けんわなぁ、の感。

先月に続いての福澤徹三に加え、続けて読みたい作家となったのが「あの日のあなた」の遠田潤子さん。
・・・父が家族に入ることを禁じた書斎。その書斎になぜか日々飾られる百合の花。雨の夜、その百合を買いに出かけた父の事故死。生前記された手紙には「死後、書斎の書類には目を通さず廃棄。以降、書斎への立ち入りは厳禁」と。「この物語は読者をどこに連れて行くんだろう」という言葉想起の展開となる。が、、その「どこに連れて行く?」感が強すぎたか。単行本「お葬式」改題というけれど、本書の題もなんだかもうひとつ・・・。

文庫本の雄は新潮文庫。続くは文春文庫。そして末席に位置するは双葉文庫と祥伝社文庫。新聞のそれら新刊広告も毎回興味惹かず。
そんななか「祥伝社文庫復刊2017年リクエストbP」「名著復活」の帯キャッチコピーで手にした、著名作家9名による「戦慄のアンソロジー さむけ」
・・・くだらん。なんと全作が!

藤原審爾さんってヤクザや刑事ものの作家と思い込んで敬遠していた。
が、古本市場で見つけた「死にたがる子」は、隣家の少年の自殺がきっかけで新聞記者の主人公がその自殺原因を関係者への取材で究明しようとする話。で、このたぐいの著者作品読みたしとなるけれど、書店ではもう藤原さんの作品みかけずの時代・・・。
本書は1978年の作。この頃から死にたがる子が多かったのだ。本書では少年の自殺原因不明のまま終わるが、5〜6歳で幼稚園に放り込まれ、以降社会生活に適応すべくの教育が続き、生物としての第一義的な機能が育っていないことを一因としてあげている点が最も納得できる説か。

★「ガジュ丸賞!」

絲山秋子「逃亡くそたわけ」!

「今夜の本!」10/2019 完

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