491「私が死んだ夜」

5.27.wed/2020

★深夜の雨

5月19日の深夜2時すぎ、我が妻リ・フジンの「雨降ってきたから窓閉めてぇ」の隣室からの叫び声で起こされた。こっちは窓なんて開けてもいないのに・・・。

それで目がさめてしまい、居間のテレビ電源オン。
昔ならばこんな時刻、その画面はテストパターン(もしくは「砂嵐」)だったのに、いまや四六時中垂れ流し。朝は朝でバサッと届く新聞折込上質紙のチラシとともに、何もかもがもったいと思わせる終末的日々。「断捨離」なんてのも昭和の貧しい時代生まれの我輩にとってはゼイタクなイヤな言葉だ。

そんなテレビ画面ながめつつ、コロナ禍で番組作れぬのなら過去の名作ドラマもっと放映してくれよ〜と思っていたら、これはそう簡単なことではないらしい。
芸能人とヤクザの世界は紙一重という雑誌記事で、放映権云々の他に薬物事件等逮捕者らはもちろんのこと、裏社会に活路見出した消えた芸能人が多々存在するためだとか・・・そんな「あの人はいま」的番組ならこんな深夜でもみてみたい。

とりあえず録画していた洋画を観ることに。
寝起きの深夜ゆえ短時間かつ単純なのをと、78分のカナダのホラー「デス・アシスタント 殺・人工知能」選択。邦題からして面白くなさそうだけど・・・。
亡くしたばかりの母親そっくりの声で設定したアプリが、女主人公に邪悪な行動を指示し始めるというストーリー。で、アナログ人間の我輩など終始「なんでそんなんできんの?」で、こりゃ評価2以下だな・・・と、雨の音が妙に耳につきはじめた上映時間残り数分のところで座っていられなくなった。急に気分が悪くなって・・・。

★冷蔵庫に・・・

テレビの電源切ってソファに横たわった。
いつもならそのまま即寝入ってしまうのに、横になってもいられぬほど気分が悪い。
こりゃ心筋梗塞か脳出血かコロナか・・・このまま死ぬかもと末期の水じゃないけれどなにか飲む物をと、どうにかこうにか冷蔵庫までたどり着き、扉を開けた。
冷え冷えとした明るい庫内を、「カトンボ」が飛びまわっていた。

目を疑った。
冷蔵庫に?
蚊を大きくしたような、足の細長い、透明な羽を持つ、この季節になると室内に迷い込んでくる羽虫だ。
我輩はカトンボと呼んでいる・・・それが明るい庫内から暗い外には飛び出さず、捕まえようとすれど捕まらず、庫内を飛び回ってる。
・・・ますます気分が悪くなってきた。
冷蔵庫の扉を、閉めた。
「俺は助けようとしたんやぞ・・・」と思いつつ、再度ソファに倒れ込んだ。

水を飲むのを忘れてた。
ふたたび冷蔵庫まで這うようにしてたどり着いた。
冷蔵庫を開けた。
カトンボがタッパーウェアの上に転がっていた。
死んだかとつまんで捨てようとすると、暴れだした。
なんと、生きていた。
こやつが我輩の生気吸い取ってるんじゃなかろうか?
暴れるヤツをつまんだまま(こんなときヤツの足が取れたりするんだけどそれは無事で)窓を開け、外に放り出した。

ソファに戻って横たわった・・・。
自分が死にかけてるかもなのになんでカトンボ救助やねんと思いつつ。
夜中に意味なく目覚めさせ、冷蔵庫にカトンボ入らせる奇妙な状況つくりだす我が妻リ・フジンの、もう何百回目ともなる人格疑問視しつつ。
また水を飲むのを忘れてた・・・。
で、起き上がると・・・戻ってきた?

目の前の壁にぶつかりながらカトンボが部屋の中を飛び回っていた。
さっきのヤツか?
もう気が狂いそうだった。
壁にとまったソヤツを手のひらに包み込んで、こんどは慎重に窓の外へ・・・。

ますます気分が悪く、トイレによろめき歩きながら便器に座り込んだ。
膝の間に挟み込むようにして頭を下げた。
と、足の甲をゴキブリの幼虫が這っていた。
気が狂いそうというより、我輩はもう死後の世界にいるのだと思った。それも地獄に。
ゴキブリは、トイレットペーパーでつまんで流した。戻っては来なかった。たぶん。

★そして・・・

ベッドに倒れ込んだ。
また水を飲むのを忘れていた・・・。
が、もう起き上がる体力気力がなかった。
喉の乾きに苦しめられる夢を延々と見続けた。
・・・昼近くにようやくベットから起きあがると、枕もとに、手の届くところに、先日から置きっぱなしのポッカレモンのペットボトルがあるのに気づいた・・・。

★なぜこんなことに?

死後の世界にいたんだろうその前日の18日正午、弟アキオ夫婦が訪ねてきたのだ。

で、昼間っから焼肉とアルコール(昼酒キライな我輩なのに・・・)。
が、我輩この数日食欲なく、主食をずっと口にしていなかった。
この日も肉と野菜数切れ口にしただけで・・・ビール、日本酒のあと蕎麦焼酎をストレートで呑み続け・・・かすかに覚えているのは午後8時くらいまでのこと。
酔って我ら共通の知人に電話かけまくり、九州宮崎のモリちゃん(438参照)に皆で手紙を書き、彼を来阪させる費用補助として皆から金を徴収したことまではかすかに覚えていて・・・以降、完全記憶喪失。

二日後、ようやくアルコール口にする気になり焼酎呑もうとすると、買ったばかりの一升パック、カラだった。
ほとんど我輩が呑んだらしい。
気分さっぱりさせようと散髪屋にと財布手に取ると、一銭も入ってなかった。
モリちゃんカンパで・・・急遽、カンパ取りやめにした。
すみません、あの夜のみなさん。集金分、お返しします・・・。

私が死んだのは、こんな出来事が前座としてあったからでありました。
で、あのしんどさは、いつもの空腹時の痛飲による単なる(でもないけど)貧血でした・・・。

「私が死んだ夜」完

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