567「初秋、中秋、そしての晩秋 B」(曖昧な記憶:後編)

10.06.木/2022

★曖昧な記憶

かねてより新聞折り込み広告で気になっていたリサイクルショップの「閉店セール」を9月の折込みで知った。
ヒマな時にはその種の店をめぐり掘り出し物を手に入れ悦に入る我輩なのに、そのショップには出向かずじまいだった。というのも、現地が奈良県だったからである。

奈良といっても我が家にチラシが入るぐらいだから、大阪府K市の、奈良、和歌山との県境に位置する我が家からは行こうと思えば行ける範囲内のはずなんであるが、他県というだけで二の足を踏んでいた(堺市、大阪市のリサイクルショップへは平気で通ってるのにだ)。
で「閉店かよ」と、クルマを走らせることに。

手書き印刷のそのチラシのこれまた雑な簡略地図によると、K市からは国道310号線利用となるようだ。
310号線はK市にある名勝「観心寺」まではクルマで行った覚えがことがある。その先は未知の土地だ。
我が家のクルマはナビなし。車内常備地図はむかしの大阪府道路地図のみ。
ゆえに現地まで何キロあるのかも不明。
が、その国道、今回の副題「曖昧な記憶」に反し「見たことあるな」の風景が。はるかむかし、奈良方面からの帰りに利用したことのある国道だった・・・。

K市より南へ約25キロの走行で現地着。
「なんやぁ」である。
かつて自宅から墨丸店舗までクルマで通っていた距離よりも近かったのだ。
が、近くともこれは’行きつけ’のショップにはならなかっただろう。
国道はさみ、本店と二号店の二軒があるのだけれど、二号店などまるで廃品置き場。本店もジャンク品多しで気を引くブツまるでなし。
ま、閉店セール告知から日にちがたっているせいもあるだろうけど。

けれども、ロング缶ビール1ケース36缶が1500円というバカ安のブツがあった。なんと一本40円ほど。ロング缶で。
というのも、賞味期限切れ(食品も期限切れが売られていた)かつ韓国産のリキュール(発泡性)ビール・・・。
健常者時代の我輩、リキュールビールはおろか発泡酒ビールも不味すぎて手にもしなかったというのに、病気後遺症の味覚喪失のおかげというか、それらをいまは平気で呑んでいて・・・で、2ケース購入。
が、そんな店なのであまりにも短時間のショッピングとなってしまい・・・

さてさてと、そこで思いついたのが548「12/28/2021」(会えぬ友)での、音信不通となった紀北在住(のはず)K・Tくんのこと。
紀北ならば目と鼻の先だ。
かつての彼の家を訪ねてみようかと今度は西へとクルマを走らせた。

ただ、我輩が知る彼の家は中学時代に一度訪ねたっきり。
小さな山村ゆえ、クルマが入れる道なんてあったかしらんである。
とにかく行ってみることにした。地名のみ頼りに。ヒマだし。

そんなドライブゆえ、どんどん山の奥へ入ってしまってUターンしたり、次にはこのままだと高野山まで行っちゃうんじゃないかと心配し始めたころ脇道にそれてみると、その村名の立て札が・・・。

が、まるで見覚えのない風景。
川沿いの道をはさんで人気のない数軒の民家あるものの、それらも、ましてや川なんてまるで覚えがなく、こんな所じゃなかったはずと、これも見知らぬ神社前の空き地にクルマを停車。
いま来た道の背後の山肌みると、木々の間に線路が見えた。
かつてK・Tの家は電車の車窓から見えていた。
線路のすぐ下に畑が広がり、その畑の右手に玄関を畑側にしての平屋の一軒家だった。
だから駅から近かったはず・・・駅に行ってみようと山に向かって歩き始めた。

山の下から急な石段が曲がりくねって上へと続いている。
それも踏み幅の狭い、手前斜めにすり減ったそれを、雪の降り積もった日なんて滑り落ちるんじゃないかと思いつつ登って行った。
と、クルマ一台通れるほどの道幅の道路に出た。
道の上のほうの木々の間に駅舎がみえる。
が、その駅舎の上も下も、急な山肌のみではないか?
一軒の家も、まして畑なんぞがあるはずもない山の斜面に位置するその駅の周辺。
はるか下方に先ほどの神社と数軒の家が見えるけれども、K・Tの家らしき建物も、ない。
中学時代の記憶はいったい何だったんだ?

見下ろしてのK・Tの家屋に似た平屋といえば、先ほどの神社左手の奥の山肌に一軒あるのみ。
あそこだったんだろうか?
駅からは遠すぎる距離や見覚えのない川や神社の場所だけど・・・と、いま居る道の下側の斜面にへばりつくように狭い敷地の墓地があった。
どれも苔むした墓石と墓石前ふくめても1メートルほどの幅しかないそれが竹やぶの中に二段に分かれて。
ざっと見てみたけれども新しい墓石は見当たらないようだ。
ということは、彼は存命か。
で、駅舎まで行かず、さきほど下方にみえた平屋の家に行ってみることにした。

クルマを駐めた空き地から川にかかる小さな橋を渡り、神社の境内に入る。
その神社の由来など記した立て札もなしの由来不明の神社前を横切ると、消防団の倉庫があった。
K・Tに村の消防団員だったと聞いたことがあったが・・・その倉庫の隣家軒先に繋がれた雑種犬が吠え立てる。
その家の前を通り抜け、例の平屋が上方にみえるところにたどり着く。
が、その家屋、ブロック積みの倉庫状の建物だった。とても人家とは思えず。

で、引き返すと先ほどの雑種犬が再び吠えだし、玄関先に人が出てきた。
これ幸いと訪ねてみた。
「ご近所にKさんのお宅がありませんでしょうか?」
その老婆、愛想良く「ああ、K・○さんね?」
「いえ、K・Tって方と同級生だったんで彼を訪ねてきたんですが」
「お父さんの○さんは亡くなられて、でもK・Tさんはいま頃はお母さんを病院に連れて行ってるから留守ですよ」といいつつも「発電所の先を曲がって・・・」と親切にK・Tの家を教えてくれた。

その発電所前に駐車し、坂の上にある二軒の左側の家を目指した。
発電所も、この坂道も、たどり着いた二階建て家屋もまるで見覚えがなかった。が、表札には確かにKと書かれてある。
倉庫に軽ワゴン車が一台駐められている。
在宅なんだろうか?
呼び鈴を押してみる。応答なし。入口の鍵もかかっている。やはり病院に行って不在なのか。
いつも持ち歩いている手帳のページ破り取り「電話くれ」と走り書きし、ポストに入れる。

が、いま現在、連絡はない。
ま、生きててよかった、K・Tが。
そういえばK・Tとともに仲の良かった、九州の炭鉱町から転校してきた岡くん、我輩が「赤鼻のジョー」とあだ名した、中学生なのに満足に字が読めなかったそのジョーらは共に行方不明だとかつてK・Tから聞いたことがあった。
こうして旧い友から順に我輩の周囲から消えていく・・・が、中学時代の「記憶」って、いったい何だったんだよ〜?!

「初秋、中秋、そしての晩秋 B」(曖昧な記憶)完

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