6.18.火./2024
[今夜の本!]
ガジュ丸評価基準。
5「傑作!」 4「読み応えあり!」 3「普通」 2「不満!」 1「駄作」
NF=ノンフィクション系 ※=再読 ?=ようワカラン ×=断念作
映画評価も以上に準じます/評価4以上がおススメ作!
1.「ソハの地下水道」NF/ロバート・マーシャル/集英社文庫/4.0
2.「子供の死を祈る親たち」NF/押川剛/新潮文庫/3.0+
3.「ネグロス島戦記 マンダラガン山に果てし戦友よ」NF/池 平八/光人社NF文庫/3.0+
4.「ちっちゃな捕虜」NF/リーセ・クリステンセン/高文研/4.0
ソ連西方に位置するポーランドの都市ルヴフ(現ウクライナ領リヴィウ)舞台の「ソハの地下水道」は、1943年、ドイツ軍によるユダヤ人絶滅作戦から逃れ、ルヴフ地下に張り巡らされた下水道に逃げ込んだユダヤ人市民の記録。悪臭、湿気、飢餓という劣悪かつ暗黒の生活に耐え切れず次々と自害もしくは地上に戻り殺害される人々がいるなか、ソ連軍侵攻までの14か月間、その地下で生き延びたグループがいた。彼らが高さ1メートル余りの居住空間から脱出後、腰が伸びず、風景が「赤」一色にしか見えなかったという。
米ソ冷戦期に次々と翻訳された、核戦争や天変地異による人類滅亡小説と共に読み漁ったのがこのユダヤ人迫害テーマの作品群。が、昨今のパレスチナ問題知るにつれ、今に生きるユダヤ人はかつて迫害された側の子孫なんだと、複雑な気分。
同じく大戦末期、フィリピン戦線の日本軍一兵士のジャングル彷徨記が「ネグロス島戦記」
この大戦末期テーマ本もかつて読みふけった。いまも忘れられぬ作品は、のちに白骨街道と呼ばれる”最悪の戦場”描いた高木俊朗「インパール」(むざむざ生き残った指揮官牟田口廉也中将に憤怒すること必至)。大戦末期、絶海の孤島アナタハンに取り残された人々の生死を描いた大野芳「絶海密室」(桐野夏生「東京島」のモデルともなった事件の実録小説)、江崎誠致「ルソンの谷間」(谷川の木の枝に引っかかった敗残兵の死体が日を追うにつれ風化。ついには死骸が川の中に崩れ落ちてゆくラストの描写が忘れられぬ直木賞受賞作)、五味川純平原作と小林正樹監督の大作映画ともに傑作の「人間の條件」。
日本人にとって衝撃的なノンフィクションは、”日本軍抑留所を果敢に生きたノルウェー人少女の物語”「ちっちゃな捕虜」
ジャワ島の収容所に家族と共に収容された少女リーセは当時10歳。彼女の、ナチスの強制収容所思わせる地獄の収容体験記なのだ。韓国慰安婦問題が新聞紙上で取り上げられるなか、南方での白人女性の強制慰安婦については詳しく知る機会がなかった。本書で著者がいう「数多の兵士や船員、市民、女性、そして子供が、極東で日本軍の手にあって経験した地獄についてはあまり知られていない。まるで何かの都合で一掃されてしまったかのようだ」という点については本書で詳しく述べられている。が、収容所解放後のその白人が地元民に虐殺された記述が数行のみで、「ネグロス島戦記」での日本兵収容施設に連日押し寄せる日本兵への怒りに満ちた地元民の描写同様、加害者でもあったことの記述があまりにも少ないこれら作品にも複雑な気持ち(加害者視点での日本のノンフィクションもあるが、極端な思想偏向ありでまともな作品とは思えず)。ただ、リーセらを虐待した兵士が実は韓国兵だったという事実には少々救われる思い。が、白人女性を慰安婦として強制連行したのはまさに日本兵で、戦後、15年の刑を宣告された彼ら戦争犯罪者12名は、1958年、全員が無条件で釈放されている。
「子供の死を祈る親たち」は、著者前作「子供を殺してください という親たち」と共に”どのような子育てが子供の心を潰すのか?”に関心ある方、必読か。
[今夜の映画!]
5月全24鑑賞作中、心に残るは何度目かの鑑賞作である、山田太一原作、大林宣彦監督の1988年作「異人たちとの夏」(再鑑賞でも評価4.0)。
このコーナーでは再鑑賞作はベスト選出対象外だけれど、昨今の”不作”続きゆえ、今後は無視。そしてこの映画、いい、ひたすらいい(原作も。いや、山田さんの小説はどれもこれも、いい)。そして、風間杜夫、名取裕子、片岡鶴太郎、秋吉久美子ら出演者たちも、いい。浅田次郎「メトロに乗って」同様、亡くなった親しき人たちに出会うというテーマが、我輩好みなのだ。思えば我輩幼少期から「怪盗ルパン」や「名探偵ホームズ」なんぞに見向きもせず、「15少年漂流記」「ロビンソン・クルーソー」などの愛読派。で、前述の高評価作品ふくむ、これら極限の世界描いた作品群プラス、タイムスリップ的テーマも我輩、好みなのだ。今も書店で見かける、ケン・グリムウッド「リプレイ」は1987年世界幻想文学大賞作。ついでに、古書店でももう見かけぬ、偶発戦争の恐怖を描き涙なしでは読めぬユージン・バーデック「フェイル・セイフ」)も必読ですぞ。
5月のワースト作品は、前述の桐野夏生「東京島」(評価1)の映画化作品、篠崎誠監督2010年作「東京島」。観始めてすぐ早送りしての「断念映画」となった学芸会ドラマ。
[今夜の名言!]
あのねぇ、人って、恋愛で高まってる期間って三年ぐらいしか続かないんだって。いまさら、そんな、有効期限のあるものにああだこうだ振り回されたくない。
(テレビドラマ「9ボーダー」)
結婚生活は浮き沈みがあり、たまに光るけど、普段はベージュや灰色。
(伊吹有喜「娘が巣立つ朝」)
またカラスが夢に現れこう言った。
「お前の父親が死ぬ」と。
どうすべきか悩んだが、結局、父に話した。
父は「心配するな」と言ったが動揺しているのが見えた。
翌朝、父は落ち着かぬ様子で朝早く出かけ、なかなか戻らなかった。
戻った時はひどい顔だった。
死の恐怖にさらされた顔。
父は母に言った。
「今日は人生で最悪の日だ」
母は「もっと気の毒な人がいる。今朝、牛乳配達の人が玄関で倒れて死んだの」
(ティム・バートン監督2003年作「ビッグ・フィッシュ」評価4.0)
「今夜の本!映画!そしての名言!」(6/2024)完