549「今夜の本!」(3/2022のベストは?)

04.09.土/2022

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「必読!」 4「オススメ!」 3.5「損なし」 3「普通」 2「不満!」 1「駄作?」
NF=ノンフィクション類 ※=再読 ?=ようワカラン

01.「プリズム」野中 柊/新潮文庫/2.0
02.「地下の鳩」西 加奈子/文春文庫/3.0
03.「ウェイワード 背反者たち」ブレイク・クラウチ/ハヤカワ文庫/3.5
04.「パインズ 美しい地獄」ブレイク・クラウチ/ハヤカワ文庫/3.5 ※
05.「ダーク・マター」ブレイク・クラウチ/ハヤカワ文庫/3.5
06.「敵討」中編集/吉村昭/新潮文庫/3.5

★「ガジュ丸賞!」

「プリズム」は不倫小説。
人妻が夫の友人と不倫する設定は、まぁよしとしても(あくまでも設定がです)、その不倫男が友人を裏切るという行為は男として許せずかつ理解できず。またその行為についての不倫男の心情描写もなく、それらだけでもう評価ダウン。

「地下の鳩」は、馴染みある大阪ミナミのキャバレーやオカマバーが舞台。
新聞連載の産経抄で「小説とは何か。読み終えたとき、セ・ラ・ヴィ、ここに人生がある、と感じさせるものだ」とのフランスの作家オノレ・ド・バルザックの言葉が引用されていた。そういう点では、オカマバー営むミミィの章は人生を感じさせてくれる一編。

2014年刊行の「パインズ」は衝撃的だった。
著者はデイヴィッド・リンチ監督のテレビドラマ「ツイン・ピークス」を意識したと述べているが、我輩は1969年にテレビ放映されたパトリック・マクグーハン主演の「プリズナーbU」を連想。
英国情報部員の主人公が辞職したその日、意識を失なわされ気がつくと孤島の村に。村ではbUと呼ばれ、脱出できぬその謎の村での奇妙な生活を送ることになる・・・のだけど、シリーズ後半はテレビのない下宿生活突入ゆえ未観となった幻の傑作・・・。

その「パインズ」は、パインズという美しい町へある捜査に向かった捜査官二人が行方不明となる。
彼らの行方を求め町を訪れた同僚の捜査官イーサンが交通事故に遭遇。病院で目覚めると、身分証、携帯電話など持ち物一切が見当たらない。捜査本部へも自宅にも、なぜか電話が通じない。不審に思い病院を抜け出すと、コオロギの鳴き声が・・・その草むらの声の主を目で追うと、それは巧妙に隠された小さなスピーカーからの鳴き声だった。そして、ようやく巡り合えた行方不明の同僚の一人ケイトは、36歳だったはずなのに、白髪の中年女性と化していて・・・。
なんなのだ、この物語は!だったのだ。
で、2015年(物語は完結したはずなのに)なぜかの続編2冊が発売。
が、我が発病とそれに伴う金欠重なり、買えぬままの続編ふくめての三部作、またたく間に店頭から消え去って・・・いったい続編には何が?と悶々。

そしてのこの3月、古書店で見つけたのが、その続編の一冊目「ウェイワード」
「パインズ」読了からすでに8年経過。貪るように読んだ、その長編の半ばまで。
・・・クソ、「パインズ」の結末はどうだったっけ?と「パインズ」後半を、再読(恐ろしいことに、まるで覚えていなかった後半ストーリー)。
で「ウェイワード」に戻ると、この人物は?となって、あらためて「パインズ」冒頭から、再読。
それで迎えた「ウェイワード」ラスト、「愛してる。心から愛してるのよ、アダム」で、我輩「え、アダム?どうなってんねん、なんでやねん!これはもう完全に”つづく”の展開やんか!ずるい〜!」・・・でもその3作目、どうすりゃ読めるんだ?(ネット注文をと思ったけれど、図書館にて取寄せ可となり、ホッ)。

その図書館にて、著者の4作目「ダーク・マター」発見。
「パインズ」三部作とは完全に別個の作品だ。
柳の下にいつも泥鰌はいないと期待せず読み始めると・・・。

二流大学の物理学教師の男が暴漢に襲われる。気がつくと見知らぬ研究施設のような一室。で、なぜか皆が歓迎してくれている?その施設から抜け出した主人公は愛する妻と子のいる我が家に帰る。と、家屋の内装が見覚えのない立派なものに変わっていて、妻と子の存在のかけらもなく・・・ようやく探しだした妻は、自宅で絵画教室を開いていた主婦でなく、男のことをも知らぬ、一流の女流画家の独身女性だった。そして自分自身は天才物理学者であることを知り・・・あ、これはパラドックスがテーマなんだな、と思いきや・・・のノンストップ・スリラー!

「敵討」は、ハズレのまるでない吉村昭さんの、史実に基づく武士の仇討ちを描いた作品。
著者は「歴史上重要な意味を持つ事柄のみを歴史小説として書いてきた私は、個人と個人の問題である敵討ちには全く関心がなかった」といいつつも書かれた2編。ではなぜ書かれた?
また「不倶戴天」という言葉は、自分の親を殺した人間とは同じ天の下で暮らさないという、「親の敵」に対する報復の思いを言い表す形容と初めて知るとともに、当時の仇討の苦労をも知ることのできる、埋もれた歴史の一端をあぶり出してくれた秀作!で、「ガジュ丸賞!」

「今夜の本!」(3/2022のベストは?)完

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