566「初秋、中秋、そしての晩秋 A」(曖昧な記憶:中編)

10.03.月/2022

今回は本題の「後編」掲載のハズだったけれど、先日あらたな「記憶」に関する出来事が発生。
で急遽、その出来事を「中編」として記す。

★欠落

バイトに出かけようとしたときのことだ。
たまたまその日、クルマが空いていたので「今日はクルマで行ける」とガレージに向かった。
と、クルマのキーを手にしていないことに気づいた。
出かけるまで5分ほどの余裕があったので、あわてずキーを取りに自宅に戻った。
そしてキーを手提げ袋に入れ、クルマのもとへ。
電子キーゆえ軽いドア解除の音とともにドアが開いた。
車に乗り込んだ。
座席に座り、シートベルト着用。
エンジンキーを回した。
・・・回らなかった。エンジンがかからなかった。

一瞬、故障かと思った。
で、キーを使って手動でエンジンをかけてみようとした。
・・・手提げ袋のなかに、入れたはずのそのキーが、なかった。

落とした?
座席の下を、ドアの外を、クルマの下をみてみた。
・・・ない。

座席近辺でキーを落としたならばエンジンに近接してるゆえ始動するはず。
ドアが開いたんだから身近にあるはず。
おかしい。
自宅玄関からガレージまでの数メートルを行きつ戻りしつつ路上に落ちているかものキーを探した。
・・・ない。
我が妻リ・フジン呼び、違う目で探してもらった。
・・・ない。
どこにも。跡形もない(この表現はおかしい?)。

余裕あったはずなのに刻々と迫るバイト就業時間。
仕事に遅れる旨を職場に連絡しようとした。
が、踏んだり蹴ったり。
ケータイを前日、バイト先ロッカーに置き忘れていた。
あわてて、予備の手動キーを探しに自宅に戻った・・・。

で、4年近くのバイト生活で初の10分の遅刻。
この日の土曜日、10人の職員のうちただ一人の正職員である地元の元市役所職員の館長はカレンダー通りの休みの日。
ゆえに我輩のぞいての勤務体制はこの日、窓口女性二名、館長代理男性1名。
我輩同様、全員がパート職員。
窓口の同僚女史に遅刻の顛末を話した。
「超常現象ゆえの遅刻」だと。
そのあと館内で出会った先輩の館長代理男性Yさん(元堺市役所職員)には「本日遅刻してしまいました」と一応報告。
と、Yさん「それくらいエエやん」
立ち話で「実は・・・」カクカクシカジカでと理由話すと俄然興味示したYさん「たいがいドアポケットに落ちてるもんやで」
「そこも確認済みです」
ならばとYさん自ら我がクルマの隅々チェックしてくれたあげく、「ないなぁ。これは道路やで、きっと」
ガソリン代金口座引落しのエネオスカードもキーリングに付いているゆえ拾われ悪用されたらと、我が妻リ・フジンにメール。
「再度道路捜索を!」と。
しばし後の返信「家の中にも道路にも、ない」

終始不安感にまとわりつかれての終業後、Yさんと交代の夜勤のNさんに「懐中電燈あります?」
「どしたん?」
「実は・・・」カクカクシカジカで、との話にこれまた俄然興味示したNさん「わしも玄関の鍵あけたとたん、その鍵見当たらんようになってなぁ。結局見つからずじまいで玄関鍵交換したことあったわ」(Nさんは大阪府警の元刑事。目が鋭い)。
結局、昼間確認しにくかった暗い座席下の懐中電灯による捜索も無駄に終わっての帰途、「もはやこの事態はホントに超常現象による未解決事件」と思ったとき、はたと気づいた。

注:ここからは手品の種あかし的な話なので、読まないほうがいいです・・・(読んでしまうでしょうが)。

気づいたのは、手元の手提げ袋のなかに「バイクのキー」があること。
あることは当初から認識していたのだけれど・・・「ここにバイクの?」とあらためて気づいたのだ。平常心にもどっていたのだ、この時点。
で、一瞬の行動の、無意識ともいえるその行動ゆえの記憶の欠落に気づいたのだ。

バイクキーは常々、ガレージ奥に駐めるバイクの横にあるロッカーのフックに掛けるのが習慣となっている。
が、前日バイクで帰宅した我輩、なぜかこのときバイクキーを手提げ袋に入れてしまっていた。
そしての事件当時、クルマのドアが開いた瞬間「バイクキーをフックに戻しておかねば」と手提げ袋のそのキーをフックに掛けたのが、バイクのではなくクルマのキーだったのだ!

これら一連の、一瞬の何気ない行動とその記憶が、キー消失という超常現象との思い込みにとらわれ・・・(ボケたのかも?でも昨今、ようやくアルツハイマー治療薬が開発されたというから、これは安心。年一回、脳のMRI検査も受けてるし)。

数日後のバイト日、Yさん、Nさんともに「キー、どうなった?」
手を振り苦笑いしつつ逃げるように無言で彼らのもとを走り去った我輩に、さすが元刑事のNさんは「気になるやんか!」と自白迫られ追い詰められ、ついには「手品の種明かしみたいで申し訳ないんですけど」と、自供してしまいました・・・。

「初秋、中秋、そしての晩秋 B」後編へとつづく

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